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480 ほかならぬ

 大森林も雨である。

 なぜなら季節が雨季なので。

 我々は国が管理するコスパ悪めの転移魔法陣をうまいことごまかし私的に使い、王都から大森林近くへと移動した。

 ただしその魔法陣のある場所は間際の町まで少しあり、さらに移動が必要になる。そのため農村や街道でよく見る謎馬車が用意されているはずが、どうやら行き違いがあり手配がうまく行っていなかった。

 雨だし。今からでは馬車をつかまえるのも時間が掛かる。

 たもっちゃんはここにきて急に、なにもかも面倒になってしまったようだ。

「もう船飛ばしてばーっと行っちゃおうぜ」

 そう言うメガネはえっちらおっちらとした馬車での移動と魔法陣を起動する魔力効率の悪さに、自分でやったほうが早いとどうやらずっとそわそわしていたらしい。

 でもよく知らない人が一緒だし、自重と言うものを俺も覚えた。みたいな感じでずっとがまんしていたものが、馬車の手配ができてなかったことで最後の一押しとなり勢いよく弾け飛んでいる。恐らくは、自重が元から軽すぎるのもある。

 たもっちゃんは提案と同時に自慢の鉄甲船をびかびかとした無意味な魔法陣でごまかして出し、めずらしいものにはとりあえず飛び付く錬金術師をわーっとまとめて乗船させた。

 彼らは転移魔法陣で移動する時に荷馬車から大きな魔道具をおろして運ぶのに四苦八苦して、もう置いて行けよとほうぼうから何度も言われているのにやだ絶対持って行くと譲らず、最終的にはメガネの魔法や姫の近習に筋肉で助けてもらうなどする。

 一番大きな魔道具になると人の背丈ほどもある冷蔵庫みたいななにかだが、それがなんなのかたずねてみても錬金術師から出てくる説明は何十年も前に始まって賛否ありつつシリーズを重ねるロボットアニメについて思い付くままいっぺんに全部語ろうとしてくるガチオタみたいだったので、私にはなにも解らなかった。

 なぜなのか自分でも不思議だが、このタイミングでそう言えばルディ=ケビンいねえなと妙に恋しく思い出す。

 ルディがいれば多分こう、もうちょっと、小分けにやさしく説明に解説を付けてくれた気がする。

 どうしてルディがいないのかなと寂しい思いを口からちょっとこぼしていると、人間に対して雑な錬金術師らが大森林にはエルフの実家があるのでルディは一身上の都合によって積極的に避けている、みたいな。エルフにも雑な説明をしてくれた。

 詳しいことはやはり解らんが、冠婚葬祭で久しぶりに顔を合わせた親類がぐいぐいくる感じがエルフ的にもダメなのかも知れない。

 そんな感じで錬金術師の集団がメガネの船や自分の荷物にわあわあしている一方で、若武者みたいな姫に付き添う軍用犬を思わせるいかつい容貌のメンズらは平静たれと努めながらも突如びかびかと現れた得体の知れない船の前にはそわそわしてしまうようだった。

 まあ、解る。西洋風の丸っこい帆船にむりやり鉄板を貼り付けた浮力のことをなにも考えてない鉄甲船が、しかも陸地に急に出てきたらきっと訳が解らないに違いない。解るよ……。それでもしっかり荷物運ぶのは手伝ってくれて本当に助かる。

 この点で姫の近習たちは常識的であるとも言えたが、しかしそんなものは全てムダだった。

 なぜなら彼らが仕え守るべき姫本人が「これはいいな!」と張り切って、誰よりも早く怪しい船に乗り込んでいたので。

 魔法のゴリ押しで空を飛ぶ鉄板を貼り付けた帆船の、舳先の辺りで仁王立ちして全身で風を感じる金ちゃんは大体いつもの通りだが、今日はそこに姫が加わってトロールと人族が大小二つの人影を並べてなんか海賊王みたいな高笑いとかしてた。

 姫とメンズと黒い集団、そしてその荷物を積み込んで、船は大森林の間際の町の手前まで空路で移動。人の目を一応気にして船をおり、町まであと少しの距離は仕方なく歩く。

 ここで困るのがやはり錬金術師の大荷物だが、大きいものは全然持ち上げられてもいないのにこの子は絶対連れて行くんだいと錬金術師らがやかましく抵抗。

 アイテム袋も使えないとなると私に手伝えることはなにもねえなと困っていたら、たもっちゃんのドアのスキル乱用によりいつもの手軽な移動に慣れすぎているレイニーがこの辺でイライラのピークを迎えた。

 もうさっさと行きますよ、と重たい荷物に魔法を掛けて重さを消しつついくらか浮かせ、それを錬金術師らに横から押させることで運搬問題を無事に解決。無事とは。

 一秒でも早く町に着きたかっただけなんだろうなと推察するが、なんだかんだ助かる。

 徒歩でも雨にぬれないように頭上に長くメガネが障壁で守る中、重たげな荷物をよいしょよいしょと自分の体重を掛けながら一生懸命に押し運ぶ黒いローブの集団は見た感じ拭い切れない強制労働感がにじんでてあれだが。

 こうして、通常よりはかなり短縮されたルートながらに気分の上ではようやっと、王都を出た日のお昼すぎには大森林の間際の町へ着くことができた。

 そして着くなり、我々は冒険者ギルドの建物のギルド長の部屋へと引きずり込まれた。

 目の前には、ビキニアーマーに胸元全開の白シャツと巻きスカートを重ね、細い剣を腰に吊るしたギルド長。柿渋色の長い巻き髪がデスクの上でうねるほど自席でがっくりうな垂れたその女性の後ろには、初老っぽいギルド職員の男性もいる。

 対して、我々はメガネと私だけである。

 大森林に入るならまずは講習を受けねばと、間際の町の冒険者ギルドで錬金術師の大きな荷物を預けていたら血相変えたギルド長が現れて、連れ去られたのがこの二人だったからだ。じゅげむと金ちゃんはレイニーといる。

 ギルド長も武者姫たちには「ようこそ~」と一瞬愛想を振りまいていたが、しかし我々を振り返った時には持てる全ての感情がこの瞬間死んだみたいな真顔。

 それで急ぎの話があると、物理でぐいぐい部屋へと招かれ今である。

 ビキニアーマーと言うイロモノ属性を持ちながら、なんとなくきりっとかっこいいギルド長はもはや見る影もなかった。

 いや、お酒のことが絡んだりすると割に前からべろべろだった気もするが、やはり今回とは様子が違う。

 ギルド長はどことなくしんなりしてきた長い巻き髪をすだれのように顔の周りに垂らし、ペンやインクや書類の載った大きなデスクに左右の肘を突いていた。

 そして両手を顔の前で組み合わせ、どんよりと暗い瞳で目の前の我々を通り越し遠めの床の辺りを見ながらに言う。

「……あれ、姫でしょう……?」

 なにごとかなと思っていたのだが、その一言で「それかあ」と、たもっちゃんと私の心にめちゃくちゃ深い納得がくる。

 大森林の間際の町のギルド長とは久しぶりに顔を合わせたが、なんとなく記憶にあるよりもぐったり疲れているようだ。正直原因は我々だと思う。

「どうして連れてきちゃうの……あれは駄目でしょ……あれは……」

 ぐったりどんよりしながらに、そんなことをギルド長はうだうだとこぼす。ギルド的に姫はあかんかったようだ。

 しかしそれはそれとして、王族が大森林で冒険してはいけない法はないそうだ。ただ、王族に万が一なんかあった時、大森林の間際の町で人の出入りを管理しているギルドにも罰がありそうって懸念があるだけで。

 実際には王族が大森林に入ることはほぼほぼなくて、なにかあったと言うことも今のところはないと言う。ギルド長の懸念がふわふわなのもそのせいだろう。

 大森林と王族と言うとだいぶん前に王子が姉と張り合って割合に勢いだけでキャンプ張ってたことがあったが、あれはギルド的に大丈夫だったのだろうか。いや、王子は王子であることを隠し、転移魔法陣で現地集合してたから把握してなかった可能性もある。

 なんかふと余計なことに思い当たりそうにもなったが、我々は「まあまあ。もうきちゃったし、あの人は止まんないですよ」と姫の顔を見ただけで疲弊しているギルド長をなぐさめた。とどめを刺しただけかも知れない。

 この時の我々は、やだ~。なんとなく気持ちはうっすら解る気がするけどそんなこととは露知らず~。みたいな。完全に、ひとごととしてとらえていたがゆえの雑さがあった。

 でもあれ。よく考えたら全然ひとごとじゃなかった。

 これから実際に姫一行や錬金術師の集団を連れ、素材を探しに大森林へ入るのはほかならぬ我々なのである。

 なぜだろう。

 そのことに思いいたった瞬間に、脳裏にテオや事務長の顔が駆け巡り「俺達の苦労が解ったか!」と、やけくそみたいに高笑いする幻覚が見えた。

 ギルド長も、明らかにやんごとなき、そして装備のあちらこちらに王家の紋章をくっ付けた得体の知れない一行にちょっとかなり動揺し念入りに確認したかっただけのようで、特に実りある会話などはないながらしばらくすると我々を解放してくれた。

 その頃になると諸事情に気が付き我々もどんよりとはしていたが、ギルド的には問題なく大森林に入って構わないとのことだ。引率として、逆に残念でならない。

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