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285 優しさが足りない

 背の高い木々が生えた山の中。

 無数に重なる枝や葉っぱに夏の日差しはさえぎられ、雑草や枯葉に埋もれた山の斜面は鬱蒼と暗い。

 そんな山のある木の根元。草葉に隠れて、人の手よりも少しだけ大きい程度の穴がある。

 小動物がひそんでいそうな横穴を前に、たもっちゃんは言った。

「リコ、ちょっと手ぇ貸して」

「こんな嫌な予感しかしないことってある?」

 リディアばあちゃんとレミの手料理でわいわいと騒がしく朝食を終え、分けてもらったフラウシのジャムや野菜のスープ、調理前の食材などをピラミッドまで届けに行った。

 こうして山に分け入ったのは、それからのことだ。

 ちなみにここは、クマたちの住むヴィエル村のすぐ裏。いくつか連なる低い山の一つと、めちゃくちゃに近場だ。

 たもっちゃんとレイニーと私が、山へとやってきたのは昨日しぶしぶギルドで選んだ罰則用の依頼のためだった。

 罰則は、冒険者が見向きもせずに残った依頼が割り当てられる。なのでめちゃくちゃ大変か報酬が極端に少ないか、その両方をかね備えた依頼が待ち受けていることになる。

 今回の場合、報酬は悪くないのだがめちゃくちゃ大変なパターンのやつだ。

「私知ってるんだからね! 毒ヘビ捕りに行くから子供は連れてけねーわっつって、村でテオにじゅげむと金ちゃん預けてるの見てたんだからね!」

「まぁ、普通にリコもいたもんね。話早くて助かるなー」

「なんだろ。優しさ? 優しさが足りないのかな? たもっちゃん。ねえ。致命的にさあ。なにを当然みたいな顔で。あっ、そんな物理で。物理で私の手を。あっ! あーっ!」

 もっとこう、あるじゃん。ちょっと悪いなって顔してみるとかさー。

 そんな私の泣き言を、たもっちゃんは全然聞こうとしなかった。そして「手ぇ貸して」の言葉通りに物理で手を接収すると斜面になった地面の巣穴へずぼっと入れた。

 なにが出てくるか解らない、野生の巣穴に人の素手を押し込むこの所業。悪魔か。

 案の定、すぐに展開する茨のスキル。

 このスキルは私が攻撃を受けると全自動で展開するはずなので、私は今、なんらかの攻撃を受けたものと思われる。

「リコ、見て。大漁。大漁だよ」

 外から見える穴の入り口は小さいが、実際は奥へ向かって細長くなっていたらしい。

 たもっちゃんはそのなんらかの巣穴に向かって屈み込み、スキルによってもさもさ生まれた茨を引っ張り出していた。その茨には小さな生物がからまっていて、茨を引くとイモづる式にぽろぽろと出てくる。

 短い胴体。ころころとしたシルエット。そしてふてぶてしい顔付き。どう見てもヘビと言うよりなんらかのイモだが、よく考えたら顔は別に関係なかった。なお、これが今回の目的の毒ヘビで間違いないとのことだ。

「毒ヘビ、ゲットだぜ!」

「なにもよろこべないし覚えてろよメガネ」

「わたくし、神から賜った貴重なスキルをこんな雑事に使うのはどうかと思います」

 年代を感じさせるはしゃぎかたのメガネ。納得の行かない私。一人だけ着眼点が別のレイニー。

 なにはともあれで済ますには絶対的に釈然としないが、これで今回の罰則クエスト、山の中にいる毒ヘビを生きたままうまく捕まえてくるお仕事は完了である。

 終わってみればかなり近場であっさり片付いた感じはあるが、これは茨のスキルを活用したからこそらしい。

 このイモのような毒ヘビはほとんど巣穴から出てこない習性とのことで、しかもああ見えてかなり強い毒がある。

 今回の依頼のように生け捕りでとなると、苦労するしそれなりに危険もあるそうだ。

「その巣穴に人の手を……」

「リコは健康だし茨もあるから……」

 そっと目を逸らしたメガネに、最初から私を生餌にするつもりだったことを悟る。

 それからは適当に草をむしったり、ゴツゴツ硬く全体的にツノのような出っ張りを持つヤジス虫を集めるなどして帰途へ着く。

 かつてヴィエル村の名物だと教えられた通り、閉じると青いボールのような、開くと完全にヒトデのような、独特の姿を持ったこの虫は結構その辺にごろごろといる。

 ちなみにヤジスを集める片手間にやいのやいのと話し合い、今回の報酬を私に多めに分配することと去年の夏頃メガネが雑に製作してみたが品質を向上させるでもなく放置している自己流フリーズドライ製法でインスタントラーメンの開発を進める約束を取り付け、本日の、毒ヘビの巣穴に人の手を突っ込む暴挙事件については和解が成立。真夜中の一人ラーメンの夢が広がる。

「ねえ、よく考えたらさー。すっごい前にギルドのノルマぶっちぎった時、毒ヘビの牙収めたのってローバストじゃなかった? ねえ、ローバスト毒ヘビ求めすぎじゃない?」

「前回と今回は毒ヘビの種類が違うから……。前のは牙だけだったけど、今回は生きたままって依頼だから……」

 目に付く端から集めたものの生きてるからアイテムボックスにも入らず、のろのろと、しかしすきあらば逃げようとする大量のヤジスを両手にかかえ、我々はそんな話をしながらにえっちらおっちら山の斜面を下りていた。

 段々と数が増えてきて、まあまあ持て余し気味のヤジスに翻弄されつつの下山だ。実際に翻弄されているのはメガネと私の二人だけだが、レイニーがフリーダムなのはいつものことなので今さらなのだ。

 我々が、と言うか正確には私が。

 ちょっとしたアクシデントに見舞われたのは、そんな帰り道でのことである。

 あっ、あんなところになんか見たことない草が! と、思った直後。

 私は、ただただ普通に足を踏み外し、山の中の崖から落ちた。

「あー。前よく見ないから」

「リコさん、草だけでなく足元にも気を配ったほうが」

 たもっちゃんとレイニーは崖の上から首を出し、あーあー。と、崖の途中でなにかのつたに絡まってがんじがらめになっている私をあきれた感じで見下ろした。

「……ねえ、心配するって概念知ってる?」

「噂ではうっすら」

「知識としては一応」

 もしかしたら知らないのかもと思って問うが、人でなしみたいな返答を引き出してしまうだけの結果となった。

 落ちたのも上から下まで三メートルほどと、崖と言うにはちょっと高さが微妙だったこともあるのかも知れない。いやでも人が落ちるにしてはなかなかやぞ。三メートルて。

「ねえ優しさ。もうちょっと優しさを持って行こ」

 崖に生えたつたに絡まりながら、まな板のコイのように語り掛けるとまあまあすぐに引き上げてもらえた。助かった。

 なお、私が崖から落ちるきっかけとなった見たことのない草はあとから結構探したが発見にはいたらず、最近は草がお金に見えるようになってきた私の汚れた心が見せた幻ではないかと結論付けられることになる。

 納得はしてない。


 草に興味のなさすぎるメガネと天使に「見たことない草ホントにいたもん!」と訴えながらに村へと戻ると、それに気付いた、特にクマを中心とした獣族の大人たちがわっと集まり周囲を囲んだ。

「ヤジス獲ってきちまったかー!」

「そりゃそうだ! この時分いっぱいいるもんな!」

「でも隠せ! あとで返してやっから。とりあえず隠せ!」

 崖から落ちた時に手放してしまい、私のぶんは全部逃げヤジスは半分ほどに減っていた。それでも村に戻った我々は、まだまだヤジスにまみれた状態である。

「なんなの? ねえ、なんなの?」

「ヤジス獲っちゃ駄目だった? ねぇ」

 わあわあ騒ぐクマたちはそれどころではないと言うように、誰一人こっちの話の相手をしない。

 ただただ忙しく我々が持ち帰ったヤジスを取り上げたり引きはがしたりして、誰かが急いで持ってきた大きなカゴにぽいぽいと投げ入れて隠した。

 青いヤジスが見えなくなるとそれでやっとほっとしたように、けれどもまだそわそわとメガネや天使や私の背中を押してどこかへ向かって歩かせる。

 なんらかのクマの掟に抵触でもしたのだろうかとビクビクしながら歩いて行くと、クマを含めた獣族の子供が何人も横一列に並んでいるのが見えてきた。

「ちょっとでいいからびっくりしてやってくれや」

 大人のクマがそう言って我々の背中を押し出すと、獣族の子供がちんまりとした手に持った、丸まったヤジスを「はい!」と一斉にこちらに向かって差し出した。

 水あめなどのお礼にと、みんなで集めて待っていたらしい。

 よく見れば子供の中にはじゅげむもいるし、後ろのほうではかわいくて仕方ないみたいな顔でテオや騎士たちが子供たちを見ていた。

 気持ちは解る。

 純粋な子供たちの心根に、我々もプライスレスと倒れ伏してしまう。

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