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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
迫りくる王族の秘密とアグレッシブな白い鳥編
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478 進入禁止の

 魔道具の開発と言うものはどんなに理論が完璧であっても、実物に落とし込む際にどこかしら不具合の出てくるものと聞く。

 だが、一刻も早く素材を採りに行きたい一心で、錬金術師の集団はなんかすごく速く進入禁止の魔道具を作り上げて持ってきた。

 本人たちの説明によると大体完璧には近いはずだが一応試作品であることと、すでに別の魔道具で実用化されている魔法術式をベースに組み上げているので作業がかなり簡略化できたとのことだ。

 王の農園に有用な魔道具を設置すると言う、それなりにちゃんとした理由を申請したため今回は公爵の引率はなし。

 黒いローブに染まり切った錬金術師の集団は代わりに、城から兵士に守られた荷馬車に魔道具と一緒に積み込まれ家畜のように輸送されてきた。

 それでいいのかと一瞬心配な気持ちになったが、本人たちは特に気にしてないようだ。

 設置型の魔道具となると大きなものかも知れないし、運ぶの手伝いがいるかな、と。

 農園の入り口辺りまで迎えに出た我々の姿を発見するや、彼らはすぐさまわあわあとここがすごいここにこだわったこれがこうでこうなってこう! みたいな感じで口々に、魔道具の説明をし始めてつらつら好きなだけ好きなように語ると、「以上です」とばかりに話を切り上げた。

 多分だが、言いたいことを一気に言いすぎて話すことが急になくなったんだと思う。トークのペース配分よ……。

「あとはこれを進入禁止区画に設置して、入らせたくない個体にこちらの、認識用の首輪を付ければ……」

 ぼそぼそとした調子に戻り、特におもしろくもなさそうに義務的な説明をこなす錬金術師の一人に向かい、一応確認するのはメガネだ。

「それはやっぱり……俺達がやるの?」

 進入禁止の魔道具と対になる首輪で、ニワトリの行動範囲を制限するのは理屈として解るとしてもやで。

 荒ぶるニワトリに首輪付けて回るの、もしかして一番大変じゃない?

 そんな、じわじわとした疑問が胸にわき起こるのは当然のことだ。

 いや、決して、魔道具を作るのが大変ではないと言うのではない。少なくとも、私には作れない。

 しかしそれは技術面の話で、なんとなく軽いおやつ感覚で虫やヘビやげっ歯類を仕留めてくるちょっとした猟犬みたいな、あのニワトリたちの鳥足やクチバシでつつき回されるのはまた違った身の危険を感じるタイプの大変さって言うか。

 ちょっとやれる気がしないんですけどと。

 できたばかりの魔道具をかかえてわあわあやってきたかと思えばまあまあのムチャブリをしてくる錬金術師を見詰めると、彼らはニワトリの数だけたくさん用意してきたらしき小さな首輪を押し付けようとする格好のまま、そっとフードに隠れた顔をそむけた。

「こう言うのは、飼い主の責任だから……」

「こんな時だけ何か凄いそれっぽい事言うじゃん……」

 たもっちゃんは逆に戸惑うみたいに呟くが、我々を飼い主と呼べるかどうかは別にして餌付けした責任があると言うのならなんかそれはマジでそう。


 そんな感じでニワトリのほうは任せたと、錬金術師の集団はしとしとと降り続く雨に黒いローブをぐっしょりさせて、進入禁止の魔道具の設置に何組かに分かれてわらわらと農地へ各自散らばって行った。

 なんか魔道具やたらと多いなと思ったら、完成品では重たくて運べずパーツごとに分けた状態で現場で組み立てる計画だそうだ。素材の関係かなんなのか魔道具はパーツに分けても重たげで、頭脳労働専門みたいな錬金術師がのろのろと数メートル移動するたびに長い休憩を取ってたが……あれはなんか、大丈夫だろうか。

 そうして錬金術師が雨の中なんとなく可哀想な感じでがんばっている間、別荘に残った我々は言われた通りに仕方なくニワトリに首輪を付けるお仕事である。

 我々は勝手にニワトリと呼ぶが、ちょっとしたイヌほどの大きさで狩りの獲物として放たれながらに自力で生き抜き群れをなす魔獣だ。

 それがよく解らない人間によく解らない首輪をおとなしく付けさせてくれるとも思えず、この作業は難航を極めるかに思われた。

 しかし、意外となんとかなった。

 まず、とにかくお仕事は一生懸命にやるものと変な根性論のゴリ押しで、戦略もなにもなく真正面からニワトリに挑んだメガネや私が不審者としてクチバシで鋭くつつかれた。あまりにも案の定。自明の理とは恐らくこう言うことだと思う。

 けれども私をつついたニワトリはコケーと声を上げる間さえなく、どこからともなく芽吹いた茨に白く丸っこい全身を巻かれた。

 最近ちょっと忘れていたが、私には私のどんくささにドン引きらしい天界が追加実装してくれた茨のスキルが搭載されている。そのため私が攻撃を受けると、なんか知らんが全自動で茨が吹き出してこう言う感じのことになるのだ。

 なにが起こってこうなったのか恐らく全てを理解する前に――いや、冷静に時間を置いても訳が解らないのは一緒だったかも知れないが。

 仲間をやられたと言うことに気色ばんだニワトリたちが、攻撃的にコケコケ騒いで私の周りを取り囲む。そして鋭いクチバシや鳥足の爪を向けた瞬間に、次々と茨に巻かれて時間を止めた。入れ食いである。

 あとはもう、きつく巻き付く茨をよけて彫像のように動かないニワトリの首と言う首に技術者集団の錬金術師がせっせと作ったデザイン性はなにもない、実用性重視の武骨な首輪を装着して行くだけの。簡単なお仕事。

 ただ、柴犬サイズのニワトリにびっしり囲まれて、仲間になにしてくれてるんだと声が聞こえてきそうな勢いでコーッコッコと責められるのは恐かった。ニワトリって恐い。群れの雌鶏によってたかって怒られて、しょんぼりしていた頭取の気持ちがよく解る。

 また、そのすきに「あっ、これ行けるやつだ」みたいな顔をしたメガネが自分だけさっさと避難して、レイニーはそもそも離れた所から本当に見てるだけであり、金ちゃんは魔道具の設置に参加せず居残った錬金術師らに干し肉で釣られて全身をべたべた測定されるのに忙しく、じゅげむだけがおろおろしながら「がんばって!」と応援してくれていた。

 しかし野性味あふれるニワトリと戦うつもりはこれっぽっちもない身としては、そこはなんか「大丈夫?」とかの、心配のほうがよかったかなとおばちゃん思います。

 なお、茨を解くや元気いっぱいに復活したニワトリたちは多分なにが起こったか最後まで解っていなかったはずだが、それでも本能的なものなのか。もう二度と私には近よろうともしなかった。

 別にそれで困るってこともないのだが、これはこれで寂しいような気がする。

 全自動の茨のお陰でニワトリに首輪を装着して行くお仕事は想定外にはかどりはしたが、なんとなく私の気持ちに色々と釈然としないものの残る一件となった。


 錬金術師がせっせと作った進入禁止の設置型魔道具と、認識用のニワトリ首輪。

 これらを配備することにより、農園および農園の農作物は安全が約束されたも同然となった。主にニワトリの脅威から。

 さらにはメガネが開いたパン教室で腕をみがいた農民一族の製パン担当が忙しい農業の合間を縫って酵母菌を培養し、割と片手間に焼き上げたパン。これからはその、彼らの焼いたパンより出でしパンの耳的なもので野性味の強いニワトリを飼い慣らすことになるのだ。また、そうして王の森を生き抜いてきた猛々しい鳥を農園に受け入れる副次的な恩恵として、虫やヘビやげっ歯類などの生き物をおやつ感覚で捕獲するニワトリたちの習性でこれまで農業従事者を悩ませてきた農作物などへの被害の抑制が期待できたりするのかも知れないこともないらしい。

 つまり話をまとめると、荒ぶるニワトリが農園の庭でわちゃわちゃしているまあまあの原因である我々がニワトリをなんとかしないと農園を離れられない状態だったのが今、なんの遠慮もなくお出掛けできる条件がやっと整ったと言える。

 いや言えるのだろうか。本当に。

 ほぼほぼ農家さんにお任せしてしまう格好なので、ちょっとは遠慮したほうがいいような気もする。申し訳ない。

 ただこうして、雨にも負けず遂行された魔道具の設置作業によって我々に自由を与えた錬金術師の集団は、作業を終えてびっしゃびしゃなのも構わずにはあはあそわそわと玄関から別荘の中を覗き込みさあ行こうすぐ行こうと素材集めのお出掛けを迫った。

 別荘の中まで入ってこないのは、全身ずぶぬれの泥だらけであるので一応遠慮しているらしい。そんな気遣いができたのかとおどろくが、よく見ると魔道具の設置場所を相談するために同行していた農家さんたちがぐいぐいローブを引っ張って黒い集団を別荘から遠ざけようとがんばっている。さすがだ。

 今すぐ行こうとわあわあ騒ぐ黒ローブの集団をなだめ、このために魔道具の製作を急いだ彼らに付き合って素材採集の遠足へ行くのはさらに翌々日のことである。

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