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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
張り切る神と妻の心労、我々とにかく土下座編
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515 賄賂と謝罪

 私が王の農園でプロの農家さんたちに賄賂と謝罪で不義理を償い無事に目的を果たしていた一方、たもっちゃんも別行動でじゅげむと金ちゃんを迎えに行っていたようだ。

 共有のアイテムボックスにいただいたお野菜なんかをどんどん入れて新着通知で連絡を取り、ドアのスキルで農園から砂漠へ戻してもらうとちょうどじゅげむが魔族の双子の少女らと久々の再会を果たしていた。

 なお、ツィリルとテオはまだ狩りから戻ってないらしい。手持ちぶさたで出掛けたはずが図らずも大物に出会ったか、逆になにも成果がなくて引き上げるタイミングが解らなくなっているのだろうか。

 まあとにかくそうやって、ドアで戻った私がじゅげむを発見したのは魔族たちの居住区がある一番大きなピラミッドの中。

 まるでダンジョン内部のような、見ようによっては縦横無尽に足場を組んだ夢のネコ部屋のような空間だった。

 最近は成長を感じる瞬間がたくさんあるが、まだ幼いと言って差し支えないじゅげむ。その小さな人影の前には、魔族の双子と黒い巨大な毛のかたまりがある。ネコだ。

 魔族らの大切な愛猫にゆっくりそっと、そしてていねいに頭を下げて挨拶し、じゅげむはそこはかとなく両手をわきわきとさせながらルツィアとルツィエに神妙な顔で「いいですか?」と問い掛ける。

 そしてルツィアとルツィエがもちろんとうなずくのを待ってから、私にはいまだに残像しか見せてくれない二匹のネコを、手の平だけでは飽き足らずもうなんか全身でもっふもっふと堪能していた。

 残像しか見せてもらえない私がどうしてそんな嫉妬いっぱいの光景を見てきたように実況できるかと言うと、全力で気配を消して物陰からガン見しているからだ。

 私のガン見はスキルではないので決してなにも生み出しはしないが、じゅげむと巨大な黒ネコのほほ笑ましくも妬ましい交流はしっかり心の宝箱にしまっておきたいと思う。

 また、じゅげむは全身で黒ネコにもふもふとしながらに、魔族の双子にも気を配る。

 いや、気を配ると言うかなにやらしきりに感心した様子で「ゆるしてあげたの? えらいね。やさしいね」などと、それだけでは意味が解らないながら心当たりのありすぎる私にはやっぱりこの数日の我々が土下座も辞さぬ覚悟で砂漠に通い贖罪の労働に従事していたことを幼いながらに察知していたとしか思えない言動をじゅげむは見せた。

 我々を日々間近で見てるのに、もしくは我々を身近に見ているからこそ聡くたくましく育ちつつある子供は、二匹いながらもはや一つのかたまりにしか見えない黒い巨大な毛玉から自分の体を一旦離し、公爵家の騎士にもらったランドセル的な背負ったカバンをよいしょと下ろす。

 そして中からごそごそとクレブリでの留守番中に天日に干して仕上げたとおぼしきレイニーの青い岩塩を取り出すと、優しき心でなにかを許した魔族らにおみやげとして「がんばったね。えらいね」と手渡していた。

 うちの子のそつがなさすぎてちょっとだけ恐い。

 もしかすると私は、小学一年生的な年齢の子供に人として追い付けないレベルで格の違いを見せ付けられているのかも知れない。なぜだろう。成長のよろこびに心がきしむ。


 私と言う妨害にあいつつもメガネはその日の内に巨大ヒツジの石像を完成させて、レイニーはそれより早く緻密かつ絢爛な石の棺を作り上げて見せた。

 なお、やたらと豪華な装飾の中には私が布を買いに行った儀礼用品の店で言われるまま購入したものも多数含まれていることは、なんかこう。ちょっと強く主張しておきたい。

 こうして魔力と魔法をおしげなく駆使し、葬儀の準備は整った。

 あとはピラミッドの一室に仮に安置してあるご遺体をこの棺に納め、巨大ヒツジの内部に作られた埋葬室へと棺ごと運び込むだけである。

 そこでふと思い出したのが、ご遺体を包むための布を買いに行った時のことである。

 いや、儀礼用品のお店の人にね。布には故人の縁者に針を刺してもらった上で、ご遺体を包んでとむらうのだとしっかり説明されていた。のを、忘れていたと言うことをこのタイミングで思い出してしまった。

 それって別れではあるけど縁や心はつながってると言ってるように思われて、悲しいながらになんかいいなと思ってたのに、忘れてましたね。ばたばたしてて。思い切り。

 順序がおかしくなってしまったが、これはもう仕方がないので「ごめんやでえ」とめそめそしながら糸を通した縫い針を双子や狩りから戻ったツィリルに渡し、すでにお姉さんを包んだ、お姉さん由来の魔石の関係でシルエットがちくちくしている布の隅の辺りに戸惑う魔族を切々と、一応、一応でいいからと説得しそれぞれ針を刺してもらった。

 こう言うのは……ほら……。

 やること自体に意義がある……みたいなところが……なくもないので……。多分……。

 それでどうにかようやっと、血縁者である三人の魔族とついでに我々だけではあるが、ツィリルの姉でありルツィアとルツィエの母である人をとむらう会は開かれた。

 と言っても、葬儀に関してはただの素人の集まりである。我々はもちろん、魔族も元来群れずに暮らすからお葬式などはないそうだ。

 そんな素人の集団がもたもたと、まずレイニーが作り上げた石棺にお姉さんを納め、そのあとで棺が重すぎると判明し、どうやって運ぶか四苦八苦の末に結局は魔法のゴリ押しでヒツジ内部の埋葬室まで運んだ。

 ヒツジの巨像がそうであるように内側もざらりと砂岩のようで、その壁面にぼこぼこと四角く浅い穴が開いている。棚の役割を果たすその中に、やけくそっぽく詰め込まれているのはお姉さんの本体と一緒に回収してきた大量の魔石だ。

 いや、私もね。最初は綺麗に並べようとかしたんですよ。でもほら。量が多いから。

 もうこれ、終わんねえなって。詰めても詰めても終わらない作業に若干ひんひん泣きながら、とにかく入りゃあいいんだとみんなで必死に詰め込んじゃいましたね……。

 途中でそんな我々の投げやりな部分は出たものの、最終的にはちゃんとお姉さんの本体と魔石を埋葬室に納めることができた。

 すぐそばには魔族の住まうピラミッドがあるから比較的安全ではあるものの、砂漠にも生息する魔獣は数多い。ご遺体を守る意味もあり、埋葬室の入り口はやはり魔法で練り上げた砂岩の壁で封じられ、もう見てもどこがそうなのか解らない。

 そうしてきっちり封じた石像の、ヒツジの首の辺りに妙にしっくり取り付けた手の平サイズのぴかぴか輝く小さな鐘を鳴らしつつ、我々はお姉さんへの祈りを捧げた。

 色々と不備はあるのだろうが、我々なりに精一杯のことをしたと思う。

 お姉さんには会ったこともないのに、その身内の魔族らが親しくしてくれるからだろうか。お姉さんのこともなんだ身近に感じるし、できれば会ってみたかった。

 そうしたら我々はツィリルたちにも出会うことさえなかったかも知れない。でも、それならそれできっとよかった。

 あと、絶対にこのタイミングではないような気もするが、お姉さんの墓標は本当にヒツジのデザインでよかったのだろうか。ツノが似てると言うだけで。大丈夫か。心配だ。

 ちょっとだけ横道に入りつつ、様々な思いが去来して自然と捧げる祈りにも力が入る。

 ――そう、祈りだ。

 ここで少し思い出していただきたい、そして我々が思い出すべきだったことがある。

 うちのレイニーは天使だ。

 比喩ではない。比喩だとしたら絶対にレイニーのことを天使とは言わない。

 この場合の天使とは、天界で神に仕えしなんかこう、セイント的な存在のことだ。イメージがふわっとしすぎてて、正確には違うのかも知れないが。

 とにかく、私が今言いたいことは神に近すぎるそんな存在がちょっとでも祈ると、もれなく祝福になるとか言うあれだ。

 そんな話をうっすらと、だいぶん前に聞いたような気がするの。

 そのことを、我々はもっと早く思い出し、もっと真剣に受け止めておくべきだった。

 なぜならば、お姉さんのために作ったヒツジの前に並んで一心に祈りを捧げる我々の中に、悪魔のせいで運命をねじ曲げられてしまった人への、忸怩たる感情をつのらせた天使がまぎれ込んでいるのだ。

 夜である。

 それなのに、天からさわわと清らかな光のはしごが地上へ伸びて、祝福のラッパ的な楽器の音がどこからともなく鳴り響く。

 一ヶ月、二十七日の時間を掛けて空を渡る異世界の、いくらか終わりに傾いた月とはまた別の不思議な光が降りそそいでいた。

 その光は一体どこからくるのか?

 多分天界かなと思いはするが、それは我々がレイニーの変な設定を思い出したからこそだ。なにも知らない部外者にすれば、訳の解らない天変地異のおもむきである。

 しかもなんか見て。

 ぷあーぷあーと鳴り響くなんらかの楽器が最高潮に盛り上がってくると、月夜の空にはぎんぎらと七色の虹まで出てくる始末だ。

「……レイニーさあ……」

 なんて言えばいいか解んないけど、なんかこれは……レイニーさあ……。

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