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243 自白

 実際シュピレンの街を仕切る一家には――と言うかブーゼ一家のラスだけ取っても全く歯が立たない状態でいるので、我々はぐうの音もなくちっくしょーと黙る。

 そうしてこれまでの流れと現状を根掘り葉掘り聞き出され、向こうの話も聞かされた。

 そんなブルーメからの貴き客の語るところでは、今回はとにかく情報の届く遅さに歯がゆい思いをしたらしい。

 我々はテオが大体いそうな感じと言うだけでムルデ砦を目指したが、その途中、ほぼほぼ遭難している商団に出会った。

 これがテオを護衛として雇った商団であり、彼の窮状はこの遭難状態の商人たちから知らされることになったのだ。

 ただ、彼らもまた命からがら逃げてきたと言う風体で、放って行くのはさすがにダメだ。とにかく最も近い冒険者ギルドへ、商人たちを保護して運んだ。

 ここで貧乏くじを引いたのがシュラム荒野のギルド長、グードルンである。

 いや、ギルドを通して護衛依頼を受けながら、その依頼者である商団を守り切れずに遭難させたのは冒険者たちだ。それを保護する訳だから、ここまではまだギルドの仕事の内と言うような気がする。

 しかしのちのちこの件にテオや我々が関わっていると解ってしまい、シュラム荒野の冒険者ギルドは超えらい人たちからの鬼のような問い合わせに苦慮することになる。

 当時は誰もそんなことを思わずにいたが、とりあえずごめん。

 命からがら逃げのびた商人たちをグードルンに任せ、やっとテオの所へと駆け付けると見せ掛けその前に、盗賊のアジトとかムルデ砦とかムルデ砦を管理する代官屋敷にひっそりと突撃。逃げないように岩盤で詰めたり、逃がさないように告発文で頼んだ。

 この時。

 貴き人々に言わせると、我々はすでに失策をやらかしていたらしい。

 指摘を受けて、たもっちゃんと私はおどろいた。

 その可能性は考えてなかったって言うか。まさかそんな最初のほうで、やらかしてるとは思ってもなかったって言うか。

 だが、改めて振り返ってみると、心当たりがなくもない。

 あれかな。やっぱり。

 急いでるのに商人の団体が結構大人数だからうちのボロ船ではいっぺんに運べず、でも何往復もしてたら時間掛かりすぎだからと。

 アイテムボックスから手持ちの自立式ドアを出し、たもっちゃんのドアのスキルでシュラム荒野のダンジョンの街の、いい感じに適当なドアを開いて商人たちをぽいぽい通して運んだのやっぱマズかったのかなって。

 でもほら。一応偽装はしたの。

 今我々のすぐ横でおとなしくお茶とお菓子をいただいているレイニー先生にお願いし、なんの意味もないのだがそれっぽくびっかびかに光る魔法陣のようなものをドアの周りにこれでもかと出すなどしてもらい、よく解らんがなんらかの超高度な魔法を使っているかのようにごまかした上でドアを開いたってだけの話だが。

 無意味にきらめくエレクトリカルな魔法陣を前にして、わあきれいと盛り上がる観客――じゃなくてぼう然とする遭難商人たちには一応、あれやこれやで今回は運よく特別に使えたがこの魔法は使用条件が厳しくていつもできるってものでもないので絶対内緒にしてくれよなといかがわしい感じで頼んではいた。

 しかし、人の口には戸を立てられないものなのだ。きっと誰かが約束を破り、話をもらしてしまったのだろう。

 嘆かわしいことだとメガネと私が人間の不誠実を悲しんでいると、事務長は、のけ反るようにあごを上げこれでもかと見下ろすようにして言った。

「それじゃない」

 マジか。

 どうやら例の商人たちは絶対内緒のいかがわしいお願いをきっちり守ってくれていたようで、エレクトリカル偽装ドアの話は一切入ってきてないとのことだ。

 やだー。間違えちゃった。

 てっきり誰かがドアのこと話したんだと思っちゃってた。我々がまさに今、しなくていい自白しちゃっただけだった。やだー。

 ナチュラルに人を疑う自分たちの人間性と、これ多分余計なことしゃべっちゃったなと言うアレでメガネと私はわちゃわちゃしたが、わちゃわちゃしたのは我々二人だけだった。

 高級ホテルの部屋に用意されていたソファセットにずらずら座る、貴き人々はまだ口を開かない。テオのお兄さんだけがわずかにテオによく似た疲れたような表情を見せたが、今はまだ取り調べを任されているらしい事務長のターンのようだった。

 事務長もまた、今は逆に静かだ。

 そして無表情に近いのに、どことなく確実ないら立ちを感じさせずにいられない真顔。

 ドアのスキルの扱いは慎重にしろとあれほど。みたいな心の声がなんとなく聞こえる。

 通常ならば恐らくはがみがみとお説教が始まるパターンのやつだが、今この場には彼の主筋であるローバスト領主夫妻やよその貴族がかなりの至近距離にいる。

 そのため事務長は忍耐と体面でぐっと耐え、真顔のままにぐぎぎぎぎと歯を食いしばって事実を説明するにとどめた。真顔自体がなぜかめっちゃ恐いので、なにもとどまっていない気もする。

 そうしてぎりぎり奥歯を噛みしめながらの話では、我々は荒野で保護した商団をギルドに送り届けた時点で自ら報告を上げるべきだったらしい。

 それを聞いて、私は思う。

「どこへ?」

「国だ!」

 思わずと言った様子で、事務長が大きな声を出す。きっと、ここまで話が通じてないとは思ってなかったのに違いない。

 そう思うと、気持ちは解る。

 でもな。相手、我々だからな。

「えっ、やだ怒鳴る。事務長すごい怒鳴るじゃん。たもっちゃん、事務長が怒鳴る」

「そうだなー。おっきい声びっくりしちゃうよなー。やだよなー。俺も俺も」

 理解力がなさすぎて恐縮すべき状況で、理解力がないゆえに我々は全然本題ではないとこで能天気につまずいた。

 もっと優しく言ってくんなきゃやだと、ぶうぶうめんどくさいことを言ってたらそれを見る事務長の表情がスッと冷たく暗く陰った。

 彼は、領主夫妻の座ったソファの、すぐ横に立っていた。

 そこから、カツリ、と。

 靴底で硬い音を立て、こちらに向かってゆらりと足を進めようとしたのをローバストの騎士たちに必死の感じで止められていた。

「放せ!」

「ここはまずい! ここではまずいです!」

「あとにしましょう! 騎士団長からも、闇討ちなら手を貸していいと言われています!」

「でも領主様とお客様の目の前はいけない!」

 なんか、聞いてて全然ありがたくないのだが、もしかすると我々は今まさに命拾いしたのかも知れない。

 そんなことを思わせる騎士たちの説得のかいあって、事務長は一度引き下がることにしたようだ。

 ただ、最後に。

「理解できないものは仕方ない。しかし、だからこそせめて真剣に聞け!」

 ごもっともと言うほかにない事務長の叫びが、壁となる騎士の向こうからこだました。

 その様子におっとりと、お茶を片手に見守っていた領主夫妻がハインリヒも苦労しているんだねえと変に感心して見せる。闇討ちのくだりは聞かなかったことにしたらしい。

 そうさせたのは我々でしかない気がするが、いつになく取り乱した事務長は一旦後ろに下げられた。セリフとしては全然普通のことしか言ってないのに、なんであんなにガチギレにしか聞こえないのか本当に不思議だ。

 薄い障壁に包まれた室内は殺伐と荒れた空気ばかりが残ったが、そんな中、あっさりと話を引き継いだのは髪も口ヒゲも真っ白な老紳士であるヴァルター卿だ。

「みな、心配したのですよ。王城へ上がった第一報は、シュラム荒野に大規模な盗賊団が出たと言うもの。次に、被害を受けた商団の情報。それから犯行には隣国の兵が関与していると推測まじりの報告が入り、護衛として同行した冒険者の名は最後に」

 それも、次々に届いたと言うことはない。

 現場での情報精査に時間を取られ、簡素な報告が少しずつ。そのためテオの名前が届いた時には、冒険者ギルドが事件を把握してからすでに数日の時間が経っていた。

 さらに、これは王都に限った話だ。そのほかの地方では、一度城に上がった情報を王都に赴任している文官が自らの属する各領地に送って始めて知ると言うことも多い。

 例えば、ローバストもそんな土地の一つだ。

 ローバスト伯がいる街は、シュラム荒野のギルドとは謎馬車で十日ほどの距離。これは遠いのか近いのか、情報が王都を経由して折り返してくるまでなにも把握していなかった。

 また、最後に残り商団を逃がした冒険者の仲間が助けに向かったとの話もあったが、しかしそれ以降なにも情報がない。

 これは、心配になるでしょう? ヴァルター卿はそう言って、ちらりと荒ぶる事務長を見た。マジか。あれ、心配してたのか。

 いるよね。心配しすぎて逆にガチギレしちゃう人。ありがたいけど解りにくいので、やはりもうちょっと優しく心配して欲しい。

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