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神の詫び石 ~日常系の異世界は変態メガネを道連れに思えば遠くで草むしり~  作者: みくも
迫りくる王族の秘密とアグレッシブな白い鳥編
475/800

475 日陰の生物

 雨足はそれほどでもないものの、絶えずしとしと降り続く雨はやはり厄介なのだろう。

 その人は玄関の外でふるふると軽く水気を振り払い、さらに魔法で身を清めてやっと翡翠の瞳をほっとしたように細めて笑う。

「困りますね、雨季と言うものは」

 ミルクにハチミツを垂らしたみたいなプラチナブロンドの、真っ直ぐ長い髪の間からつんととがった耳が見えている。

 たもっちゃんは、歓喜した。

「ルディ=ケビン! どうしたの? いらっしゃい! お腹空いてない? 何か食べる? 何でも言って、作るから! それにしてもどうしたの? いや、会えて嬉しいんだけどね! 何なら毎日会いたいけどね!」

 やかましい。

 ここのとこ野菜ばかりを相手にしすぎた変態が、急にエルフを摂取して変なブーストを掛けられている。

 はあはあとエルフに迫るメガネの感じに引いていて気が付くのが遅れたが、ルディ=ケビンの近くにはもう一人、やたらときらきらとした人物がいた。

 人族ながらにエルフに負けず輝いた、アーダルベルト公爵である。

 私は、なんでいんのと言った気持ちで問い掛ける。

「一緒にきたんですか?」

「今日は彼等の案内だからね」

 淡紅の瞳をほほ笑ませ、そう答える公爵はなぜだかほかとは違い最初から一粒の雨にもぬれず無事だった。

 ペトロネラ様の別荘へ二回目に王様ときた時は欠席していた公爵家の執事がそばにいて、完璧に守っているからだろう。

 考えてみれば、ここは王家の農園である。普通に遊びにこられる立地ではなかった。農家さんのお手伝いを通じ、我々がなじみすぎているだけで。

 だからこの別荘へ足を運ぼうと思ったら、しかるべき引率が必要なのもなんとなく解る。

 ただ、私にはいまだにピンときてないが公爵はとてもえらいらしいので、目下の者から公爵に案内を頼めるものか疑問には思う。

 あと、公爵家の執事がいるのはいいとして、その執事のところの末っ子のまだ小さな少年がなぜかいて動きやすく汚れてもいい服装でわくわくとレジャー感を出していることや、さらにルディ=ケビンの体の陰でうぞうぞと輝かしい公爵と常に対角を取ろうとうごめく黒いローブの日陰の生物っぽい集団がちらちらと見えているのがなんとなく、ちょっと見ただけでも情報多くてもうなにも解らないなと思った。


 アーダルベルト公爵は逆に凪いだみたいな感じでゆったりと、先々代王妃のためのリビングでソファに深く腰掛けて語る。

「……いや、王にね、魔獣の事は君達に任せたは良いけど上がってくる報告が訳解らないし、姫の事もあって心配だから一度ちゃんと様子を見てきて欲しいと言われてね。それと、これは君達に。約束の、王城で作らせたマロングラッセだそうだよ」

 公爵のなにげないような視線を受けて、有能執事がすかさずささっとテーブルに置くのはフタ付きの平たい箱だった。

「ぴっかぴかじゃないですか……」

 自分の口から無意識に、思ったことがこぼれ出た。

 ソファのそばの小さなサイドテーブルや正面の広く低いテーブルに、魔石のランプが灯されているのは雨天で昼間も薄暗いためだ。

 その魔石から生まれる光を受けて、艶やかなあめ色に輝く箱は恐らく木材でできている。幾何学模様を組み合わせた彫刻で繊細に、さり気なく、飾られた木箱はそれ自体が美しい。

 けれども確認するよううながされ、フタを開けると中はさらにぴかぴかとしていた。

 異世界栗の可能性を知った王様が色々とレシピを持って帰った時に、これ幸いとお城の一流パティシエの作を横流しして欲しいと密約を交わしたのはほかならぬ私だ。

 しかし、ここまでレベルが違うとは正直思っていなかった。

 宝石を丹念にみがいたように傷一つなく輝く栗は表面がとろけそうになめらかで、それでいて実際はさくりと硬く砂糖でコーティングされている。

 しかも絶対味には関係がないのに、四つの花びらが二重になった指先ほどの小さな、つるりと硬く薄く繊細な、それだけでも貴重品である砂糖の花が可憐な飾りとして添えられていた。

 なんと言う贅沢。

 プロパティシエの犯行がすごい。

 最初にマロングラッセだからねとストレートなネタバレを受けてても、「ふええ」と変な声が出た。

 しかし、王城からきたマロングラッセのまぶしさにひれ伏しているのは私と、自分の用意した基本レシピから生み出されたはずなのに仕上がりが違いすぎてもはや嫉妬する気も起きないと早口の小声で呟くメガネ。そして指先でつまめる程度の小さな菓子に、人類の英知と奇跡を見たかのようなレイニーだけだった。

 いや、ほかの客たちもこの輝きを目の当たりにしたら平静ではいられないはずだが、と言うか全人類そうあるべきに違いないのだが、彼らは今、別のことに忙しい。

 ルディ=ケビンとそのそばで黒くうごめく日陰に巣食う生物たちは、雨の景色を映し出すリビングのテラス窓に貼り付いていた。

 まあ日陰に巣食う生物と言うか、フードの付いた黒ローブを愛しすぎている陰キャの錬金術師たちである。個人的に親しみがすごい。

 彼らは対人窓口としてルディ=ケビンを盾のように先頭に立たせてひとかたまりの黒い生物のように訪ねてきたが、今はそんな光を嫌う虫めいた自分たちの属性も忘れて窓にべたべた手を突いて横並びに広がっていた。

 そしてテラス窓のすぐ外でじゅげむともう一人の子供がそれぞれ片手で持てるだけぎゅっとにぎったパンの耳をちぎり、しとしと降り続ける雨にも構わずスタンバイしたでっかい鳥の集団にぽいぽいと投げ付け、対するニワトリたちもまた俊敏な動きでパンの耳が地面に落ちるより前にしっかりとキャッチする一連の様子を「えぇ……」とざわつきながらに見ている。

 じゅげむも最初は公爵との割と頻繁な再会にひとしきりもじもじしていたが、有能執事の末っ子がいると気が付くと、「ノルベルトにとーどりみせていいですか?」と大人に問うてぎゅっぎゅと互いに手をつなぎ裏庭のほうへと連れ立って行った。

 それで執事の息子である少年の、ノルベルトに持てるだけのパンの耳を持たせて始まったのがこのニワトリショーである。

 一応子供とニワトリの間にはまだ障壁があるものの、距離は近いしそれでいて魔獣の一種であるはずのニワトリたちもおとなしく……は、ないかも知れないが。妙に行儀よく餌付けされていて、錬金術師らに言わせると常識的に考えて訳が解らないらしい。

 根拠は特にないのだが、なんとなく非常識そうな錬金術師にこの言われよう。じわじわとひどい。

 心配なのかアーダルベルト公爵やその有能執事も視線は子供たちに向いていて、そのために我々はプロによるマロングラッセの衝撃をなんかもっとこう、きゃいきゃいと大騒ぎして共有したいみたいな気持ちを出すに出せず、別に出してもいいけど今ではないかなと消化不良のような感じで持て余してしまうことになる。

 あるじゃない。なんかほら。すげえものを目の当たりにした時は、自然発生的にカーニバルかなんかが始まる時が。ないか。

 アーダルベルト公爵は、心配なように、戸惑うように。

 美しくきらめく淡紅の瞳にどことなく遠い感じの視線をのせて、子供らに向けつつ問い掛ける。

「あれは……大丈夫なの?」

 その先にあるのは、子供とニワトリとそれを見る錬金術師たちである。エルフのルディ=ケビンも含む。

 公爵には野菜のお裾分けするついでに金ちゃんがうっかりニワトリを餌付けしたことを一応言ってあったが、じゅげむまでこんなになじんでいるとは思わなかったようだ。

「あれ……どうするの?」

 と、さらに重ねて問うのはあれと言うのがニワトリで、ボスの頭取を始めとしたあの群れは我々がなんとかしなければならない魔獣と言うことがあるからだろう。

 そこには悲しい別れが待ってはいないか?

 いずれは食肉が運命の家畜に、家族のような愛情を持たせすぎているのではないか?

 大人として、子供の気持ちを傷付けないようもっとに配慮すべきではないのか?

 公爵は、そんなことを切々と、はばかるようにひそめた声で我々に向けて訴えた。

 言っていることは解る。もしもこれが愛玩動物だとしたら、お肉になるのはつらすぎる。

 だから公爵は多分、一番にじゅげむの気持ちを考えてくれているのだと思う。

 しかしじゅげむより先に変な愛着を持ってしまったのは私だし、なんなら王様も狩りの季節にちょくちょく見掛けるたくましすぎるニワトリに愛着あるみたいなこと言ってたし、なので食肉はやめようと言う方向性になっていた。

 それと、見て。

 子供らのそばには当然のように金ちゃんがいて、ニワトリにエサを与える小さき者たちをわしが育てたみたいな顔で満足げに見ている。あれはもうなんか、手遅れだと思う。

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