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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
世間体としがらみと、ちょっとなに言ってるか解んない編
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556 蜂起

 それらはいつも通りの顔をして、臣として入り込んだ王城で持ち込んだ武器を振り回して騒いだ。

 王は国を滅ぼそうとしている。

 国は貴族のためのもの。

 平民は平民として役割を果たすべきであり、特別に取り立てるのは道理に反する。ましてや人族ですらない、獣族やエルフを人と同列に扱うは神への裏切りにも近い。

「これを許す現在の王は、もはや王を名乗るに値せず、と」

 そう言う理屈だったのだろう。

 こう語るのは疲れた様子の王様だ。

 王城内部で蜂起したために、反乱分子は玉座の足元へとたやすく迫り一方的に自らの正義を突き付けた。だから王様は自分の目と耳で、反乱の様子を目の当たりにしている。

 彼らは王と王のありかたを批判すると同時に、自慢げに、いたぶるようにこうも告げたのだそうだ。

「姫はすでに捕らえたと。仲間が大森林に先んじて入り、網を張っていたのだと。そうとも知らず、わずかな守りで物見遊山に訪れるとは愚かしい。そう聞かされた」

「お父様、わたしは真剣に遊んでおりました。物見遊山ではございません」

「姫様……少々言葉をお選びに……」

 けれども、姫は無事でここにいる。

 あまりに元気でちょっと訳の解らないことを言い、お付きのメンズに小声でたしなめられているほどだ。

 無事でよかった。無事でよかったけどもさあ、心配してんだよこっちは。

 王様や、共に騎士に守られて同席している王妃様の顔には、なんかそんな疲れが見えた。

 これは私が勝手にそう察しているだけなので、本当はもうちょっと優しく上品な心持ちでいる可能性もある。王様と王妃様はセレブリティなので。

 しかし、言葉はどうあれ気持ちは解る。

 このタイミングで娘が危険な場所にいて、しかも自分に刃を突き付けている相手から姫は預かったみたいなことを言われているのだ。心配である。

 あとほんと、そんなことになってるとは露知らず、帰りが遅くなって申し訳なかった。

 今は夜。

 夕暮れと共に始まった反乱は、結構すぐに制圧されたそうだ。

 そもそも計画がかなりざっくりとずさんで、大森林で姫を捕らえると言うのも大森林に入ったらとりあえず休息地には行くやろと大体の感じで予想して冒険者になりすました反乱分子がそこで待ち構える作戦だったようだ。

 でも、大森林の休息地……今回、行ってないから……。

 大森林に入ってすぐに直接キャンプ地に飛んじゃって、待ち構えてたって奴らには一秒たりとも会ってない。

 この大森林の伏兵については王城で蜂起した反乱分子を尋問する中で判明し、それを受けた王城からの連絡で大森林の間際の町の冒険者ギルドや派遣された兵士によって現在制圧作戦中だそうだ。

 また、そこに兵を送るためついさっき我々が戻ったルートを逆向きに転移魔法陣で移動したところ、移動先には魔法使いに偽装した反乱分子の手の者が途方に暮れていたと言う。

「一応、大森林で姫を逃してしまった場合の保険に転移魔法陣を押さえてあった様だ。あれは外から魔力を送らねば転移できない仕組みだとか。ならば、手として悪くない。……脅しているのに話も聞かず押し通り、どう言う訳か自力で転移する相手でさえなければ……」

 判明している反乱計画のあらましを話して聞かせる王様は、最後の辺りで言葉をごにょりとにごらせてどっと疲れたみたいな感じをかもした。

 その様になんとなくフォローを求められている気がして、たもっちゃんと私はとにかく言い訳をひねり出す。

「急いでたんで……」

「早く帰んなきゃいけないのになんかずっとわあわあうるさかったんで……」

 そして外から魔力をそそぐべき転移魔法陣を内側から起動させたのは、夕食の時間を守らんとする生活態度に厳しいレイニーなので……。

 帰りに通った転移魔法陣でのできごとについてはめちゃくちゃ身に覚えがあるのだが、あれ、もしかして待機してたのいつもの公務員的魔法使いじゃなくて反乱分子がなりすましてたのか。

 そら転移魔法陣、起動してくれない訳ですわ。

 帰られたら困るんだもん。そらそうや。

 こうして話を聞かされてこちらの身に覚えとすり合わせて行くと、王城での反乱は我々がやっと大森林を出て帰りを急いでいた頃とちょうど同時刻のことだったようだ。

 もしも反乱分子の計画通りなら昨日の内に姫は囚われていたはずで、実際に王様をおどす材料に使われたかも知れない。

 しかし姫は無事である。元気いっぱいに大森林を満喫していた。

 この時点で計画自体が破綻している気がするのだが、反乱を実行した貴族らは自分に都合よく考えがちなタイプだったようだ。

 仲間から連絡はないけれど、姫の帰りも遅すぎる。きっとあちらもうまくやったはず。

 と、都合のいいほうへ当て込んで、張り切って計画を実行してしまったらしい。

 いやそうはならんやろ。

 私ですらそう思わずにいられない、楽観主義がそこにある。

 だが、それはどやろかと言うほかにない貴族主義の理不尽な動機で国王への反乱と言う張り切った犯罪計画に踏み切りながら、顛末がこうもぐだぐだなのには理由があった。

 なぜならば彼らは、計画を実行する以前からすでに残党だったのだ。

 本来ならばもっと周到に準備して、もうちょっとだけ慎重に振る舞えるリーダーがいた。しかし、これは王の命によりすでに討伐されている。

 そう、我々が割と最近砂漠の民の集落で出会った、その時点でも怪しくて隠密にびっちり内偵されていたパワハラ商人――を、さらなるパワハラとなんらかの薬でいいように使い反乱計画を進めていたとうっすらと話に聞いたような気がしなくもない貴族。あいつのことだ。

 いや、あいつって言うか、直接的にゴリゴリとパワハラのムーブメントを浴びせ掛けてきた商人はともかく、チラッと話に聞いただけの貴族のことは本当に印象にないのだが、反乱をたくらんだ証拠が充分に集まったから討伐に兵が出されたと、あとから聞いて知り合いのリッチなパパくらいに思ってた王様のピリッとしたとこを垣間見てドン引きしたのは割と記憶に新しい。

 あれかあ、と。思ってもいなかった変なところへ話がつながってしまい、なんだかちょっと遠い感じで天井を見上げる我々に王様は少しだけその辺りの話にも触れる。

「アーダルベルトに聞いていたか。その、反乱を主導した貴族は……うん、もう問題はないのだ」

「ぼかしたぁ」

「多分えぐい話ぼかしたあ」

 今さら遅い感じはするのだが、王様は為政者としての厳しい顔を見せまいとでもするように、かなり言動がふわっふわだった。

 しかし、我々は数々のフィクション作品で訓練されている。その王様のふわふわしたとこを逆に深読みしてしまい、たもっちゃんと私は泣き言のように突っ込みながらおっかねえじゃんと勝手に震えた。

 けれども、ほら。相手は反乱などを計画してた訳ですし。王から差し向けられた軍隊がお縄に着けいと行ったところで、もめない理由がないじゃない? こわいね。

 ただなにがあったか詳しくは我々に知らされることはなく、とにかくそっちは大丈夫なのだと言うことだけが強調される。

 これはメガネや私の現代的な弱メンタルを気遣ってと言うよりは、じゅげむが一緒だったことが大きかったと思う。子供への配慮。ありがたい。

 まあそれで、王様のふわふわとした話によると、比較的ちゃんとしていたと思われる主要なメンバーは王様の命により先んじて問題のない状態されている。

 そうなれば勝機はないと空気を読める者も手を引いて、残るのはやだやだ反乱成功させて自分の都合のいい国にするんだいと言い張って、こう……なんと言うか、色々と厳しいメンツだけになってしまっていたようだ。

 そんなのに遅れは取らんよ、と。王様は「ははは」と笑ったが、そばで聞いてた王妃様から「城内での蜂起は許してしまいましたけれど」と優しげな声で、しかし的確な指摘を受けていた。それ。

 反乱分子の主要な貴族は軒並み潰したし、それに追従するだけの小物がまさかことを起こすとは。いや参った。はっはっは。

 みたいな感じで王様は笑い話にしていたが、そのできごとが今日、それもついさっきあったかと思うとなにもおもしろくない。むしろ真顔。王様マジなのと、我々真顔。

「やだあ。しんどい。やだあ。なんかうまいこと平和な国でいてくんないとやだあ」

「それ。俺も。解るそれ。俺もそう思う」

 実は結構やばかった感じに私はめそめそしちゃったし、たもっちゃんも解りすぎると同調し、それはそれとして話す間に時間が経ってお腹を空かせた金ちゃんがメシはまだかと私の頭をぼよんぼよん叩いて弾ませて、情緒を含めてもはやしっちゃかめっちゃかだった。

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