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293 繊細で微妙な

 王子は公爵家の屋敷に結構長く居座って、ずっとメガネに張り付いていたが特に実りある会話などはなかった。

 通信魔道具を使ってもなかなか繋がらない問題については、基地局となるピラミッドが遠いからちょっと魔力の消費効率は悪くなったりはするがもう通信魔道具をまとめて管理することにしたからこれからは大体つながるよ。と伝えはしたのだが、今は、これからの話がしたい訳ではないらしい。

「これまでの、冷たいしうちに傷ついたわたしの心の話をしているのです。ところで、師匠。また新しい料理をわたしの目の届かぬ場所でひろうなさったそうですね」

 私、それにも傷付きました。

 みたいな感じでさめさめと、憐れっぽく装い文句を言いつのる王子は強い。

 おそばに控えたいつものじいやや何人ものお付きの青年などが、おいたわしい、と同調するのでもはや団体芸のおもむきである。

 たもっちゃんもさすがに「あいつ、やり口が手慣れてるんだよな……」などとのちに首をひねりつつ、ピラミッドまで行ったついでに砂漠の砂でタコ焼き用の鉄板を作る用の鋳物の型を何個か作ってあげていた。

 そうして、公爵家の庭で遊ばせていたもふもふはっはといるだけでかさばる八匹のイヌのような魔獣を連れて、砂漠産のスゲー保湿ジェルをおみやげに嵐のように王子は帰った。

 その前に初対面のじゅげむに対してなにやら複雑そうな顔をしたかと思うと、「わたしのことは、兄弟子とよびなさい」とおもむろに告げるなどしていた。

 きっとなにか彼なりに、譲れぬなにかがあったのだろう。よく解らんし、知らんけど。


 そこからは、数日のヒマな時間になった。

 我々にヒマを与えるといらんことをしてしまいがちなのだが、仕方ない。都合のいい契約魔法の使い手をうまいこと選定した上で、王城から知らせがくるのを待つ時間なのだ。

 まずはあまりにもはあはあと熱望するメガネに引きずられルディ=ケビンの家を急襲したり、妹さんであるルドミラ=シーヴァを完璧にガードするルディからパンを大量に焼くためだけの大型オーブンと言う名の魔道具開発の進捗をうっとりと聞くメガネの様子を見守りながら、なにかあればすぐにでも金ちゃんをけしかけメガネを止める心と金ちゃんへのごほうびのおやつを準備して待機したりした。

 パンを焼くための魔法術式はメガネがガン見でアレしているのでまあまあ完成度は高めだそうではあるが、やはり実際作ってみると筐体が熱でゆがんだり、そのためにすき間ができて熱効率が悪くなったり温度にむらができてしまったり、なにかと問題が出てきているそうだ。

 今はそれらを地道に解決している最中だそうで、完成にはもう少し時間が必要になるとのことだった。

 ついでに食品自体は扱わないが調理器具はまた別で、大型オーブンの開発に積極的に一枚噛んでいるフーゴの実家、ペーガー商会にも立ちよる。

 それで迎えてくれたペーガー父に「やあ、ベッドもかなりできてきてるよ」みたいな感じで話を振られ、前にお店によった際、スプリングベッドの開発を期待しコイルの概念を商人と職人に調子に乗って伝えたことを思い出す。

 そうだった。あの時は、ベッドマットレスのアテがなく、なる早で開発してくれと言う気持ちでいたのだ。

 しかし、今の我々にはあれだ。ツタで作ったマットレスがある。やばい。素材のツタが割とどこにでもはびこっている上に、自分たちでなんとかなるかと思うともう外注で大量に買うモチベーションがない。

 ごめん。その開発止められないかなと、正直かつおそるおそる申し入れてみたが、スプリングマットもこれはこれで需要があるはずだからまあいいよとのことだった。ペーガー父のふくよかな包容力である。

 あと、フーゴに目を付けられるきっかけであり、コイルの概念に言及する元ともなった安全ピン。これはそこそこの安全性、耐久性をクリアして、すでに商品化されていた。

 せっかくだから、知り合いの貴婦人に配り歩くためにいくつか購入しておく。

 貴婦人のドレスはバラバラのパーツをピンで固定し着付けて行くスタイルなので、重宝されるはずなのだ。おしゃれに敏感そうな娼館のマダムや、レディたちにもウケるかも知れない。


 あとはほかにも細々と、色々な店で買い物したり、砂漠の魔族たちに会いに行ったりもした。

 数日したら人族の客が契約魔法を結ぶためにくると伝えなければならないし、食事を届ける用もある。

 しかし毎度毎度我々が、と言うか料理担当のメガネが、ドアでばーんと訪ねて行ってぽいぽいと食事を届けていると魔族たちが気を使い始めた。

 いつも悪い。本当に悪い。三人もいるし、食事くらいなら自分たちでなんとかできる。食材も、狩りをすればなんとかなるはずだ。

 そう言いつのる魔族の叔父と二人の姪に、我々は察した。毎度毎度、ドアでばーんと訪ねて行くのはちょっと迷惑だったのかなと。

 いや、本当に悪いと思っているのもあったのだろう。しかし、年頃の女の子もいる訳だしね。遠慮とかね。したほうがいいよね。多分だけども。

 そこでメガネは粛々と、食材を保存するために魔力を流すとよく冷える、映画とかだと猟奇的なお肉が丸ごと入ってそうな大きな箱を作ったりした。冷蔵庫って言うんですけど。

 また、私は私で必要そうなものを買いそろえたり運んだりして、結構忙しくすごす。

 主には、簡単なものなら服も作れると言う魔族の双子に、布や裁縫道具をそろえたりなどだ。調理器具や家具などは、メガネがなんとかするらしい。

 しかし、私にはセンスも知識も腕もない。

 布はシュピレンで押し売りされて眠っていたものに、無地の生成りを買い足しただけで勘弁してもらった。染めとか柄とか、若い子の好みなどなにも解らない。なにもだ。

 その代わり、やはりシュピレンでいつの間にか買わされていた素材としてのビーズや、王都で生地などを扱うお店に山ほどあったレースやリボン。色とりどりの華やかな刺繍を施した布製のテープなどはかなり集めた。

 これらを飾りに足すだけで、愛想のない生成りの生地もぐっと華やぐ。天才。

 テープやレースはかわいい上に、趣味に合わないものは使わずに済ませることだってできるのだ。自由。私のセンスの微妙さを押し付けずに済む、その自由。ありがたい。

 こうして魔族の少女たちについて、必要なものなどを考えながらにこれでもかと買い物をしていた訳だが、その途中。

 気が付いてしまったことがある。

 彼女たち、ルツィアとルツィエは、恐らくまだ十代前半の少女だ。確かめてないので、見た感じだが。

 なんにしろ、十代の少女は繊細で微妙な年頃である。繊細な年頃と言うとさ、ほら。あるでしょ。色々。

 例えば、初めてのブラ問題とかが。

 いや、実際彼女らのブラ事情がどうなっているかは知らない。

 しかし一緒に暮らすのが最近まで存在も知らなかった明らかに子育て経験のない叔父である以上、彼女らのバストを守るのは赤の他人ながらに一応最も身近な女子である私の役割かも知れぬ。

 そんな思いで、私は前に一度だけお世話になった王都の高級下着店の門を叩いた。

 なお、この件でメガネに相談するのはちょっと違うかなと思い、とりあえずレイニーに話したら全然なんの参考にもならずに終わった。天使のバストはブラではなくて、神の御力によって守られているのかも知れない。

 仕方がないのでなぜか女性の下着に造詣の深い某公爵さんに相談し直すと、「それを何で私に聞いたの……?」などと戸惑うポーズを取りつつもお店の人に聞けばいいと思うと、納得の深い助言をくれた。

 だいぶん前に自分のブラ問題を打ち明けた時もそうだが、公爵からはいつだって女性下着に理解の深いアドバイスが出てくる。

 結果、お店の人もめちゃくちゃ親身に考えてくれた。ありがとう、一流下着店。ありがとう、大体のフリーサイズでヒモや帯で調節し固定するタイプの乳バンド。

 オーダーメイドに比べればベストチョイスではないのかも知れないが、採寸のために魔族を王都に連れてくる訳にも行かないような感じがするので本人たちと相談の上でこれでなんとかしたいところです。

 まあ、結局。彼女らは父方から受け継いだらしいもふもふとした豊満な胸毛があるために、この人族向けのブラをそのままでは装着できなかったようだ。自分たちで手を加え、力業でどうにかすることになる。

 私の力不足はいなめない。

 だが恐らく最も身近なおばちゃんとして、微力ながらできることはしたと思うの。


 そして、王都をぶらつき砂漠に通い、時間を潰して十日ほど。

 王城から、公爵家へと客たちが訪れた。

 契約魔法を使うため厳選された魔法使いや立ち合いの騎士を無意味な魔法陣と目隠しの障壁でごまかしたドアで案内し、三人の魔族をやっと自由にする日がやってきたのだ。

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