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458 黒ローブ集団

 彼らはなぜか一様に、フードの付いた黒っぽいローブを着用していた。

 ローブの裾は全身すっぽり隠すほど長く、それがぞろぞろと集まるとなんだかすごく近付きたくないような雰囲気がある。

 あまりにもみんな黒いのでなんかそう言う制服なのかなと思ったら、違った。

 代表者の説明によると、王城勤めの錬金術師に制服はないが人の目を避けたい一心を突き詰めた結果、なぜだか全員黒いローブに行き付いてしまっただけらしい。

 悲しいね。平凡モブのはずなのに、悪い意味で逆に目を引く悲しい陰キャの習性である。なぜだろう。私までつらい。

「でもほら、ねっ! こうなってくると個体の識別はもはや不可能に近い訳ですし。目立つか目立たないかで言ったら目立つけど誰が誰とかは解らない訳ですし、ねっ」

 たもっちゃんは「ねっ、ねっ!」と必死でフォローを試みていたが、全然うまく行ってない。むしろ傷を広げてるくらいの疑いまである。

 たもっちゃん、そして私もだが、どっちかと言えば彼ら黒ローブ集団に近しい生態を持った者はむしろ、同族のフォローがド下手くそなのかも知れない。ごめんな……救うどころかトドメを刺してしまって……。

 そうしてメガネが空回りする現場は、公爵家の玄関である。

 迎えるのは家主である公爵本人に、なんか呼び出されたメガネと私。時刻も時刻でさすがに起きてしっかり昼食を済ませたレイニーと、早朝から私が作業していたと知りどうして起こしてくれなかったのと悲しみながら一生懸命保湿クリームの瓶詰め作業をお手伝いしていたじゅげむなどである。

 めずらしく金ちゃんが見えないが、保湿クリームの製作現場に立ち入りはならぬと使命感あふれるメイドたちに締め出され、仲間外れにされた悲しみからだろうか。騎士を相手に相撲を取ったり異世界ポロのフィールドでボールを奪って駆け回ったりと、なかなか忙しくしているらしい。私は話に聞いただけなのに、大暴れする金ちゃんの雄姿が目に浮かぶ。

 金ちゃんの首輪はあんまり我々から離れられない設定のはずだが、公爵家の敷地なら大丈夫なのか、たもっちゃんがなんらかの設定をいじったのだろうか。

 その辺は詳しく知らないが、お昼になると泥だらけの騎士と金ちゃんが一緒にのそのそ現れてごはんをガツガツたくさん食べるとすぐにまた遊びに出掛けたし、どことなくいそいそと楽しそうだった。ほほ笑ましい。

 まあそれはいいのだが、午後も私は公爵家のメイドさんらの期待を背負いせっせと魔女鍋をかきまぜて、丹精と執念込めて作り上げたクリームをメイドとじゅげむがめちゃくちゃ慎重に容器の中へと詰めて行く。

 その瓶詰め作業の様子はさながら熟練の職人が龍の絵に目を入れるかのような緊張感があり、じゅげむは特に私が横からねえねえそろそろ休憩しようよおやつ食べてだらだらしようよとどれだけ言っても「だめ。もうちょっと」とはね付けられる熱心さだった。

 だから、ちょうどいいと言えばよかった。

 言いようによっては、助かったと言っても間違いではない。

 時刻としては昼下がり、魔女鍋をかきまぜるのにも飽きてきた私がやだやだ休もうと一人で休息を訴えていると、公爵家の有能執事が来客があると呼びにきた。

 それで作業の手を喜々として止め、言われるままに玄関へと案内されて、今である。

 聞けば、黒ローブの集団はアポなしで公爵家へきたらしい。

 これは結構礼儀知らずでマジやばいみたいな話をなんかで聞いたような気がするが、使用人に来客を知らされたのだろう。玄関にすでにいたアーダルベルト公爵は、別に怒ったりはしなかった。

 と言うか、この黒々しい陰気な集団を見る目は非常に凪いでいて、まるでもうなにかをあきらめているかのような我々を見る時の表情に近い。なんでや。

 一方、私と同じく訳も解らず呼び出されたはずのメガネは急にぐねぐねと、体をよじってもじもじとしていた。

 この理由は非常に単純だ。

 なぜならば、王城の錬金術師であるらしい黒ローブの集団がその背中に隠れ、盾のように先頭へと押し出しているのが我々の割とよく知るエルフのルディ=ケビンだったので。

「リコ、リコ。保湿クリーム作ってんでしょ。出して。新鮮ないいとこ特別に出して」

「いや、クリームは大鍋で作ってっからいいとこもなにも品質は均一で……」

 なぜか私の肩をばしばし叩いて保湿クリームを巻き上げんとするメガネに細かくマジレスしていると、自分の後ろに隠れようとしてもぞもぞうごめく影みたいになっている錬金術師のかたまりを律儀に紹介していたルディ=ケビンが申し訳なさそうに言う。

「急にすいません。こちらのご都合も伺わなくてはとは言ったんですが、どうしても急ぐと」

 自分が止めるべきだったのに力及ばずと、黒くうごめくコミュ障の集団を背景に彼はどこかしょんぼりとしていた。

 これにはメガネがはっとしたように、あわててぶんぶんと首を振る。

「いや、いいの! あっ、公爵さんがいいかどうかは解んないけど、俺は大丈夫! いつでも大丈夫! それよりルディ=ケビン久しぶりだね! あのね、これ。保湿クリーム。今リコが作ってて、いいところ出してもらったから。使って。実験とかで手が荒れたりするでしょ。使って。妹さんのぶんもあるから持ってって。それでね、それで……」

 色素の薄いさらりとした長髪に、つんと飛び出すとがった両耳。涼やかな宝石みたいなエルフの両目に見詰められ、たもっちゃんは倍速の早口になりながら私から巻き上げた保湿クリームを両手でずいずい付き出しルディに迫る。

「それでね、よかったらなんだけど、今度俺と二人で珍しい素材でも集めに……」

 そのもじもじぐねぐねと長くなりそうなどうでもいい話をぶちぎって、私はルディ=ケビンに向けて問う。

「今日はなんか用だったの?」

「あ、はい」

 なんだよ甘酸っぱい採集デートの淡い期待くらい持たせてくれてもいいだろと、目の前のエルフを救うべく割って入った私に対してわあわあ言ってメガネはちょっと泣いていた。

 それをやかましいなとぐいぐい横へ押しやって、なんかこう言う感じにも慣れてきたルディ=ケビンと話してみると用があるのは彼ではなくてその背後でもぞもぞうごめく日陰の生物たちだった。

 ルディ=ケビンは森を愛するエルフの中ではめずらしく、王都で錬金術師をしている。

 ルディはいつも王城に詰めている訳ではないとのことだが、我々と最初に出会った時に国の仕事で現地調査にきていたように王城関連の業務もこなす。

 そのため王城の錬金術師とは同僚のような関係だそうで、それとコミュ力の事情によってこうして公爵家訪問団の代表者にされてしまったとのことだ。

 そう体が大きくもないルディをずっと盾にして、もぞもぞと後ろに隠れる黒いローブの集団は虫の羽音みたいな声でなにやらぼそぼそと口々に言いつのっていた。

 内容は全然聞こえてこないのに、それがいっぱい集まるとなんとなく雰囲気がやかましい。なぜだろう。逆に実家のような安心感と懐かしさすらある。

 しかしなにを言ってるかは解らず困っていると、小さな声でやいやい言ってる集団の、いくつかの訴えをルディ=ケビンが通訳のように伝えてくれた。

 いわく、「王城にきてたなら俺達の所にも寄るべき」「むしろ一番にくるべき」「また魔獣を固めたものがあるなら買う。支払いは王がする」「ないなら今から固めてこい」「その保湿クリームもちょっと見せて」「あと、公爵が恐いからどこかへ追い払って欲しい」「眩しい。恐い」「顔面の眩しさに煩わされる人生かと思うといっそ気の毒ですらある」――と、まあ。よくよく聞くと言いたい放題で、しかも半分くらいはきらきらしいアーダルベルト公爵に対する恐れと余計なお世話でしかなかった。

 錬金術師の集団と公爵は以前、私がやむにやまれず茨で巻いて置いて行った巨大な魔獣を喜々として王城の錬金術師が引き取ったことから縁ができていたようだ。

 彼らはその当初からこんな感じでびくびくしながら失礼をぶちまけ、でも正直だからしょうがないなと公爵も腹は立てずに凪いだあきらめで見守ることにしているらしい。

 公爵さんの細かいことへのスルースキルは我々が鍛えた。感謝して欲しい。

 でっかい魔獣を茨で巻いてたまに公爵経由で納入する我々に、一度会ってみたかった。

 まとめるとそんな動機を要領悪くぼそぼそ語った集団は、新しい巨大魔獣の在庫は特にないと解るとあからさまにがっかりし、代わりになぜかメガネが出してきた食べようと思って確保してたけどまずくてムリだったでっかいイカを自分たちも食べてみたいと言い張って調理の様子をわくわくと見学。いざ食べると案の定まずいと正直に酷評。変な効能が付いてると興味を示した保湿クリームに関しては、私の体質に関係するのでまねできないと知るや急速に興味を失った。

 我々も人のことは多分全然言えないのだが、錬金術師、クソ自由。

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