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53 狩猟民族

 なぜ、我々がここにいると解ったか。

 勇者一行にそれを問うと、金髪タテロールのお嬢様が「ふんっ」と勝ちほこるように胸を反らした。

「ドラゴンの馬車なんて、走っていれば嫌でも目立つわ! 精霊に尋ねればすぐよ?」

 精霊を見るだけでなく声を聞く才能はすごいのよ! うやまいなさい! などと言って騒いでいたが、割と誰も聞いてなかった。

「えぇ……? 精霊の力まで借りて付いてくるって何なの? 恐いんですけど」

「逃げられると追いたくなるからな!」

「狩猟民族なの?」

 たもっちゃんは心底嫌そうだったが、勇者ハーレムは構わない。それよりも、うまみが詰まったパエリアが気になるようだった。

「こうして食べると、恐怖の実も悪くないもんだね」

「ほんとに! うちの村でも作ってたけど、家畜のエサだと思ってた」

「変わった料理。でも、悪くない」

 フライパンからどんどんなくなって行く米の料理に、悲しそうに、遠慮がちに、こちらを見上げるのは小さなヒツジだ。

「もうちょっと、たべていい?」

「いいぞ、どんどん食べな。なくなったらこのメガネがもっと作ってくれるよ。食費はこっちの勇者たちが出してくれるからね」

 なにも心配はいらぬのじゃ。

 勝手にそう決め付けて言うと、勇者のほうから「えっ」と小さな声が聞こえた。

 人の金で食べるごはん、おいしいです。

 獣族の大人たちは勇者の出現に戸惑ったようだ。子供を急いで回収にきたが、その親たちにも料理を渡して逃がさず巻き込む。

 哀愁のグラタンや慟哭のポトフなど、ストックの料理も開放したが気にしないで欲しい。勇者の負担額が増えるにすぎない。

 タヌキやイヌやヒツジたちからお礼を言われ、勇者は引くに引けなくなった。人権派勇者は感謝されるとがんばってしまうのだ。

 勇者は! お腹すかせた子供を! 見捨てるんですか! みたいなことを我々が大声で聞いたりもしたが、そんなのはきっと関係がないはずだ。勇者だもの。これにこりたらもう付いてこないで欲しい。

 そして今回の食費代わりに、勇者たちは新しい農具を出してきた。ダンジョンで手に入れたと言う、ダマスカス鋼の片手斧だ。

 小型だが厚みのある斧の刃は、金属なのに木目のような不思議な模様を持っている。よく切れてさびることのないなんかいい金属と言うだけでなく、この高級家具のような外見もダマスカス鋼の大きな特徴とのことだ。

 形としてはパニック映画の殺人鬼が持ってそうな斧を手に、しかし私はすっかり真顔。

「なんなの、その特殊金属農具シリーズ。ちょっとダンジョンの場所教えてよ」

「嫌だ」

 勇者からの拒絶が早い。

 教えたら、自分で行くに違いない。自分たちで入手できたら、ムダに高品質の農機具が食事と交換できなくなる。

 それはダメだと言い張って、勇者と連れの美少女たちはダンジョンの名前も場所も絶対に教えてはくれなかった。団結力。

 しかし、いいのかそれで。我々はいいけども。交換比率おかしいんだよ。

 ミスリルとかダマスカスって、一回の食事で手放すものじゃない気がするの。量にもよるけど、この場合は多すぎる。

 なんで出しちゃうんだろうなあ。ふしぎ! ぼったくってるのは私だが。

「ところでさ」

 と、私が彼らに気が付いたのは食事がほとんど終わり掛けた頃だった。

 ウェイウェイ騒がしい勇者の一行に、旅の途中らしき獣族の集団。ボロ小屋ひしめくスラムの外れで、二、三十人に増えた集団が地面に座ってたき火の明かりに照らされる。

 その中にちらほらと、小汚い子供がしれっとまざって一緒にごはんを食べていた。

 子供の数は四人ほど。汚れた顔はつるりとしていた。ガツガツと急いで料理をかき込む彼らは、毛皮を持たない人族だ。

「キミらこの辺の子? よそでごはん食べてって、おうちの人とか大丈夫?」

 勇者たちの連れではないし、獣族たちと旅をしているようにも見えない。

 だったらきっと、この街の子供なのだろう。そう思って問うと、小さな子たちはビクリと震えた。隠れるようにしがみ付くのは、一番大きな男の子の体だ。

 頼られた少年は、おもしろくなさそうに口をとがらす。

「うちなんかねえよ。親だって、いるように見えんのかよ」

「まあ見えないけど。確認は大事じゃん。不審者として怒られるのは嫌だよ、私は」

 獣族の子供たちと比べれば、その違いが解る。獣族の子供らも粗末な身なりではあった。だが小汚いと言うくらいで最低限には清潔だったし、破れた服はつくろわれている。

 それは、世話をする大人がいるからだ。

 この人族の子供たちには、そう言う部分が見られなかった。だからもしかすると孤児なのかなとは思ったが、違うといいなと思ってもいた。残念ながら、違わなかったが。

 変な聞きかたしちゃったかな。親いねーのかって直球で聞いたほうがよかったのか。いやでもそれは聞き難い。

 悩みながらに子供たちが空けたお皿に料理を足すと、彼らは眉毛をぐにゃっとさせて互いの顔を見合わせた。食べていいのか逃げるべきかを迷ってでもいるようだ。

「え、何? 子供だけで生活してんの?」

 なるほどねー。などと言い、熱々の土鍋を持ってやってきたのはうちのメガネだ。

「この辺さぁ、人住んでる感じしないんだよね。こんないっぱい小屋あるのに。暗くなっても明かりひとつ点かないし」

「うわ、ホントだ」

 言われて気付く。

 夏の太陽はすっかり落ちて、辺りは暗い。我々から少し離れた所にはぱちぱちはぜるたき火があるが、それだけだ。

 ごちゃごちゃと無秩序に増殖したようなスラムには、確かに明かりは一つも見えない。

 一人だけ年上の少年は、食べる手を止め中身の残る皿の上でうつむいた。

「ここは……街から追い出されたやつらで作ったんだ。おれらは神殿の孤児だったけど、家のあるやつも、大人も、金のないやつはみんな追い出されたんだ」

 それが一年と少し前のことらしい。

 しばらくはどうにか食いつないでいたが、元々お金のない人たちだ。時間と共に、どんどん人は減って行く。

 ここにいても仕事はないし、村人レベルの集まりである。森に入って魔獣を狩れる訳でもない。私がいっぱいいるようなものだ。

「メシが食えるだけマシだって言って、自分から奴隷になるやつもいっぱいいた」

「そもそも何で追い出されたの?」

 平たい木べらで土鍋の中身を切るようにほぐし、たもっちゃんが問う。

「知らねえよ。おれらの時は、神殿にもう金がねえからめんどう見られねえって」

「なにそれ困るじゃん」

 頼れる人も仕事もなく、レイニーだけ付けられてこの世界にきた当初を思い出す。

 あの頃の私は草ばかりむしる日々だった。今も草ばかりむしっているが。それでもおいしくごはんを食べられるのは、たもっちゃんのお陰だ。あらゆる意味で。

「そんなはずはありません!」

 全身をぶるぶる震わせて、神官服の聖女が叫んだ。投げやりな少年の言葉に、彼女は自分の両手をにぎりしめ優しげな顔を泣きそうにゆがめる。

「孤児をお預かりするお金は、子供の数に合わせて中央神殿から予算が下りるのです。お金がないから子供を放り出すなんてこと、ありえません……!」

「……そうだな。こんなの、絶対におかしい」

 勇者はそっと、聖女の肩に手を置いた。

 そんなキリッとした感じに影響されてか、仲間である美少女たちが盛り上がる。

「きっと不正は街ぐるみね。厄介だわ。お父様に手を回してもらおうかしら?」

「やれやれ、ひと暴れすることになりそうだ」

「困ってる人は見捨てられないよ!」

「勇者がやる気。仕方ない」

「こんなの……許せない……」

「勇者様、ご命令を」

「どうする? 証拠でも盗み出してくる?」

「すっごい作戦かんがえてあげる!」

 さーていっちょやってやりますか! みたいな空気を出して立ち上がり、一行はそのまま街のほうへと全員で突進して行った。

 作戦とはなんだったのか。

「さすが勇者」

「さすが人権派」

 我々はその場に残りうなずいて、土鍋で炊き上がった白いお米を観察などした。

 結論から言うと、異世界のお米は日本のお米とはずいぶん違った。まあ、見た感じからして違う。そんな気はしてた。

「甘みと粘りが足りないなら、補って炊けば……。酒とか、油……寒天? あるかな」

 たもっちゃんはブツブツ言ってなにかを追求していたが、パラパラしてて淡泊な味はそのままよりも調理して食べるのに向いているようだ。それはそれでよい。

 我々は、勇者たちの突進に参加しなかった。

 なにぶん街にも入れてもらえないので、一緒に行っても役に立てそうな気がしない。

 だから代わりに、我々なりに。

 別の角度からアプローチを試みる。

 えらい人におもっくそチクるとか。

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