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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
世間体としがらみと、ちょっとなに言ってるか解んない編
550/800

550 おじいちゃんパワー

 ……いや、世の中には我が子の選んだ伴侶的な存在に感謝を持って円満に優しく接する姑だっているだろう。多分。いるといいなとなんとなく思う。

 ただ、今はそれは関係ないのだ。誰だよ姑とか言い出した奴。私ですけども。

 あれだよね。

 なんとなくだけど、ギルドの人にじっとり観察されて行動の全てが点数化されるとかさ。プレッシャーと不穏なものを感じてしまうよね。

 私の気分は今やもう、結婚相手本体ではなく親戚付き合いがムリすぎて婚姻関係からの卒業を覚悟した嫁です。結婚してないけど。あと姻戚じゃなくてギルドの人だけど。

 しかし、まあ我々も、ランクを上げるためのギルドの試験が集団で実施され冒険者としての実力だけでなく個人やパーティの垣根を超えて協力体勢を取れるかどうかの協調性も合否の判断基準になるみたいな話を聞かされて、それはムリですねと最初からあきらめていた部分もあった。なぜならそれはムリなので。

 しかしそこをブルーメの冒険者ギルドで一番えらいおじいちゃんパワーでコミュ力に問題のありすぎる我々にむりやり合わせた特別試験の体裁で、どうにかしてくれるのなら多分まあまあのありがたい話ではあるようにも思えなくもない。

 なのでその場ではなんとなく、釈然としないものは感じるもののトータルすると悪い話ではないのかも知れんと言うことになり「あーそーですかー? そりゃなんかすいませえん」などと、くそほどテキトーにお礼を言って「なんか気い使ってもらっちゃったね」とか言いながら帰った次第だ。

 これが八ノ月の終わり頃のことである。

 それから渡ノ月をローバストの村でエレルムレミやその縁者の皇国組、クマの村のクマたちとやいやいきゃっきゃとやりすごし、今、フライングのドアのスキルで飛び込んだ大森林のエルフの里で完全にやる気をなくしたメガネへとつながる。

 いや、この説明ではちょっとつながっていない感じはするが、かと言ってこの間に特別なにかがあったって訳でもない。

 ただ、――今回は主にメガネだか。

 我々のちょっと困った特性として、約束した時はそうでもないのに当日までに時間があるとなんか急に嫌になることがあるってゆーか。遊ぶ約束なんかだと行ってみれば結構楽しいのは解っていても、なんとなくどんどん気が重くなることがあるってゆーか。

 なんつーか、つまり、最初はまあいいかなと思ってたのにあとからじわじわ「なんかやだな」と思ってしまうパターンがまあまあの確率でよくある持ち前のバグがあるのだ。困るよね。

 あと今回は、そんな感じで時間とともにうっかり気が重くなってきたメガネがうだうだと、「ねぇ、よく考えたらさ。何かいい感じに言ってたからちょっとそうかなって思ってたけど、俺らのランク上げたいのってギルドの都合じゃない? 向こうの都合押し付けられてない? 俺達、何か丸め込まれちゃってない? やぁだぁ!」と言う時間差の気付きで、完全にやる気をなくすなどした。

 たもっちゃんのこの言いぶんに、あっ、釈然としない感じそれか。と私もなんか喉につっかえていたものがポロッと取れたみたいな変にすっきりした気持ち。それや。

 普通に、いい話ではあるのだ。

 冒険者ギルドのえらいおじいちゃんに、どんな思惑があるのかとかは知らないが。

 とてもじゃないが筋肉でうぇいうぇいとした冒険者の集団に放り込まれて活躍なんかできる訳のない我々に、ランクを上げる機会があるなら今だろう。解る。大きなヘマさえしなければうまいことやってくれると言うやつも、どことなく談合の香りがあって我々に有利に処理してくれそうな雰囲気がある。

 でもそれはそれって言うか。


 我々は、どこまで行っても我々なのだ。

 なんかやだあ~! と、たもっちゃんは衝動のおもむくままにドアのスキルで大森林に飛び込んでいつもより早い夏の盛りに押し掛け訪ねたエルフの里で、里長の家の板の間にべたっと張り付くようにして全身で意志の硬い無気力を叫ぶ。

 解るけれども。そうなってしまうのも。解るけどもやな。

「たもっちゃん、たもっちゃんでもさ、まだ時間はある訳ですし。姫との大冒険は秋って話ですし。今はほら。楽しも? 例年より早くきて長居のできるエルフの里、楽しも?」

 そして気の重い話をうやむやに忘れて、ごはん作ったりしよ?

 私はつぶれたカエルのように寝っ転がったメガネのそばで正座して見下ろし、さすがに最後の部分を声に出してしまうと「俺はおめーのお母さんじゃないですぅ!」と至極まっとうな理由によってキレられるので言わないが、どこまでも自己都合的な動機によってなんとかメガネをはげまそうと試みた。はげましとは。

 あと、個人的な細かい話ではあるのだが、うちのカーチャンは私の親だけあって壊滅的にアレだったのでメガネほどお母さん感はなかったように思う。主に料理の面とかで。

 いや、お母さんは必ず料理を作らなければならないと言う訳ではないのだが、生活能力の才能って、あるよね。

 私は完全に自分で掘り起こしてしまったうっすらとした悲しみに、体感としてはもっと遠くを見詰める心地で床に張り付くメガネの姿を見るともなく眺めた。

 すぐそばにいるのは、うだうだとしたメガネを心配するじゅげむ。

 その我々のいる板間の外の縁側で、生まれ持ったイケメン顔にどこか微妙な表情を浮かべてこちらを見るのはテオだ。

 どうしたのかと思っていたら、テオは、私の注意が自分のほうへと向いたと察して口を開いた。

「他人事の様に言ってるが……試験にはパーティ全体が含まれると思うぞ」

「ん?」

 テオの言葉に首をこりっとかしげる私。

「いや……だから、試験にはパーティ全体が……」

 伝わっていないと判断したのだろう。

 もう一度同じセリフを言い直すテオに、私もかしげた首をさらに曲げて角度を深める。

「……ん?」

「いや……冒険者ギルドの……」

 テオの顔がどんどん曇り、声もどんどん小さくなって行く。

 なぜなのかは知らないが、ちょっとなに言ってるか解んないですね……。

 いつまでも、ん? ん? と言っていても仕方ないのでしぶしぶ確認したところ、どうやら冒険者ギルドの姑試験は私も査定の対象になるらしい。

「嘘やん」

 メガネだけでええやん。

 あれでしょ? 冒険者のパーティて、リーダーのランクに準じた扱いになるからリーダーさえ高ランクになっとけば罰則ノルマの日数も全体的に伸びるんでしょ? 多分。

 私知ってるんだからな。

 前にそれでAランクのテオにリーダーになっておくれよっつって、はちゃめた断られたの覚えてるんだからな。あれはねえ、しょうがなかったよね。今より我々の面倒見させるのはさすがにさ……テオもさ……。

 まあまあ、たもっちゃんもね。微に入り細に入り姑に査定されるの嫌だろうけども、ここはね。代表で犠牲におなりなさいよ。

 みたいな気持ちもちょっとだけなくもなかった私、ここへきてまさかの当事者である。

「やあ~だあ~!」

 時間差で私もビターンとメガネの横に潰れたカエルみたいに倒れ伏したし、もう里長さんちの子になってずっとここに暮らすう! と叫んで、途方に暮れたみたいな顔のじゅげむに「ふえちゃった……」と呟かせてしまった。増えちゃったねえ、潰れたカエルが……。

 あと、その場におらず私も共倒れになったのをあとから知った長命なエルフの里長は、「長老に……相談してから……」と、言葉をにごして返答を避けた。懸命な判断である。

 たもっちゃんと私は潰れたカエルとして床にべたりと張り付いたまま、でも大森林で渡ノ月を迎えると巨大魔獣合戦になっちゃうからダメだね。どうする? 一回覚悟して合戦しちゃう? あと同じ土地で渡ノ月を連続して二回すごすと悪魔的なあれが襲撃にくるのもダメだね。やっちゃう? 悪魔、こっちから滅ぼしに行っちゃう? と、できるかできないかで言うともしかしたらワンチャンあるかも知れないがあんまり現実的でない提案をああだこうだとうだうだ言い合い、途中から床に身を伏せて目線を合わせてきたレイニーの「悪魔ですか? 狩りますか? わたくし、それならお供します。いつ行きますか?」と、やたらとやる気に満ちた賛同を得た。

 レイニーの、空色の瞳が澄み切っているのにぐるぐるとしている。

 悪魔が絡んできた時の天使、はちゃめちゃに武闘派。さすがにメガネと私もドン引きで、そっと体を起こしたほどだ。

 テオからは苦肉の策として、冒険者ギルドに申請すると休業できると教えられ「おお」と一瞬思ったが、罰則ノルマがなくなる代わりに休業中は素材を売ったりできないし、税金がややこしいし、ギルドにお金を預けていると口座の管理費が毎月取られるとのことだ。

 それはそれでアカンやんけと改めて、溶けるように倒れ伏して無気力を体現してしまう。

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