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49 ハーレム

ハーレム主人公に対する心ない誹謗中傷があります。個人の見解による。

 あのー、すいませえん。とか言って。

 我々は結局、弱腰な感じで間に入った。

 周りを囲んだ女子たちはなんなのコイツと思っただろうが、御者はほっとしたようだ。少年ぽさの残った顔で、ちょっと涙とか浮かべちゃってる。

 わかる。わかるぞ。リア充たちがウェイウェイ言って囲んできたら、ものすごく恐いよな。その気持ち、痛いほどに解る。

 解るだけに正直あんまり近付きたくねーなと思う自分を内心叱咤していると、リア充女子の集団の中から一人の青年が進み出た。

「このテイマーはあんた達の連れか? すごいな! これ、ドラゴン種だろ?」

 彼は興奮気味に言いながら、馬車につながれたピンクのトカゲをぺしぺし叩く。

 そして、ドラゴン種をテイムするのは難しいのにな。優秀なんだな! なあ、やっぱ仲間になってくれよ!

 などと言い、ものすごくさわやかに人の連れを引き抜こうとしている。

「え、なんなの? なんなのこの人」

「解んない。俺も解んない。恐い。距離感が超恐い」

 あまりにもテンションが違いすぎて恐い。リア充恐い。たもっちゃんと二人、顔をよせ合いヒソヒソと言い合う。

 我々は多分、テキトーに調子を合わせるべきだったのだ。できるかどうかは別にして。

 恐がるのに忙しくフランクに話し掛けてくる青年をほったらかしにしていると、高く澄んだ女の声にぴしゃりと叱り付けられた。

「勇者様がお誘い下さっているのよ? その態度はなんなの!」

「まぁまぁ。緊張してるのかも知れないじゃないか」

「大丈夫よ! 勇者様はとっても優しい人だから! 安心して仲間になって大丈夫!」

「どうでもいい。でも、勇者には従うべき」

 気に入らないと言うように金髪タテロールのお嬢様がキッとにらんで、それを横からビキニアーマーの剣士がなだめる。女剣士よ、そんな装備で大丈夫か。

 元気系の村娘が胸の前で両手をにぎりしめながら一生懸命説得すると、言葉少なで無表情キャラの魔法使いがぼそりと告げた。

「それ、暑くない?」

 いかにも魔法使いと言うような、長いローブを着込んだ少女に思わず聞いた。

 今は季節的に夏である。絶対暑いと心配したら、彼女は心なしかキリッと答えた。

「オシャレはがまん」

 真顔で言うのは反則だと思うの。

 うっかり笑ってくやしい思いをする間にも、周囲はどんどん騒がしくなった。優しげな聖女や薄着の踊り子、メイド姿の女子などが熱心に勇者をほめちぎっているからだ。

 なんだろう、収拾が付かないこの感じ。

 私、なんかこう言うの知ってる。深夜アニメとかで。

 幸い、勇者を囲む女子たちの中にエルフの姿はないようだ。よかった。危ないところだった。エルフがいたら血を見るところだ。たもっちゃんの血の涙とか。

 絶賛の嵐の中心にいながら、勇者と呼ばれる青年は平然としていた。いつものことと言うふうに、やれやれと肩をすくめて首を振る。

「ちょっと騒がしいけどさ。見ての通り、ウチは女の子が多いんだ。君もそのほうが気楽だろ? 仲間になるの、考えてみてくれよ」

「ん?」

「ん? だって、女だろ? そいつ」

「……んん?」

 そいつ、と言われて首をかしげる。勇者がさした先にいるのは、少年と青年の中間みたいなドラゴン馬車の御者である。

 見ると、彼は――彼女は、かぶった帽子の大きなつばを両手で引き下げうつむいた。

「あの……ボク、ごめんなさい……」

 御者はまだどこか幼い顔に罪悪感をにじませて、大きな帽子で隠して伏せる。

 ……いや、男にしては輪郭が丸くて幼い気がしただけだ。女子だとしたら、年相応の少女らしさと言えるのか。どちらにしても若いことに変わりはないが。

 御者の名前はノラと言う。

 勇者一行がいつの間にかにウェイウェイと、リア充のコミュ力で聞き出していた。

 彼女はだぼっとしたシャツにだぼっとしたズボンをはいて、つばの広い大きな帽子を目深にかぶる。

 明らかに人目を避ける内気な性格。しかも僕っ子。なかなか設定を盛ってくる。

 そこで、はっとした。そうか、この子は女子なのだ。感心している場合ではない。取り急ぎ、ノラの手を取りぐいぐいと引く。

「あ、あの……」

「いいから。もっとこっちきてなさい。いいから。おばちゃんは許しませんよ。て言うかレイニーも離れてなさい。女の子があんなハーレム主人公に近付いちゃいけません」

 私、知ってるんだ。ハーレム主人公に取り込まれたら、主人公のすることをなんでもかんでも絶賛しないと気が済まない呪いに掛かるって。私は詳しいんだ。アニメとかで。

「ハーレム?」

 戸惑うように眉をゆがめる勇者の後ろで、きらきらしい美少女たちがチッと忌々しげに舌打ちをする。高度にデリケートな話題をつついてしまったようだった。ごめんて。

「あ……あなたたちは仲間じゃありません!」

 見た目だけはすごくいいうちの天使と内気な御者をハーレム勇者から遠ざけていると、そんなことを叫ばれた。

 叫んだのは、勇者の後ろにいる少女の一人だ。彼女の体は震えていたが、勇気を振りしぼるようにして必死に声を張り上げる。

「仲間だったら、こんな所で一人にしない! 勇者さまなら、一人でこんなもの食べさせたりしないもの!」

 彼女はずっと下を向いていて、顔は長い前髪で隠されていた。震えながらに両方の手をにぎりしめ、細い首には不格好な鉄の首輪。

 これ、あれかしら。奴隷ってやつかしら。

 私はそんなことを思ったが、たもっちゃんは別のことが気になったようだ。ふぇ? っと変な声を出し、馬車の御者台を覗き込む。

「……ねぇ、これさぁ」

「お、お弁当……です」

 たもっちゃんの視線を受けて、内気な御者は帽子のつばをぐいぐい引っ張り顔を隠した。あの帽子、今から手を離しても元の形に戻らない気がする。

 御者台に残されていたノラのお弁当と言うものは、水の入った水筒と固すぎて噛むのに苦労する試練パン。それから試練パンと同じく固い干し肉のかたまりである。

 ノラ、あれはお弁当ちゃう。携帯食や。


「もちろん礼はする!」

「俺ら冒険者なんだけど」

「魔石なら文句ありませんでしょ?」

「滅多に使わないんだよなぁ」

「なら、魔獣でも狩ってこようか」

「肉はあるし、自分でも狩れる」

「だったらなんだ! なにがいいんだ!」

「地位か! 名誉か! 領地でも欲しいのか! 望むものを言えぇ!」

 勇者がぐいぐい迫ってくるのにうちのメガネが体を引いて、すかさずお嬢様女子が取り出した魔石も別にいらないとメガネが断り、それなら魔獣の現物でどうだとビキニアーマーの女剣士が立ち上がるのを首を振ってメガネが止めた。

 そんな何者も受け入れぬ拒絶具合に、欲しいものがあるなら言えと頭をかかえてヘドバンするのは勇者とその連れの幼女だ。

 とりあえず落ち着け。さすがに領地はムリだろう。それと、幼女を連れて旅をするのはセーフかどうか、誰か勇者を審議して欲しい。

 我々がいるのは、街から少し離れた場所である。なだらかに広がる農耕地の中に、ぽつりぽつりと点在する雑木林だ。

 こんな場所に移動してきたのは、ノラにまともな食事を取らせるためだ。ついでに、我々もお昼を食べ直す。適当に入った食堂のがっかりスープにがっかりしたままなので。

 計算外だったのは、街の門前から場所を移した我々に勇者一行が付いてきたことだ。

 御者を一人で馬車に残して粗末な携帯食を食べさせたことで、私たちの信用は地に落ちている。人権派らしき一行としては、本当にノラに食事をさせるのか心配だったのもあるらしい。

 しかし勇者と幼女がのた打ち回って叫ぶのは、一緒に料理が食べたいとメガネ相手に交渉しているからだった。

「なんかないか! なんかほかに!」

「ダンジョンアイテムの魔剣なら!」

「食事の間、わたしが舞を披露するわ」

「上級ポーションをあげる! 特別よ!」

「魔獣を避ける御守りなら……」

「魔獣を誘う寄せ餌もあるぞ」

「もういい! 世界の真理を教えてやろう!」

 美少女たちのやけくそ気味の提案は、たもっちゃんには一切通じず全部しょっぱく断られていた。

 ポーションはもらっとけよと思ったが、知らないリア充に囲まれてごはん食べるのがきついのも解る。いいぞ、空気なんか読むんじゃない。そのまま相手があきらめるまで断れ。

 そんなひどい応援を、心の中でしている時だ。後ろのほうでぼそぼそと、美少女たちが話す声が聞こえてきたのは。

「まずいわ。本当に食べさせない気よ」

「もう手持ちのアイテムもあまり……」

「この鎌は……だめよね。一応ミスリルなんだけど、草刈りくらいにしか使えないもの」

「なんでだよ! 食べて行けばいいじゃん!」

 私は、反射的に手の平を返した。

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