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54 あるとこだけ

「たもっちゃん、調子どう?」

「絶好調」

 私が問うと黒ぶちメガネをにぶく光らせ、右手の親指をぐっと立てて返事があった。

 我々は膝と膝がぶつかるような、せまい場所の中にいた。貴族仕様のドラゴン馬車だ。

 レイニーはすっかり暗いその中で、魔法で小さな明かりを出して照明器具と化している。

 馬車は動いていなかった。ノラはピンク色のドラゴンを連れて、夜の森へ狩りに出た。

 どうやらテイマーと言うものは、魔獣自身に獲物を狩らせてエサをまかなうものらしい。

 それは解るが夜の森。心配だ。たもっちゃんも同じく心配したようで、魔法陣を焼き付けた板を渡すなどしていた。魔力を流すとえげつない光と防御魔法が展開するらしい。

 そこまでするならノラを一人で行かすのやめようぜと思いはしたが、我々は別に結構大事な用がある。馬車にいるのはそのためだ。

 絶好調らしいうちのメガネは勇者ハーレムさながらに、さーていっちょやってやりますか、と馬車の扉をがばりと開いた。


 顔の真横に両手でピースサインを作りながらに、たもっちゃんは言った。

「きちゃった」

 美少女の幼馴染とかにしか許されないセリフをてへぺろ的に吐きながら、メガネが開いた扉のそばに立つ。その向こうは透明で大きな窓のある、天井の高い部屋だった。

 中央には天蓋付きの豪華に飾られたベッドが置かれ、そこには今から寝ようとしていたか寝てるのをジャマされた人影がある。

 したたるような蜜色の髪に、初めて見た時は酷薄に思えた淡紅の瞳。

 今朝ぶりに会うアーダルベルト公爵は、瞳の色をまぶたで隠して目と目の間をつまむようにぎゅっとした。

「あぁ……新しいスキル、もう使えるのか」

 ため息めいて落とされたのは、疲れたような呟きだった。

 気持ちは解る。王都から急いで逃れたはずの我々が、戻ってくるのが早すぎる。

 たもっちゃんとレイニーと私は、公爵の寝室に入って素早く静かに扉を閉じた。

 夜になり私たちが訪れたのは、王都にあるアーダルベルト公爵家だった。

 私たちは少し前まで、ドラゴンの足で一日掛かるあの選民の街にいた。正確には街の外だが。ヴァルター卿が用意した馬車は、たもっちゃんの障壁に守られ今も街のそばにある。

 我々はその距離を、一瞬で戻った。

 たもっちゃんの絶好調らしい新スキル、今まで通ったことがあるとこだけドアーで。

 このスキルを一言で言うと、スキルを使ってドアをくぐると全然別の場所に一瞬にして移動できるあれだ。超便利なあれ。

 容疑者は、国民的アニメの影響により日本人なら逃れられない呪縛があった。どこでもじゃないからセーフなどと供述しており。

 ただし、たもっちゃんのスキルには制限がある。行けるのはどこでもではなく、一度通ったことのあるドアだけだ。

 そもそもこの魔法にあふれた世界には、すでに転移の魔法陣が存在している。ダンジョンの内部から地上に戻るものなどがそうだ。

 それなのに、たもっちゃんはわざわざドアのスキルをもらった。公爵の目の前でピカッとやって、ずらかろうとするレイニーの上司さんにタックルかまして捕まえてまで。

 転移の魔法陣を描くためには転移先の座標を組み込み転移先に障害物があった場合は自動的にそれをどかすか破壊するギミックを織りまぜつつ転移後の水没や毒などを警戒し安全が確認できるまで水や空気を遮断する障壁を同時展開してどうたらこうたら。

 で、簡単に言うと転移の魔法陣は描くのがものすごくだるくて面倒。とのことだ。たもっちゃんにオブラートの文化はなかった。

「それで、何かあったのかな」

「あ、そうでした」

 美貌の公爵をおどろかせ、うちのメガネはなんか満足していたらしい。相手から水を向けられて、やっと目的を思い出したみたいだ。

 我々は、全力でチクリにきたのだ。今日見たばかりの、選民の街についてのことを。

 そのために、たもっちゃんは馬車の扉を公爵家の応接間につなげた。屋敷の主がいるはずの部屋は、さすがに入ったことがない。

 そこから足音を忍ばせて、こそこそと寝室を探す間がなんかもう一番の緊張だった。ちょっとだけ、授業の合間に学校を抜け出しコンビニに行った時を思い出す。

 しかし、我々はもういい大人なのだ。

 公爵家に忍び込んだのが家令のおじいちゃんとかにバレたら、容赦なく怒られるに違いない。やだよね。大人になって怒られるとか。

 私が店側のリークによって普通にバレて職員室でしぼられた高校時代を思い出す間に、たもっちゃんは本題を話し終えていた。

「ちなみに着服と街から追い出した住人売り飛ばして奴隷商から賄賂もらってた証拠になりそうな裏帳簿は街の代表的なおっさんの自宅の自室のベッドとマットの間にあると思います!」

 あの街は外からガン見しただけなのに、メガネは証拠の隠し場所までをも看破した。

 裏帳簿とは、思春期のエロ本だったのだ。

 すぐに人をやると約束されて、用件が済んだことにほっとする。

 それから一応の報告と言うふうに、公爵は私たちが王都を離れたあとのことを話してくれた。

「さすがに、王都の守りが破られているからね。城からも兵がきて、何があったのかと問い詰められたよ」

 被害こそ敷地の中だけで済んだが、王都の上空を守る魔法障壁にヒビを入れ、お屋敷を半壊させる騒動だ。さすがにね。バレる。

「どうごまかしたんですか?」

「それはまぁ、ヴァルター卿がね」

 なんか魔獣が入り込んできたけど敷地の外まで被害が出ないようがんばって収拾したので心底感謝して欲しい。老紳士はそんな感じで恩に着せつつ、見事話をすり替えたらしい。

 さすがにやべえと魔族の存在は隠蔽したが、何匹もの魔獣は茨に巻いて庭にごろごろ転がしてあった。それをうまく利用したようだ。

「中に珍しい魔獣もいたそうだし、溶けてないフィンスターニスは貴重だとかで。錬金術師が標本にしたがっているみたいだよ」

 一応生きてるが討伐扱いになるそうで、いずれ報奨金が出るらしい。それはぜひ、負傷者の見舞金と公爵家の再建費用に。今度こそ。

 少し前、老紳士から戻ったお金をそのまま公爵に渡そうとしたが、受け取ってもらえなかった。あれはなんか、全然足りないから別にいいよってことだった気がする。恐ろしい。

 被害額って実際どれくらいなんだろう、とそわそわする我々に、公爵はふと、思い出したように。なにげない様子で口を開いた。

「そう言えば、テオだけど」

 その瞬間、たもっちゃんと私の瞳孔は若干タテ長くぎゅっとしまった。ような気がする。

「忘れてない……ですよ?」

「気にはしてました、よ?」

 まあ、嘘ばっかり。と言わんばかりに、あきれ顔のレイニーが歯切れの悪い我々を見る。

 襲撃を受けた夜が明けると、私たちは爆走馬車で王都を離れた。その時テオは実家に行って戻っておらず、拾い損ねてそのままだ。

 置いてきちゃったなー、とは思ってた。いやホント。あとになってからだけど。

 ただ、どうしても合流しなきゃいけないかと言うと、それはまたなんか別って言うか。

「テオも、何だかんだでAランクの冒険者だし……」

「これまでも面倒しか掛けてないのに、これからも一緒とか気の毒だし……」

 荒野から王都まで護送に付いてきてくれた時点で、ちょっと好意が厚すぎる。こっちは指名手配されてるっつうのに、パーティまで組んでくれたのだ。大丈夫かな、あの人。

 意外と都合のいい男っぽくて心配だ。生き別れた非実在の弟か妹か父か母が大変なんですとか言われたら、素直にお金渡しそう。

 しかし、大きなベッドに腰掛けて、公爵は淡紅の瞳をやわらかに細めて呟いた。

「私は……彼の気持ちも解るかな。君達といると、きっと退屈しないから」

 さすがである。我々のせいでものすごく立派なお屋敷をきっちり半分粉々にされて、この余裕。訳が解らない。しかしこの美しい男は、それからもっと訳の解らないことを言う。

「その辺は、本人と話した方がいい。そろそろ追い付く頃だろう」

 えっ。と同時に声が出たのは、たもっちゃんと私だ。

 どうやらテオはすでに我々を追い掛けて、王都を去ったあとらしい。なぜなのか。自分から苦労を買いたがる性癖でもあるのか。

 その答えをもたらしたのも、パジャマ姿の公爵だった。パジャマと言うか、シャツを長くしたようなシャツワンピ的なやつ。

 おねむの公爵は、おっとりとうなずく。

「彼はキリックの家に戻った途端に監禁されて、見知らぬ結婚相手を紹介された様だよ。手荒な方法でなら、もっと早く抜け出せただろうけどね。身内相手に荒事も躊躇われて、逃げるのに時間が掛かったらしい」

「待って。公爵さん、待って」

「それ、私ら聞いてもいいやつですかね……」

 そっと胸にしまっておくの優しさみたいな種類の話なのではないのか。

 そう思ったらやっぱりそうで、ううん、ダメなやつ。みたいな感じで、公爵はほがらかに笑って首を振る。

 そして、でも、どうしても誰かに言いたかった。と変な達成感をにじませた。

 ひどい。

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