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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
王都の裏路地、砂漠の宴、今年も塩は大わらわ編
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614 気を利かせ

 海辺の街と砂漠の都市を、本来ならば移動するだけでかなりの期間を要するところを便利なスキルを持っていて安易に行ったりきたりできるため伝書鳩的に間にはさまれ両者の言いぶんを託されて、ひんひん泣きつつ行ったりきたりするメガネ。

 その、たもっちゃんにしかできない仕事が一段落するのを待っている間に、とりあえず塩でも作っとくかと私も一応気を利かせてみたのだ。

 そしたらキミ、これよ。

 慣れないことはするもんじゃねえなと思いました。

 まあ、よく考えたら当然である。自前の塩で利益を得るのは問題しかなかった。

 塩組合の権益を侵害するのもダメだし、冒険者はギルドを通さず現金で利益を上げてはいけない。

 ギルドの規定に関してはギルド職員に話を通してきっちり記録してもらうなどの裏技はあるが、借金の返済として自前の塩を作ったり持って行ったりすることを許容してくれていた塩組合にこれ以上負担を掛けたい訳ではないのだ。ないんです。ちょっと気が利かないだけで。

 私はおとなしく今年の塩をそっと隠したし、これはなんか、砂漠の民たるハイスヴュステの村とかのおみやげなどにしてみたらええんとちゃうやろか。

 また、じゅげむがアーダルベルト公爵塾の生徒であるためにこれまで以上にちょくちょく顔を合わせる公爵にもこの塩組合とブーゼ一家の件はすぐにバレ、だから言ったでしょ……。みたいな感じでものすごく、しみじみと遠慮ないあきれを示された。

 アーダルベルト公爵は先んじて、テオの借金が終わった時に新しい契約としてまた塩を納入するのなら塩組合には話を通しておいたほうがいいと利権に配慮した的確なアドバイスをくれていたので、このあきれはものすごく順当なのだ。

 こうして、海と砂漠を連日行ったりきたりして、じゅげむのお勉強がある日にはその送り迎えも担当するなど忙しくしていたメガネは塩についての大体の交渉と契約が終わってからはっと、よく考えたら俺が毎回行かなくてもシュピレンのブーゼ一家とクレブリの塩組合に通信魔道具でも配備しとけばよかったんだった! と、嘆いた。

 かわいそうだった。

 と言っても、普通の通信魔道具は引くほどに高価だ。たもっちゃんのお手製ならばその心配はいらないが、自分で作る手間はあるのでメガネががんばることに変わりはなかった。コスト的な比較とかは知らない。

 それと、これは全部終わって余裕が出てからよさそうな別案を思い付き、くやしがるメガネを見ていて思い出しことだが、冒険者ギルドなどの組織を通して遠隔地とのメッセージをやりとりする方法もあった気がする。

 ただこれも料金がそれなりにかさむので、だとしたらメガネを走り回らせるほうを選ぶな。と、私は一人で思い付き一人で考え一人で納得した。


 そんな、数日に渡って伝書メガネがひたすら走り回るだけの活躍により、塩組合とブーゼ一家の取り引きは無事に成立。

 冒険者ギルドを通して正式にクレブリからシュピレンまでの塩の運搬を依頼され、「はいはい! 持って行けばいーんでしょ!」と逆ギレ気味のメガネと一緒に我々も納品にだけちゃっかりと同行。こう見えてちゃんとお仕事してました。みたいな空気をむんむんに出し、仕上げの辺りにだけ参加してはちゃめちゃやり切った感を味わっておいた。

 いや、アイテムボックスをなんらかの魔法と見せ掛けるためただただびっかびかに光るだけの無意味な魔法陣はレイニー先生のお仕事なので、基本レイニーにびったりマークされている私も付いて行くことになったのだ。そしたらほら。もうみんなで行ったほうが早いじゃないですか? 知らんけど。

 元々はレイニーが私にくっ付いているのに、レイニーに用があるからついでに私が連れて行かれるこの感じ。逆転してんのよ。手段と目的が。

 あとは砂漠ついでにその果ての、ハイスヴュステの水源の村――アルットゥらの集落へと立ちより、今年は密造になってしまった人工岩塩をメガネやレイニーの魔法で急いで乾かし仕上げたものを証拠隠滅をかねたおみやげとして配り歩いたりもした。砂漠の村ならバレないかと思った。

 塩は助かると感激したのかなんなのか、カレーの民たるミスカが執念込めて作り上げたこだわりカレーをまあ食えとお礼に振る舞ってくれた。なんらかの、エビっぽい肉がごろごろしてておいしかった。

 そうしてこそこそと暗躍を続け、しばらくのち。

 我々は、某エーシュヴィッヘルにいた。

 植物素材で編み上げた背負うタイプの大きなカゴと、金属の細長い板を真ん中で二つ折りにした火バサミを装備したメガネが、トングのような形状の火バサミをがっしょがっしょとうるさく開閉させて言う。

「栗拾いなう」

「たもっちゃん。そう言うさ、逆に新しいみたいな中年の開き直りホントどうかと思うよ」

 私も背負いカゴと火バサミをしっかりと装備し、完全に栗を拾うためだけに今ここにいる。

 もちろんテオやレイニーもいるのだが、彼らは一応のように火バサミを手にしているだけで、カゴまでは背負おうとしなかった。グッドルッキングはノリが悪いのだ。

 けれども、今回の栗拾いに関しては彼らが正しかったとすぐに解ることになる。

 寒冷なエーシュヴィッヘルの国土をおおう異世界栗は、あまりにも頑強で、そのちくちくと針のような外殻はもはや凶器になるほどだ。

 じゅげむは安全のためメガネが練り上げた搭乗式ゴーレムに乗せられて、子供が乗ってもまだ少し余裕のあった座席の横にはちんまりと白い毛玉のフェネさんもいる。

 そしてその、もったりと丸っこいおっさんみたいなシルエットのゴーレムの背中に、金ちゃんがひしとしがみ付いていた。

 我々がいるのは森だった。

 エーシュヴィッヘルの暗く黒い森だ。

 異世界栗はエーシュヴィッヘルのどこにでも我が物顔ではびこるが、鋭いトゲの先端を全方位にちくちく向けるイガグリはバカと言うほど頑強で、百年朽ちないとも聞いた。

 森にはそのイガがばらばらと散らばり、フェネさんの肉球やサンダル履きの金ちゃんにてきめんなダメージを与えてしまうのだ。

 ゴーレムは魔力でしっかり練り上げているので、かなり頑丈だとメガネがやたらと自慢した。その中にさえ乗り込んでいれば、じゅげむやフェネさんも安心だった。

 できれば天衣無縫の裸足でいたい金ちゃんもたまらずゴーレムによじのぼり、普段とは位置関係が逆転しているトロールと子供はじわじわといつまでも噛みしめていたいような味わいがあった。

「きんちゃん、しっかりつかまっててね。ぼくがはこんであげるからね」

 金ちゃんを背中に張り付けたゴーレムを操縦しながらに、じゅげむはキリッと使命感たっぷりに請け負った。頼もしい。

 では、どうして我々がブルーメを出て、このちくちくとしたエーシュヴィッヘルの森にいるのか。

 このことを説明するには、まず言い訳から入らなくてはならない。

 まず最初に訪ねたのはブルーメとエーシュヴィッヘルの間にはさまれた、絹眠る国。

 ザイデシュラーフェンの首都だった。

 春が終わり、雨季がきて、国を閉ざす氷が溶けてそろそろ栗の輸入が始まってはいるのではないかと。

 はっと思い出したのはメガネだ。

 なんか、霧に閉じ込められた砂漠の村で食材を下ごしらえする途中、まるで天啓でも得たかのように「栗に呼ばれてる気がする!」と急に空を見上げるなどしていた。

 それで取り急ぎザイデシュラーフェンの、王女様に婿入りしている某王子を訪ねてみたのだが、ようこそ! と力いっぱい出迎えてくれたのはよかったのだが、今年の栗はまだ入ってないらしい。

「まだ国境の氷が溶け切っておりませんので、あいにく……」

「そっかぁ……」

「師匠、用が終わったからとすぐお帰りになることはありません。お座りください。ひさしぶりではありませんか。師匠。つもる話でもいたしましょう。お座りください」

 あいにくの言葉に落胆し、じゃあこれで……みたいな感じでそそくさと腰を浮かせ掛けたメガネを王子がずいずい押さえて止める。

 少しめきめきと成長した王子は通信魔道具での連絡も減ってきて、師匠離れが進んできたかと思っていたらそうでもなかった。

「叙勲についても聞きました。師匠、お祝いを申し上げます。身内が……姉上が……ご負担をかけてはいないかと心配していましたが……今もしていますが……ブルーメの父上が師匠たちを目に見える形でねぎらったこと、わたしも本当にうれしく……うっ……」

 王子はテーブルの向こうで腰掛けたソファの上から体を伸ばし、こちらで立ち上がり掛けた中腰のメガネをつかまえていた。そしてつらつらと若干早口に思いを語ったかと思うと、最終的にナチュラルに泣いた。

 あにでし、だいじょうぶ? と、じゅげむに心配されていた。

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