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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
世間体としがらみと、ちょっとなに言ってるか解んない編
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554 感謝を捧げる

 エルフや姫のお付きのメンズらが体を張ったこともあり、ドラゴンさんを迎えるための宴会料理は守られていた。

 軽いお菓子には吹っ飛んでしまったものもあったが、それはなぜだか次々と金ちゃんが拾うと見せ掛け流れるように胃袋に消したのでもはや最初から存在しなかったかのようだ。

 精神、肉体の両面で地面にめり込むドラゴンさんをギリギリセーフとばかりに元気付け、最初は気まずくもそもそと、やがて主賓のドラゴンさんに感謝を捧げる宴会はやいのやいのとやけくそめいた盛り上がりを見せた。

 大森林の開けた場所にいくつもテーブルを合わせて並べ、騒ぐ姿は外から見ると奇異で危険だったかも知れない。

 魔道具で張った障壁はドラゴンさんの圧力で壊されたままだが、しかし秋の大森林で活発に跋扈するはずの魔獣の心配はしなかった。

 そもそもエアストドラゴンがいると、ほかの魔獣は一目散に逃げ出してしまうものなのだそうだ。我々としては助かるが、なんとなく王の孤独みたいなおもむきもある。なんかこう、元気出してくれよな……。

 姫が吟味し用意した食べ物に、ドラゴンさんは「みんなよいね」と、なんでもほめるおばあちゃんみたいな感想をよせ、また呼んでねえ……と帰って行った。

 やはり触れるもの全て破壊する勢いで、強力すぎる自分の魔力で色々とふっ飛ばしてしまったショックから立ち直るには時間が足りなかったのだろう。むりやり盛り上げた宴会が悲しみにまみれてしまったのは残念に思うが、その反省を次回に活かして今度は平穏な集まりにしてもらいたい。


 夜である。

 原っぱに直接並べたテーブルやほとんど綺麗に消えた料理を片付け、我々は野営の準備を整えた。

 騎士らは再起動した魔道具で、ちょっとした体育館ほどのドーム状の障壁を作って姫の安全を確保する。

 予定にはなかったエルフらも夜の移動は危険と言うので野営地でお泊り――と言う話になり掛けて、障壁のスペース的にも問題はなかったが、よく考えたらメガネのスキルでドアからドアへ送れるじゃねえかと聡明な私の気付きによって普通に里へと帰って行った。

 ごく一部の偏愛主義者からはエルフと一緒にキャンプして心の距離を縮めたかったなどと黒ぶちメガネのレンズの奥に秘められたどことなくぐるぐるとしている真剣な瞳で無念を語られてしまったが、だとしたら私は本当にいい仕事をした。さすが私。さすわた。これは夜中にこっそりごほうびのラーメンくらい食べてもいいやつですね。なるほどね。

 また我々はキャンプと言う名の野宿に対して体力の限界しか感じていないので、レイニー先生に賄賂を渡しムダに光る魔法陣を作っていただいて、持ち運べるエルフの古民家をぽいっと出して宿とした。

 翌日に疲れを残さないと言う強い意志。

 しかし我々の体力的には当然の帰結であるこの行動は、冒険に夢が羽ばたいている武者姫には怯懦なりと不評だ。

 姫は無頼に憧れているので、兵士と同じく簡素なテントですごすのだと言う。

 彼女は知らない。

 こちらでございますと姫のお付きのメンズらが抜かりなく整えたテントは、たまに王様が狩りを楽しむ時とかに不便なくすごせるように家具も入れられる大型のもので、くつろぎに全振りした超豪華なやつであることを。

 あと姫もお風呂はやっぱり入りたいっつって、同じ障壁ドームに設置したこちらのエルフの古民家でゆっくりかぽーんとあったまって行った。我々は文明に飼い慣らされているのだ。

 そうして一夜をすごし、朝。

 大冒険の始まる時がきた。

「姫様、獲物が参ります!」

「よし、手筈通りに散開せよ! 油断するな! ドラゴンの素材で鍛えた剣の切れ味を試してくれる!」

 ふはははは! と、高笑いが聞こえてきそうなテンションで武者姫がキリリとメンズや騎士に指示を出し、自らも武骨ながらになめらかに輝く剣を抜く。

 その姫の近くには、やはりこれもどっしりと実用一辺倒の風合いの厚い盾を持った騎士がいた。もちろん姫の守りはそれだけではないが、大森林の間際の町のドワーフがドラゴンさんの素材で打った武器や防具の実力が今まさに試されようとしている。

 騎士たちに選ばれ追い立てられたほどほどの魔獣が、身構えるメンズのほうへと駆けてくる。その中心で守られ、華やかな鎧を付けた武者姫は手にした剣の先端を魔獣に向けてにったり笑んだ。

「――こい!」

 と、腹の底から響き渡る声を出し、武者姫はどすりと重たく踏み込むとわずかに姿勢を低くする。同時に複数の盾役が獲物を囲み、全身の力でぶつかって暴れ回る魔獣の動きをぐいぐいと抑えた。

 そうして作られたわずかなすきに、姫は素早く、まるで焼き立てのケーキでも突くようになめらかに輝く武骨な剣をぬるりと魔獣の首に刺す。あっと言う間にあざやかに、大人のウシほどもある大きな魔獣は仕留められ、どう、と地面に重たく倒れた。

「お見事でございます!」

「さすがでございます!」

「うん、そなたらもよく働いてくれた!」

 すかさず周囲のメンズが主人をたたえ、主人たる姫は姫で部下たちをほめた。

 それから、まだ少女の姫には重たげな、ドワーフの鍛えたドラゴンの剣をそばのメンズに渡しつつ「これはよい剣だ!」と称賛するのも忘れない。

 はちゃめちゃ楽しそうだった。

 午前中だけでもこのくだりが二回、三回とくり返されて、武者姫はなかなか順調に接待されているようだ。

 なぜなのかいまだに解らないのだが、一応の引率である我々は責任を恐れる一心で姫や姫のお付きの人々にケガや事故などないようにはらはらしながら注意を払う、と見せ掛けてほとんど眺めているだけである。

 いや、心配はしているのだが、若武者然とした姫様とそれに連なる部下たちはかなりしっかり訓練された精鋭らしく、危ない場面が今のところないのだ。逆に私が近くにいると、ジャマでしかない感じすらある。

 助かるけども。これ我々いなくてもよかったんじゃないかな……。

 そんな無力感いっぱいの気持ちと、でも事故はちょっとした油断に付け込むみたいに起こるから気を付けて欲しいと言った気持ちでとりあえず、私はレイニーに張ってもらった小さい障壁にじゅげむや金ちゃんと一緒に入りダマスカスの斧を手に動物園のクマよりうろうろしている我が家のトロールがあちらの狩りに乱入しないよう確保に努めた。

 そして障壁と言う安全圏でその辺の草をもそもそむしり、たまに薄目で武者姫たちのわーきゃーとした活躍を眺めて「すごいねえ」「みんなすごいねえ」と先日エルフたちからレクチャーを受けた森の知識でしっかり有用な草を選んでむしってくれているじゅげむと共に、狩猟班とは完全に隔絶した蚊帳の外からのんびりと言い合う。

 姫たちを見るのが薄目になってしまうのは私がこう見えて現代っ子だからだが、恐いよね。狩り。とどめ刺すとことか特に。

 命に向き合わず肉を食べる資格などないみたいなご意見もあったりなかったりするかも知れないが、自分の気持ちと命に向き合った結果、こんな感じでやらせてもらってます。お肉はね。食べたいですよね。感謝しつつね、いただいちゃいますね。

 あと、内と外を分けている障壁に入っているのは我々なので、どっちかと言うと蚊帳の外はあちらって気もする。慣用句、難しい。

 姫たちの安全に配慮するにはこれでは多分ダメなのだと思うが、武者姫の近くにはメガネと、昨日ドラゴンさんに消し飛ばされてから自らの神性に疑問をいだき、まだ気持ちの回復してないフェネさんを胸板にベタッとくっ付けたテオがいる。はらはらする役目は男子二人で間に合っているので、私がヘタになにかするより安心なのだ。

 そんな接待狩猟も午前中で一段落したらしく、午後からは人の手の入っていないジャングルめいた深い森を探検して歩いた。

 色付き乾いた木々の葉がカサコソ舞い散る森の中、変わった虫や素早くて残像も見えない小さな動物を追い掛け回し、大森林でノーガードはダメだとじゅげむのためにメガネがこねた搭乗式ゴーレムに興味を示した武者姫が同じ機構でいくらか大きく作ったものに乗り込むと、なぜか金ちゃんとがっぷり組んで今日の大一番を始めたりもした。これはこれで楽しそうだった。

 姫は一国の姫なので、今回の大森林探索は父である王様にごねにごね、特別に許された大冒険であるらしい。

 森で一泊したのもその一環で、二泊はならぬときつく言い渡されているそうだ。

 そのため午後のおやつを済ませると撤収を始め、この最中にちょっと元気になったフェネさんが「おひへは!」と、恐らく「落ちてた!」と言いながらフェネックサイズの自分とほぼ変わらない生きた毛玉をやんわりくわえて現れて、すぐさまあとを追ってきた親らしきめちゃくちゃでかいムササビ的な荒ぶる魔獣に追い掛け回されテオが子ムササビを取り上げて渾身の力で放り投げたすきに荷物をまとめて離脱するなどの、あわただしくもどうにか無事に姫の冒険は閉幕となった。

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