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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
世間体としがらみと、ちょっとなに言ってるか解んない編
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560 三枚のカード

 こうして公爵のセッティングにより公爵家当主の立ち合いのもと、品よく豪華に飾られた公爵家の応接間で我々と対面した冒険者ギルドの職員は、挨拶もそこそこに三枚のカードをテーブルに並べた。

「こちらが新しいギルド証です」

 我々は、それを見て「せやった」と思い出す。

 そう言えば、遥か昔にそんな話もあったかも知れない。

 具体的には若武者感でいっぱいの姫様と大森林での冒険に羽ばたいて行く前の、さらに我々が先んじて一回大森林のエルフの里で一ヶ月うだうだする前に、我々も冒険者ギルドのノルマとか最近ぶっちぎらなくなってきたなと思っていたら普通にぶっちぎってはいたものをギルドのほうで止めてただけで、王家とも親交があるのにちょくちょく罰則ノルマためてたら外聞とか悪いじゃん。だから姫の大森林行きについでに冒険者ギルドからも人出しておめーらの試験もかねとくわ。

 みたいな話を、冒険者ギルドのえらいおじいちゃんから言われていた気がする。

 今、よく手入れされ輝くような応接用のテーブルに並べられた三枚のカードは、その結果と言うことなのだろう。なのだとは思うが、なんかもう全然訳が解らない。

「あまりにも記憶が昔すぎて」

「リコ、そんな昔じゃないから。一か月とかだから。俺も体感としては解るけど」

 もはや記憶があやふやでなに一つ定かではないみたいなリアクションの私に、たもっちゃんがしっかりしてと言いながら割と素直な同意を示す。

 その指摘をよく噛み味わい思い返そうとしてみると、冒険者ギルドのおじいちゃんからノルマについての裏工作と忖度試験についての話を聞いたのは大体、先々月くらいのことだったはず。

 一ヶ月とちょっとの時間によって記憶がふわふわになってしまっているが、確かにそう言う会話はあったのだ。

 公爵家の応接室には「せやった」「せやったな」と言い合いうなずくメガネと私、新しいギルド証を受領するため同席を求められたレイニーと、すでにAランクの肩書きを持ちギルド側から提案された忖度試験には関係ないもののパーティメンバーとしてテオ。それからこのお屋敷の主人である公爵が、それぞれソファに腰掛ける。

 そしてその我々と低いテーブルをはさむ形で相対するのは、やり手の事務職感のある中年男性のギルド職員だ。

 彼がテーブルの上に並べて提示した、カード型のギルド証にはそれぞれ持ち主の名前とランクがしっかりと、専用の書体で記されている。

 あとこれはぜひとも誰かに聞いてもらいたいのだが、たもっちゃんのギルド証にはふさわしいキャリアを積みAランク冒険者であるテオも見たことがなく、ギルドの人も初めて書いたと言う「Bランク:ただし集団作戦はDランク相当とする」の注意書きがあった。

 お前ギルド証でまでコミュ障さらされてるじゃねえかよと、うっかり死ぬほど笑ってしまい、ギルド職員が新しいギルド証の受け取りにサインを欲しそうにしてるのに気が付くのが遅れてしまったし、その日のおやつは私だけが煮干しだった。なんの情けかうまみ成分だけは摂取させてもらえたが、同類を笑いすぎるとこう言うことになる。

 これまでのギルド証はもう使えないので特殊なインクで本人がでっかくサインした上でばっきり二つに折ってギルド職員が回収し、アーダルベルト公爵も確かに受け渡しに立ち会ったむねを一筆書いていた。思ったよりも手順がちゃんとしてて引いている。

 我々は以前もぬるっとランクを上げてもらえたことがあったが、その時はこんなチェック態勢はなく、新しいギルド証を窓口で渡され、以前のカードはそのまま回収されただけだったと思う。

 もうこの記憶もかなりふわっふわではあるのだが、だとしたらギルドとしても施設外でのギルド証の受け渡しには神経を使っていると言うことなのか。

 それと、これはそんなに大事な話ではないかも知れないが、新しいギルド証はメガネだけでなく私やレイニーにも用意されていた。

 私はCランク。

 レイニーはでたらめな魔法の実力により、Bランクとなった。

 また、そんな我々のギルド証にもそれぞれ「ただし集団作戦はDランク相当とする」の注意書きがあり、執念深いメガネから「おめーらもコミュ障認定されてんじゃねーか!」と突っ込まれたが、まあそれはいい。

 いつでもどこでもひたすら草をむしっていただけなので、むしろよくランク上げてくれたなと意外な気持ちが強いくらいだ。

 私は思った。

「罰則ノルマの日数はDランクと変わんないから別にいいのにがんばってCランクにしてくれてんの忖度を感じる」

「そう言う事は、口にしなくて良いからね。止めなさい」

 思ったことが全部声に出ていたらしい。

 にっこりほほ笑む公爵が私をじっくりたしなめて、テオが高速で浅く何度も頭をぶぶぶぶとうなずかせていた。はい。

 こうして冒険者ギルド懸案の、我々のランクをむりくり上げるために画策された忖度試験は決着となった。

 いや、でも待って。

 よく考えたら武者姫の大森林行きに同行したのは我々と、姫のお付きのメンズや騎士たちだけだ。

 忖度ありきで大森林行きに便乗し、我々の行動を微に入り細に入り監視して採点するための冒険者ギルドから差し向けられた姑は、いなかった気がする。

 なのになぜ、我々はランクを上げてもらえたのだろう。あれか、行きすぎた忖度で試験官すら必要なかったとでも言うのか。

 ――と、思ったら、さすがにそれは考えすぎだった。

 冒険者ギルドからやってきたやり手っぽい事務職員は仕事を終えて帰り際、私からの疑問を受けて「あぁ」と今気が付いたと言うように答えた。

「冒険者としてランクを極め、王城の騎士に取り立てられた者があったので。今回はそちらに」

 王室としても我々のランクが上がるなら色々と都合がいいのではないかと言うことで、騎士を貸してくれたのだそうだ。

 その話が事実なら、武者姫のお供の騎士にまぎれて我々を採点した姑がいたことになる。

 いや、まぎれてって言うか、その人もちゃんとした騎士らしいのでメインの仕事は姫の護衛で我々の試験がついでだったのだろう。

 でもなんか。なんかさあ……。なんなの。

 私の心にはびゅうびゅうと、裏切られたような気持ちが吹き荒れている。

「姑がステルス……」

 思わずそんな呟きが、ごくりと口から勝手にこぼれた。

 あんなに姫や我々とわあわあごはん食べといて、裏では超冷静に採点してんだぜ。

 その辺の隠密より忍んじゃってますね……。


 なんと言うか、思ってもなかったところで我々にショックを与えて冒険者ギルドの事務職員は去った。肩の荷がおりたみたいな顔だった。

 まあそれで話は終わったのだが、なんとなくショックが抜け切らず「姑……」と思ったままでのろのろとそれぞれが草を蒸したり、備蓄の料理を作ったり、蒸した草を干したり、備蓄のおやつを作ったり、草を干してお茶としたものをカバンや袋に詰めて肌身離さず強靭な健康を付与したり、備蓄のお惣菜パンを作ったりして時間を潰した。

 ただしこれはメガネや私だけのことで、レイニーはいつも通りにレイニーであり、テオは退屈してきたフェネさんを公爵家裏の鍛錬場に連れ出して古布を固く結んでボールのようにしたものを渾身の力でどんどん投げてよく駆け回る神の分体の白い毛玉を可能な限り疲弊させるお仕事。そこに金ちゃんが乱入し、いつの間にか公爵家の騎士がまざって相撲大会や異世界ポロなどの別の遊びが始まったりと、無尽蔵の体力を持つ人ならぬものと全力で付き合ってくれていたようだ。

 一方、じゅげむは公爵家の有能執事のところの子供のノルベルトと一緒にお勉強したり、大森林のおみやげにごちゃっと渡した大量の木の実をノルベルトの鑑定スキルで一つ一つ見てもらい、普通、いいやつ、すごくいいやつ、と分ける遊びをしている中で、いっぱい虫がいるって出た。どうしよう。と、ほぼほぼ泣きながら相談にきた。虫は平気でもあんまりいっぱいは恐かったらしい。

 こちらとしては、渡りに船である。

 どんぐりめいた木の実の無事なものも保管のためによく乾燥させることにして、虫がいるやつは残らず回収。たもっちゃんに一回念入りに冷凍してもらい、息の根を止めてからアイテムボックスにしまい込み預かると装って忘れた頃に廃棄することとした。

 ある日ふと、なんとなく子供の荷物を見てみたらうじゃっと小さき命がうごめいているのを、私とかが発見してしまうちょっとした事件は回避した。よかった。

 我々の平和は守られたのだ。

 こうして、比較的平穏に、秋を王都でいくらかすごし世界の一ノ月も下旬に差し掛かろうかと言う頃になる。

 王城がようやっと、今回の我々に対する方針を決めたらしいと知らされた。

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