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275 ブルーメの国境

 砂漠の街のシュピレンと、ブルーメをつなぎ運行するデカ足。

 シュピレンにより運行されるその巨大なムカデは、無事にブルーメの国境へと着いた。

 掛かる時間は三日だが、一日目の昼に出て四日目の昼に着くので日にちとしてはまたちょっと違う。

 その間、昼間はピラミッドを建造中の魔族の所へ作業だったり遊ぶために行ったり、付き添いと言う名目で砂漠で走り回ってた騎士たちがぶっ倒れて大騒ぎになったり、それで彼らがはしゃいで遊んでいるばかりではなくお仕事として探索や巡回をしているのだと判明したり、夜にはヴァルター卿を王都までこっそり送り迎えしたり、ついでに一緒に公爵の所へ行きませんかと言われたがまだ心の準備ができていないと丁重に強硬に辞退して、じゅげむのために寝る前の読み聞かせをしようと思ったらちょうどいい本を写してなくて仕方なくメガネと私が擦り切れた記憶を掘り起こしどこがどうとは言えないがなんとなくどこかが正しくないような昔ばなしを聞かせたり、やたらと凛々しい顔をして参戦してきたレイニーが神をたたえるためだけの寓話をハンパない熱量で語って我々をドン引きさせるなどして、そう言えば前のお歳暮の時にローバストの領主夫妻にはなにも贈ってないような気がするなと思い出し、それで砂漠で採集した種で乾燥ワカメより増える保湿ジェルを作って頭と腰を最大限に低くして献上したりと、色々とあった。あれはあせった。

 ブルーメと砂漠を区切る国境は、お世辞にも豊かな大地とは言えない。

 砂漠のように砂しかないと言うこともないが、乾燥でひび割れた粘土質の地面には枯れたような寂しい草がちらほらと生えているくらいのものだ。

 しかし以前人買いの馬車でツヴィッシェンの台地を超えて渡った荒れ地と違うのは、そこに町があることだろう。

 決して規模は大きくないが町は木塀に囲まれて、兵の守る門を持ち、馬屋のある宿がある。食事ができて、食料や水の調達もできた。

 昼夜を問わずノンストップで運行するデカ足に、乗り込む前に装備を整えられるようになっているのだ。

 砂漠に接する荒れ地の際に地面を均した広場のような場所があり、列車のように長く巨大なデカ足の体がそこで停車した。

 ツヴィッシェン側ではこれから乗る客たちがデカ足の到着をそこら辺で待ち構えていたが、こちらでは待っているのは荷物運びの労働者くらいだ。

 ムカデの背中から人や荷物をおろすのが先なので、それが終わるまで宿や食堂で待機しているのかも知れない。文明って素晴らしい。

 こうして我々はデカ足をおりたが、ここで問題になるのが魔族の双子、ルツィアとルツィエが途中下車して乗客の数が合わないやつである。

 結果を言うと、誰も気にしなかった。

 我々の緊張を返して欲しいような、そんな気はしてたので別にいいような複雑な気持ちだ。ちなみにどれくらいそんな気がしていたかと言うと、デカ足をおりる頃になっても魔族の双子を迎えに行こうともしてないレベル。

 デカ足はただのむき出しのムカデで、列車のように囲いは持たない。同じく発着する場所も、駅ではないので出入り口や改札や、建物さえなかった。

 全員が一斉にわらわらと好き勝手にデカ足からおりてしまう下車時には、乗務員も乗客を把握し切れないのが実情のようだ。

 ただし、乗る時はちゃんと運賃を払ったか二回か三回確認される。無賃乗車絶対許さないマンなのだ。

 たもっちゃんやテオは騎士たちが馬や荷物をおろすのを手伝いに行き、私はそれを子供や金ちゃんや手伝う気のないレイニーと待つ。

 私も一応意欲は見せたが、荷物は騎士の筋力に合わせてかなり重たくまとめてあった。

 軽めの荷物もあるにはあるが、それらはほかの物と一緒にできない貴重品ばかりとのことだ。特に私は触ってはならぬと、侍女さんたちから厳重に言い渡されている。

 もう私にできるのは、役立たずとしておとなしくしていることだけだ。悲しい。

 一足先におろされたノラのドラゴン馬車のそばでしんみり待機して、馬車につながれたドラゴンに備蓄のミルクを与えるなどして時間をつぶす。

「そう言えばさー、大丈夫なのかね」

 砂漠の真ん中にいた時は、ブルーメはまるで遠い話のようだった。

 そのせいかなにも考えてなかったが、こうして、辺境ではあるが、文明に触れるとなんだか心配になってくる。

 魔族たちのことだ。

 叔父と姪たちと言う関係性の、ツィリル、ルツィア、ルツィエの三人はこの大陸の住人に害をなさないと約束した。

 けれども一般的な認識として、魔族は人族や獣族、エルフにまでも共通の敵とばかりにうとまれるらしい。

 それを砂漠に住ませると、こちらで勝手に決めたのは。

「いいのかなー、魔族の居住地、現場だけで勝手に決めて。王様とかに話通さなくて、怒られたりしないかな。あと、今さらだけど砂漠って、勝手に住んでもよかったのかな」

「本当に今更ですね、リコさん」

 自覚はあるようですけど、と。

 レイニーが冷淡にあきれているところへ、デカ足からおろされて心なしかほっとして見えるドラゴンのほうから声がする。

「ご心配には及ばぬでしょう」

 当然、しゃべったのはドラゴンではない。

 小型でピンクのドラゴンの後ろの、つないだ馬車の開けた窓から紳士っぽい帽子をかぶりひょいっと顔を出したヴァルター卿だ。

 荷物運びは若い者に任せて、出発の準備ができるまで体を休めていたらしい。

「魔族ですからな。歓迎はされぬでしょうが、王には先日、公爵様を通じて報告して頂いております。そちらはもう仕方ないものとして、説得して下さると仰せで。心配はいらぬでしょう。それでも喧しいお歴々には、この老体が戻り次第に一人一人、根気よく、事情をご説明申し上げるつもりでおりますよ」

 そんなことをあっさりと、ほほ笑んで請け合う老紳士に私は思った。

 根拠は特にないのだが、多分これ大丈夫なやつだなと。


 そんなこんなの諸事情で、ここからは常識的な行程となる。

 自走するデカ足に乗っている間は、放っておいても勝手に荷物や馬や留守番の騎士を運んでいてくれるので、希望者を連れて軽率に砂漠へ遊びに行くこともできた。

 いや、たもっちゃんはあれだが。

 持てる限りの力を尽くして通信魔道具の中継部屋を作れと、各保護者から命を受けた騎士などにぎっちぎちに監視されての作業だが。

 ちなみにローバストの領主夫妻やヴァルター卿は用もないのに砂漠へ出掛け、お茶などをしてたので本当に遊んでいただけだ。

 その護衛やメガネを監視する騎士たちは交代制で、外れるとデカ足に残り荷物番などをしていた。そのために、騎士たちのテントでは夜な夜な腕相撲で選抜戦が行われていたと言う。選抜基準が完全に筋肉。

 あと、ノラ。馬車を引くドラゴンの飼い主として、やはり目を離す訳には行かないとストイックにずっと留守番をしていた。いじらしい。そっと体にいいお茶や冷やしミルクやおやつなどを渡すだけの日々だった。

 だから灼熱の砂漠を移動中でありながら、デカ足に乗っている間はそうしてのんびり、まあまあ好き勝手にすごした。しかし、ムカデをおりたこの先はブルーメの国内になる。

 ひとまずの目的地であるローバストまでは、別の領地を通るルートになるらしい。当然、そこは別の貴族が治める領土だ。

 そう言う場所は通るだけでも貴族的には気が抜けないとかで、これからは砂漠に遊びに行くこともできないとローバスト伯と奥方様は実に残念そうだった。なんらかの理由で馬車が止められたりした時に、中が空だとまずいとのことだ。そりゃそうだ。

 そして、ローバスト領でも馬車の中は空にはできない。自領の民の目と言うものがある。領主とは厳しい商売なのだ。

 けれども、それはそれって言うか。

 まだ全然帰り着いていないのにすでにじわじわ休暇の終わりを予感してしょんぼりしている領主夫妻は置いといて、我々は慰安旅行の本隊がローバストに入ってからも朝からせっせと砂漠に通った。

 もう遊びに行けない人たちからの悲しい嫉妬を全身に浴びつつ、ピラミッドの建造に励んでいるのだ。常識的な行程とはなんだったのか。

 そんなある日のことである。

 我々は――と言うかメガネと私は、その時、建造作業を効率化するため編み出した裏技をくり出していた。

 具体的に言うと、たもっちゃんが砂漠の砂でピラミッド用の巨大ブロックを作ってアイテムボックスに収納し、私は待機した建造途中のピラミッド上でそのブロックをぽいぽい取り出して行く。

 雑に積んだブロックは魔族らがじりじりと並べ直すので、素材の生産と同時進行で建造が進む。なんと言う時短。天才の所業。

 自分たちの有能さが恐いとばかりに得々と作業していたら、ピラミッドから離れた場所で一人せっせと砂を固めていたメガネが、ものすごい勢いで接近したテオからものすごい勢いの飛び蹴りを食らった。

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