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201 火星のように荒涼と

 火星のように荒涼と、赤茶けた鋭利な岩や石やニンジンの木が見渡す限り延々と続く。

 巨大なニンジンは多分火星にはないと思うが、見慣れてくるとこの赤っぽい風景に異様に似合う植物だった。

 そんな荒れ地をウシの馬車でドコドコ進むこと二日。やっと果てにたどり着く。ただし赤っぽい荒れ地のおしまいは、色褪せたベージュの砂漠の始まりだ。

 人買いはその荒れ地の果ての、もう少し行くとすっかり砂漠と言うような場所を野営地とした。

 その場から砂漠のほうに目をやると、ぽつんと一つ、やたらと大きな背の高い岩が不自然ににょっきりアンバランスに立っていた。あれが砂漠の乗り物の、停留所的な目印になっているとのことだ。

 この場所へ次に「デカ足」がやってくるのは月の中ほどらしい。

 こちらの一ヶ月は二十七日。中間は大体、十三日か十四日。今日が六ノ月の十一日だから、乗り物がくるまで二、三日待つ。

 それでも周囲にはすでに何組も、ざっと見ただけで五十人前後の先客がいた。歩きの者も馬車に乗った者もあったが、そのほとんどが商品をかかえた商人らしい。

「ここらの道は厳しいからね。観光客はもっとマトモな別の道を選ぶさね」

 夕暮れに人買いの女はたき火をつつきながらに言うが、理由はそれだけではないような気がする。

 数日単位で乗り物を待つと言うのにこの場所は、町どころか人里もないのだ。ただの荒れ地。ただの砂漠。見渡す限りの死の大地。

 こんな所で待機してる間に食料でも尽きたら、そりゃもう絶望しかないと思うの。

 しかし、実際はそうそう行き倒れる者はないと言う。

 なにしろ砂漠の街に持ち込むための商品を、持てるだけ持った商人たちが集まっているのだ。当然、荷物の中には少なくはない食料もある。交渉すれば、居合わせた商人に命を救ってもらえるだろう。

 ただし、身ぐるみはきれいにはがされてしまうが。

 世の中は金次第なのだ。とりあえず、商人相手には。勉強になる。超恐い。

 人買いが野営地とした場所は、まだ荒れ地の範囲で近くにニンジンの木があった。これはウシのためにそうしたようだ。

 馬車から外されたウシたちは、バイソンめいた男から干し草と水をもらったあとでニンジンの木にかじり付く。正しくは、円錐の幹を埋め尽くす赤い花をもしゃもしゃ食べた。

 別の場所でも謎馬などが同じように花を食べているので、ここでは貴重な食料のようだ。

「たもっちゃん。たもっちゃん。こいつ飼おう。こいつ」

 私が甲羅をぺしぺし叩きながらに言うと、メガネは即座に首を振る。

「元いた所に戻してきなさい。亀はシャレになんないくらい長生きするわよ。あとそいつでかくない? ちょっとしたテントくらいない? でかくない?」

 うん。私もね、ちょっと大きいかなとは思ってた。

 それは陸地に住む種類特有の、こんもり高く真ん丸な甲羅を持ったカメだった。四足で這った状態で甲羅のてっぺんが私の肩ほどもある。

 ウシがニンジンの木をかじっているのを見てたら、なんかいた。

 一生懸命首を伸ばしてどうにか赤い花を食べようとして、下のほうにわさわさ生えた葉っぱにジャマされ全然うまく食べれてないのが愛おしい。

 やっぱダメかとニンジンの木のほうへすごすご戻ると、私たち、今夜だけの関係ね……とか言いながら花をむしってカメの前へ持って行ってあげた。どうでもいい遊び心を全面に出す。そう言う大人で私はありたい。

 カメは目の前の花をじっと二秒ほど見詰め、急に、かっと首を伸ばしてかじる。歩くのはのんびりしているくせに、その動作だけはやたらと速い。指まで行かれるかとドキドキしてしまった。

 爬虫類の無表情な顔面ながら、どことなくカメは「もっと」とねだるかのように私のあとに付いてきた。

 解ってる。別になついた訳ではなくて、なんかあいつに付いてくと花が降ってくるくらいの感覚だろう。かわいい。

 太い足でのしのしとゆっくり付いてくるカメを見てると、この生物はこれで生き抜いて行けるかと心配になる。

 だが不安定な岩や石に足を取られて大きな体がバランスを崩し、ごろんと横倒しから逆さまになり一周回って最後には元通り着地したのを見た時は、これはこれでなんとかなるのかも知れないと思った。

 あの丸い、どこまで中身が詰まってるのか解らないムダな空間の多そうな甲羅は、きっとこのために装備しているのだ。多分だが。

 しばらくするとそんな私とカメの交流を金ちゃんの肩の上から子供が見ているのに気付いたが、興味と恐さが半々のようだ。

 金ちゃんにつかまる幼い指が心なしかぎゅうぎゅうと白い。一緒に遊ぶかと問うと、思いっ切り首を振って断られてしまった。

 少々寂しい思いをしながらも一人で気が済むまでカメと遊んで、たもっちゃんの料理を食べて夜は人買いの馬車の荷台。勝手に設置したハンモックで休む。

 なんか。こう言うのも変だが、ものすごく旅をしている感じだ。

 最近はこう、あれだから。ドアからドアか、空飛ぶ船で高速移動するだけになってきちゃってたから。

 謎馬よりは足が速いが力強いウシに引かれて移動して、夜にはその辺でキャンプ。たき火で作ったごはんを食べて寝る。そう言うのが逆におもしろくなってしまった。

 そもそもこれはテオとテオを連れて行く人買いを止められず、打つ手がなくて仕方なく付いて行っているだけの状態だ。

 忘れてはいけない。すでに楽しくて忘れそうになってるが。

 いいのかなあ。よくないような気がするんだよなあ。なんかのんびりしすぎじゃないのかな、私たち。

 不安と言うほどはっきりした形をは持たないが、どこか引っ掛かるものを覚えながらに眠って、夜中。

 視界にピコンとポップな色合いの通知が出てきて目が覚めた。

 なにかと思えば、アイテムボックスの新着通知だ。

 通知には収納したアイテムの、名前の部分をいじった短いメッセージが浮かぶ。


 >俺も今思い出したのですが、どうやらギルドのノルマ期限がそろそろ過ぎちゃうみたいです

 >本当にありがとうございます

 >罰則クエスト、一緒に頑張ろうね☆


 いっぺんに三つの通知がきたが、これを扱えるのは今のところ私とメガネしかいない。

 つまり、全てメガネの仕業だ。

「口で言えやあ!」

 私は叫びながら飛び起きた。

 まあそれはそれとして、頭の上と足の下から伸びたヒモで吊るしただけのハンモックの上で急激に動くと普通に落ちそうになるから気を付けて欲しい。

 ぐるんっと回って逆さまになりそうなハンモックにしがみ付き、自力ではどうしようもなくなっている私に対してメガネは言った。

「夜中だから! 夜中だからメールのほうがいいかと思って!」

「おっさんが星マークなんか使ってんじゃねえ!」

「はい差別ぅ! おっさん差別反対!」

「やかましい! 何事だい!」

「済まん。本当に済まん。こいつらはいつもこうなんだ」

「どうせ大したことではありません。さっさと放り出して静かに寝ましょう」

 助けての一言が言えない私に世間が冷たい。

 別に、罰則ノルマに怒ってるんじゃないんだ。ただ悲しいんだよ私は。

 幼馴染がメッセージアプリでやたらと絵文字を使うおっさんになってしまったと気が付いて、どうしようもなくやるせないんだよ。

 あと、シンプルに眠くて機嫌が悪い。

 夜中にいきなりキレ始めた私に、涙目になって言い返すメガネ。止まらない口論。フェーズは互いの人格攻撃に移行。

 この騒ぎに外で寝ていた人買いの女が荷台を開けて、なぜかテオが謝った。この辺で子供がしくしく泣き出して金ちゃんが機嫌悪くうなるなどしてもうなにがなんだか解らなくなったが、レイニーはもうちょっと心配してくれてもよかったと思う。


 我思う。

 なぜ人はギルドに所属するのかと。

 翌朝、落ち着いてからメガネは語る。

「預金できるし、限度額はあるけどどこの支部でも引き出せて、税金も報酬から勝手に引いてくれるんだよね。確定申告いらないってさ、もうほとんど神じゃない?」

 登録した技術やレシピの使用料もギルドの口座に振り込まれ、手数料は取られるが、税金も勝手に引いてしかるべき所へ納めてくれることになっている。ローバストとか。

 あと、よく考えたらノルマぶっちぎった罰則は罰金でも大丈夫なんだった。そうだった。罰金払うほうが嫌だから、罰則依頼を選んでたんだった。自主的に。

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