表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
459/800

459 挙動不審で面倒な

 王城の錬金術師らは黒ローブに埋没し、一人一人の個性は見えず、ものすっごい小さな声でぼそぼそとしかし主張はどちゃくそでかい。

 こう言うと挙動不審で面倒な集団でしかないのだが、かなり自由に振る舞っていてもなんだか許せてしまうところがあった。

 小さい声でわあわあは言うが基本びくびくしているし、こっちから急に近付いて行くと「ひぇっ」と小さく悲鳴を上げてあわてふためいて逃げて行く。

 まるでクモの子を散らしたようにわーっと広がってどこまでも逃げ、ちょっとした物陰にぎゅうぎゅう詰まって発見されるのでもはやなんかそう言う妖精みたいな感覚すらあった。なんなんだキミらは。

 けれどもそんな繊細妖精共と、日陰に巣食う生物として妙に響き合った者がいる。メガネだ。

 かく言う私もまあまあ彼らには本質的になじむものはあるのだが、たもっちゃんはレベルが違う。

 錬金術師は魔道具の開発もすると言うので自作の魔道具、その魔法術式の効率化について相談し始めたかと思うと黒ぶちメガネは黒ローブの波間にあっと言う間に消えた。ぱっと見ただけではどこにいるか解らないくらいだ。

 そうして一枚にまとめた通信魔道具の板やじゅげむの安全を図るため最近せっせとこね上げた搭乗型ゴーレムの実物を見せ、ああでもないこうでもないとぼそぼそ呪文のように呟き合ってなし崩し的に改良作業へと突入。

 錬金術師の集団も本職だけに、そう言う話や作業が嫌いではなかったのだろう。そこだけ光属性でちょっと輝く感じのしているルディ=ケビンを含めて、みんなできゃっきゃと楽しげに魔法術式をいじり回して遊ぶみたいに親交を深めていたようだ。

 ようだ、と言うのは私がそれを最後まで見ていなかったからだ。

 もともと興味がないこともあり、魔法術式とその改良、またはうごめく日陰の虫めいた術式マニアの集団を眺めるのにも早々に飽きた。

 保湿クリームの製作も途中だし、アーダルベルト公爵とその使用人たちにあとはよろしくお願いしますと押し付けて、ゴーレムが出てきた辺りでちょっとそわそわしていたが使命感を思い出したじゅげむと作業途中の厨房へ戻った。

 次にメガネと錬金術師の集団を見たのは、夕暮れ頃のことである。

 こちらはせっせと魔女鍋をかきまぜ保湿クリームを作り続けていたのだが、同じ作業をくり返しすぎてもはや今自分がなにをしてるのか解らなくなってきていたところへ、黒ぶちメガネの顔面をぴかぴかさせてメガネがじゅげむを呼びにきた。

「ゴーレムの改良できたからきて!」

 私は別に呼ばれてなかったが、たもっちゃんとじゅげむの後ろをレイニーと一緒に付いて行く。

 保湿クリームはまあまあ大量にできていて、今日の作業は容器に詰めて終わりの予定だ。だからあとは任せてと、メイドさんたちが送り出してくれたのだ。優しい。私が瓶詰め作業を手伝うと、かえってジャマなだけの可能性も高い。

 たもっちゃんがじゅげむを連れていそいそと、向かった先は公爵家の裏に広がる運動場めいた鍛錬場だ。

 そこには見物なのか騎士や使用人の姿がちらほらとあり、少し離れた場所に黒っぽい集団。そしてその真ん中に、ぼってりとした土でできたゴーレムとがっぷり取り組んでいる金ちゃんがいた。

 よし! そこだ! 行け! と金ちゃんを応援する公爵家の人々に対し、錬金術師の集団は改良に手を貸したゴーレムをそわそわと心配そうに見守っている。

 トロールとゴーレムの勝負はかろうじて、金ちゃんが筋力にものを言わせてゴーレムをむりやりうっちゃり勝利した。

 ああああ……、と小さく悲しげな声を上げながら、黒い集団がわらわらとひっくり返ったゴーレムに群がる。

 そうしてやっぱり小さな声で、壊れた所はないか、相撲勝負に勝つための改良点はどこか、重さを増せば有利にはなるがそれだと移動に難が出るなどと白熱の、もはやこのゴーレムがじゅげむの緊急離脱用であることを忘れ気味の議論が交わされていた。移動に難が出たらダメだろ。

 それぞれ一人で勝手に話しているようでありながら、なんとなくかする感じで微妙に会話が成立し、全体的にわあわあと落ち着きのない錬金術師たち。

 その集団をかき分けて、たもっちゃんは起こしたゴーレムにじゅげむを持ち上げよっこらしょと乗せた。

「じゃ、レイニーお願い」

「えぇ……また……?」

 なぜかメガネは試運転の攻撃係にまたもやレイニーを指名して、自分は走って距離を取る。戸惑いながらも仕方なく、レイニーはやる気のないやんわりした動作で「えーい」とゴーレムの丸っこい背中をはたいた。

 運転席を保持したままに、ぐんにゃりと変形して行くゴーレム。それは車の形を作り、四つの車輪をぎゅるぎゅる鳴らして一直線にメガネへと走る。

 元々が、じゅげむに危険がないようになにかがあればメガネの所へ避難するよう設定されているのだ。

 しかし、問題はここからだった。

 滑るように疾走する車体は、いつもならメガネにどかんとぶち当たって止まる。たもっちゃんが強靭なメガネを装備してなければ、毎回人身事故である。

 けれども、幸いにも今回は違った。

 ぎゅるるるとうなる四輪で、車はドリフト気味に鍛錬場の地面を走る。そしてあっと言う間に迫ったメガネの目前で、車はギュギュっとタイヤを鳴らして急停止した。

「おお」

 ――と、感心の声を上げたのはすでに何度かゴーレムでの人身事故を目撃している私やレイニーだけだった。ほかの見物人たちはそもそもメガネのゴーレムを見るのが初めてで、事故を起こさないと言う当然のすごさがイマイチ解らずにいるのだ。

 けれども、このすごさを解る人間はもう一人いた。車両となったゴーレムの、運転席にいながらに特に操縦などはしてない搭乗員のじゅげむだ。

「りこさん! ぼく、たもつおじさんひかなかったよ!」

 よほどうれしかったのか、ハチ●ク形態のゴーレムの中から「うまくできた!」みたいな感じでじゅげむが輝く顔をこちらに向ける。口走っている内容はともかく、なんともほほ笑ましい光景である。

 改良作業に手を貸した王城の錬金術師らもこの結果には満足したようで、引率のルディ=ケビンが公爵や公爵家の人々と我々にぺこぺこと恐縮しながら挨拶するのを早く帰るぞと急かすくらいの勢いで一仕事やり切った感じでぞろぞろと帰った。多分だが、新しい巨大魔獣を手に入れると言う当初の目的がダメになったのはすっかり忘れているんだと思う。

 翌日も、また私は保湿クリームの製作に当たり、たもっちゃんはそのすきに「昨日はお役に立てなくて申し訳なかった事ですし」などと理由を付けてルディ=ケビンの家に押し掛けようとくわだてたところを、実際はそうでもないのに見た感じだけはモテる男のムーブメントが止まらないアーダルベルト公爵に「そう言うの、嫌われると思うよ」とジャブにしてトドメのお言葉をいただき沈められていた。

 エルフへの愛の深さで自らを傷付けた繊細メガネはめそめそと、おとなしく公爵家にとどまって自作の魔道具をいじったり料理を作ったりしていたようだ。

 またさらに翌日になると、私は鍋をまぜてるだけなのに主に公爵家の有能メイドやお手伝いに余念のないじゅげむたちの活躍でどんどん容器に小分けにされて完成品として整った保湿クリームが納入できる数へと達した。

 うちの保湿クリームは健康が強靭すぎるからなのか、なぜか長期間もつほうではある。

 しかし王城へ納めるものには一応念を入れ、保存の魔法を施した箱に並べて詰めて納入しようと言うことになった。

 保存箱の作成はメガネが担当し、その保存の魔法術式にレイニーが魔力をこれでもかと込め、じゅげむがメイドさんたちとせっせと箱に保湿クリームの瓶を詰める作業の様子を、私はぼーっと横で見ながら与えられたお茶とおやつをもそもそと食べてなけなしの体力の回復を図った。

 もう鍋をかきまぜるターンは終わってたので私も箱詰め作業を手伝おうとはしたのだが、しょっぱなに保湿クリームの容器を二つ三つまとめて落としてあやうく破損し掛けたことからあなたはもう充分がんばったからいいのよと私以外の人たちはみんな忙しそうな厨房の端にそっと、しかし有無を言わさず追いやられている。有能メイドの合理的優しさがしみるよね。

 そうして私と言う最大の不安要素を取り除き、有能かつそれなりの数の人員で当たった箱詰め作業はなかなかのスピード感で完了。午後にはお城へ納入へ行けることになったが、これにはメガネやレイニーだけでなく公爵も一緒にくると言う。

「君達だけで城へやるのは心配だからね」

 と、やはり端的でありながら的確なお言葉をいただいた。おどろきの説得力すごい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ