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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
怪しい奴と怪しい話は大体ウラがあるっぽい編
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581 下世話な疑問

※怪しいセミナーやネットワークビジネスに対してゴリゴリの偏見と当てこすり描写があります。ご了承ください。

※当作品は異世界を舞台としたファンタジーフィクションです。

 このとんだ拝金野郎め!

 まあまあお金のことが好きすぎる自分のことは都合よく大事に棚に上げ、私は事務長をののしった。

 いや、ののしるって言うか、お金に釣られてやべえのと引き合わすのやめてよと、割と真っ当な普通のことしか言ってないはずだ。

 それなのに、事務長はまるで心の底から訳が解らないみたいな顔をした。

「金になる。世界もよくなる。しかも金になる。どこに不満が?」

「金になるって二回言ったな……」

 我々の信頼関係が金に負けた瞬間である。

 と思ったけど、よく考えたら最初から税収と言う名の金で結ばれた腐れ縁だったわ。

 なるほどね。

 そりゃーなんかしょうがねえなと改めて、金に糸目は付けないと言うラファエルから一応話を聞くことにした。

 だってお金、嫌いじゃないから……。

 そうして話をよく聞くと、まあやっぱり本題は並々ならぬ波動を感じる私の、この私の作ったステンドグラスを譲って欲しいって話だったようだ。

 あと色々気になるままに質問しその答えを聞く内に、お金だけでなく彼らにも意外に罪はなさそうなことがじわじわと解った。

 じゃんじゃらといかがわしげな空気に反し、ラファエルたちの活動は大体が慈善に全振りの内容だったのである。

「逆にどうして」

 思わず声に出たのは私だが、どうして。こんなに……こんなに怪しいのに……。そのあふれ出る詐欺系セミナー感は一体なんだって言うの。

 この失礼すぎる私のリアクションをどうとらえたか、ラファエルはなんだかやけにピュアに言う。

「神の奇跡をお借りするのだから、善い行いをするのは当然!」

「そっかあ」

 神の御業とか言い出すからレイニーか講演終わりにありがたい石かなんか買わされるスピリチュアル系のセミナー的なやつかと身構えていたが、マジで世界をよりよくせんと奮闘している団体らしい。

 ……ホントかな……こんなにチャラくてなぜそんな……。いや、チャラいのはまだいいのだが、看板が怪しすぎんのよ。

 しかしその活動内容は主に、病人があると聞けばどんなにさびれた寒村もいとわず自ら訪ね、生まれ持った治癒能力に磨きを掛けたラファエルがじゃんじゃらと治して回ったりすることなどだそうだ。

「えー、でも。お高いんでしょう?」

「お金なんか! 取るはずがないでしょう! 受け取ったところで神に届けられる訳でなし。僕達の望みはシンプルです。世界に! 平穏を! 人々に! 安息を!」

「それ決めゼリフなの?」

 やばみはすごいが意外に害はなさそうと、肩の力を抜いたメガネがラファエルとそんな軽口を叩く。

 あとなんか、ラファエルの後ろに並んでことのなりゆきを見守っていた彼の連れらしき団体が平穏と安息のセリフに合わせて「世界に」で体を右に倒し、「平穏を」でビョンと飛びながら両手のこぶしを天に突き上げ、「人々に」で今度は体を左に倒し、「安息を」でやはりビョンと飛んでいた。なぜなの。

 どうしてもぬぐい切れない売れないアイドルと取り巻きのオタクみたいな雰囲気はともかく、よく訓練はされている。

 しかし彼らの言う通り活動を通じた金銭のやり取りが発生しないなら、私の頭にはまた別の、下世話な疑問が浮かんでしまう。

「うーん、あのさ。どうしても気になっちゃうからもう普通に聞くけど、治療でお金取らないとしたら資金はどこから? 私のステンドグラスに糸目を付けないっつう、その潤沢な資金はどこから?」

 人間て、機嫌よく息してるだけで経費発生するじゃない? 生活費とかの。やだよね。旅ともなると宿代も掛かるし。切ないね。

 だからラファエルとその同志らの、そこそこの人数で移動し続けるにはまとまった資金が必要になるのではないのか。

 そして私の、この私が作った並々ならぬステンドグラスに糸目を付けずつぎ込まれる予定のお金は本当に大丈夫なやつなのか。

 そのお金、受け取っちゃうとあとから怒られるやつではないのかい? なんらかの保証はあるのかい? そんな私のゲスな疑問に「わかる」とメガネが理解を示す。

「そうだよね。アバンギャルドすぎて誰も理解できない作品に投資してドブに捨てるお金って、表に出せなくてあり余って困ってるって感じするもんね」

「たもっちゃん。ドブっつった? 私の作品に投資するお金、ドブに捨ててるっつった? なあおいこっち向けよ」

「いやでも事実は事実だから……」

「違うだろ。今の話は私の芸術センスが息してないとかそう言う話ではなかっただろマジで。いや息は私も感じないけども」

「リコ……元気出して……」

 言い争っていたはずが、なんだか急にメガネがしんみりした顔である。いやいやでもね。ほら。あれじゃない?

「芸術ってほら。あれよ。あれ。どれだけの人に受け入れられるかって側面はあっても、誰かが正解を決める訳ではないみたいなとこもある訳じゃないですか? だとしたら自分の好きにやるしかねえみたいなとこもあると言えなくもない訳じゃない? そしたら、ねっ? 私の芸術センスも、ねっ? その内に認められる日がこないとも限らない訳じゃないですか?」

 それこそあれやで。新しい時代のソリューションやでえ! と言い出した私に、「あー。くっそ雑なのに急にそれっぽい事言う」とメガネが首を振り、我々にはたまによくある突然始まる言い争いは一応終わった。

 資金元について全然追求できてないので終わるべきではないのだが、なんかわーわー言ってたら気が済んでしまった。完全にただの気のせいである。

 クマの食堂の厨房でおろおろしすぎて逆に落ち着いてきたらしきジョナスに「お茶もらえる?」などと言いながら、たもっちゃんと私はその辺のテーブルに適当に着く。

 そしてクマの店主がのしのしと運んでくれたあったかいお茶を、二人で同時にごくりと飲んで、ふう、と落ち着き息を吐いて問うた。

「それで、なんの話だったっけ?」

 大事なことを勢いで忘れるの本当にやめたい。


 ラファエルと言う男について。

 我々はそんな話をしていたような気がうっすらとする。多分だが。

 その人は数人の同志と共に、国中を旅していると言う。

 優しく清潔感のある容姿。

 ゆるやかにウェーブを描く豊かな髪は伸びるまま背中に流されて、少し淡い茜のような、黄色掛かった赤色が光を含んだかのような、どこか甘い浅緋色で膝に届くほど長かった。

 輝かんばかりの白シャツにタイトめな革のベストとズボンを合わせ、手にはじゃらじゃらブレスレットや指輪が目立つ。

 そして首元のペンダント、胸元のブローチにまぎれて、まあまあ最近なんかどっかで見たような、国王からの勲章が付けられていることに気付いたのはしばらくしてからのことになる。

「ねえ、勲章やっぱ雑に配りすぎじゃない?」

 持ってるけど。我々も持っているけども。

 勲章て、社会的信用を担保しそうな感じあるじゃないですか? それを怪しいのが持ってたらさあ。なんかさあ。あかん気がします。

 疎遠だった同級生とか親戚に、強引に誘われ断り切れず参加しちゃったセミナーでなに一つ解らないまま怪しい健康食品を買わされてしまった人間にこそ、なんらかの救いが欲しいじゃん。国によるクーリングオフとかの。

 動揺のためか、私は口の中でだくだくとした固唾的なものをごくりと飲んだが、これはまだ私がラファエルのかもし出すいかがわしい空気に引きずられているだけだった。

 そもそもいかがわしさは多分ないほうがいいのだが、ラファエルは別に怪しいセミナーを主催してはいないし、石や健康食品を売り付けてもなければ、今は買う側だけど親になれば利益が出るわよとネットワークビジネスを持ち掛けたりしてもいないので完全にこちらの偏見が暴走しているだけなのだ。

 関係ないけど最近はネズミ講のことまで横文字にするから、一瞬解らなくて恐いなと思いました。

 彼は言う。

 私のリアクションに戸惑いながら。

「せみなー? は、よく解らないけど……この勲章は、僕達の活動を認めて下さったかたの推薦で以前頂いたものです。その……何の得にもならないのに旅をしてまで、何故人を治すのかと、怪しまれる事も多いので……。身の証になるものが必要だ、と……」

「怪しい自覚あったんだ……」

「悲しいね……」

 たもっちゃんと私は訳の解らないよそ者として塩対応を受ける姿を想像し、なんだか寂しい寒々しさを覚えた。いや、我々も訳解んない奴みたいな扱いをされがちとかそう言うことでは決してなくてね。泣いちゃう。

 まあそれで。資金はそうして慈善活動に賛同した人から出ているそうで、用途についてもラファエルに一任されていると言う。

 あと、各地を回り癒しの力で病を治すラファエル氏。男じゃなくて男装女子だったわ。

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