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 翌朝ぬぼっと起き出すと、ログインボーナスが押しよせてきていた。

 エルフが編んだ植物でできた敷き物や、一かかえもある大きな卵を加工した水瓶。そのいくつもならんだ卵の甕は、ぶ厚い殻の外側を編んだつたでぴったりくるみ底や持ち手が付いている。便利だ。農場でミルクを買う時に地味に入れ物に困っていたが、これで解決したような気がする。

 ほかにも真新しい弓や、波紋のように不思議に光る石でできたナイフ。青々とした細長い葉っぱでざっくり編んだバスケット。

 木を削り出してみがいた様々なサイズのたくさんのお皿に、やたらと頭の部分が長い謎深いお面。お面はきっちり着色されていて、色合いがトリッキーでちょっとだけ戸惑う。

 あざやかなビーズで刺繍を刺した腕輪のようなベルトもあったが、手に取って見るとビーズが私の知ってるガラス質のものとは違う。それに、見た目よりもやたらと軽い。

「フラウムの木の細枝を、細かく切って染めてあるのよ。手間が掛かって、あまり数はできないんだけど……人族には馴染みがないかしら……?」

「あっ、素材から。エルフ製の。大丈夫。すごく綺麗。あと、うちのメガネがものすごくよろこぶ。大丈夫」

 私のリアクションが微妙に見えてしまったのだろう。なんだか心配そうなエルフの女性に、すごく大丈夫なことをあわてて強く伝えておいた。

 危ないところだった。誤解でエルフを悲しませたら、たもっちゃんがもう二度とラーメンを作ってくれないかも知れない。

 恩とか、薬、いくらか譲った日本酒や、ラーメンに、カニ。そんなものへのお礼のつもりで。

 里長の家の縁側は、エルフたちが持ちよったひしめくような品物でなんだかいっぱいになっていた。

 別に、申し合わせた訳でもないらしい。

 なんかお礼したいよな、と。各自ちょっとずつ持参した結果、気付けばこうして日用品やら民芸品が山盛りになっていたとのことだ。

「いや、皆考える事は同じだね」

「大したもんはないけど、ちょっとくらいなら荷物にもならないと思ったんだけどね」

 いやいや困った。みたいな感じで言いながら、少し遅れてやってきたエルフも当然のようにそれぞれ手製のツノ笛や謎の木像を縁側に加えた。

 どうだ。この、家にあったけど全然使わないからとりあえず持ってきたタイプのフリーマーケット感の強さは。

 いやこれ困ってるのは我々だよなと思わなくもないが、しかし変に遠慮して、もういいからとは言いたくなかった。お礼の品のチョイスの割に、真心がめちゃくちゃ伝わってくるのだ。それはなんだか、正直うれしい。

 また、色々持ちよるエルフの中には子供たちの姿もあった。そして木の実や枝や葉っぱなどを合体させて、ヒモでやたらとぐるぐるに巻いた呪いの人形みたいなものをせっせとみんなで並べて行った。

 子供らの顔はどれもぴかぴか輝いて、達成感に満ちていた。気持ちはうれしい。でもつらい。呪いの人形が子供の数だけ増えて行く。つらい。


 たもっちゃんは呪いの人形や用途の解らないお面を含め、声援に答えるスターのようにサンキューアリーナと受け取った。エルフの全てを受け入れ愛する。そんな覚悟を変態に見た。

 それから、うきうきと、しかし一方で真剣に、エルフや元城主の青年を含めて話し合いをしていた。

 その結果、ドラゴンさんのお住まい近くの調味料ダンジョンの探索にエルフの里の精鋭部隊が派遣される運びとなった。

 地球の調味料や日本酒に、エルフの食い付きがよかったことが理由の一つだ。

 我々はエルフに甘いのだ。甘いと言うか、こんだけ親切にしてくれるなら変なことはしねえんじゃねえか。みたいな信頼はすでにある。

 まあ、あのダンジョンも大きいし。ドロップされる素材についてもそうそう枯れることはないだろう。ダンジョンの素材が枯れるかどうか知らんけど。

 冒険者ギルドでビキニアーマーの美女からやんわり求められていた情報開示はやだやだ断っていた割に、今回はきゃっきゃしながらむしろ乗り気でダンジョン探索が本決まりになった。そうだね。差別だね。

 いや、違う。違わないけど。一応違う。

 この理不尽なえこひいきにも、一応メガネなりの理由はあった。

 嫁の父に認められるべくエルフの里でがんばっている元城主の青年が、これがエルフの里の未来をひらくと熱心に口説き落としたからだ。

「調味料もニホンシュも、恐らく他では見られない品。それも大森林のダンジョン産なら、エルフの手を経ず世に出ることはないでしょう」

 もちろん、あなたがたを除いてですが。

 そんなフォローもしっかり入れて青年が語るところによると、だとしたらそれは外交手段の切り札となり得る。

「人は利に聡きもの。これは純然たる事実です。希少な価値のある品物のためなら、便宜を図る者もあるでしょう。親しみを持つ者も増えるやも。ニホンシュが確保できれば、ドワーフですら。エルフがよき隣人であると、そしてエルフの不利益が人族の不利益であると。そのように仕組みを作り周知することが、エルフの未来を守る要になるとわたしは確信を持つものであります」

 大森林のダンジョンでしか産出されない調味料などは、そのために有用なはず。きっとうまく使ってみせる。そんな外交官に、おれはなる。

 みたいな感じで青年は公約を演説する政治家のように、力強くこぶしをにぎって切々と語った。青年の話は大体長い。

 しかし、これには問題もあった。

 魔法に優れ大森林に親しむエルフも、さすがにエアストドラゴンの住む超険しい山に行くのは危険が伴う。なぜなら超険しいとこだから。大体の問題はここにある。

 大森林は大変厳しい環境であるので、人族が探索できるのはほんの外縁部のことだ。

 エルフが住むのはその範囲よりいくらか奥まった辺りのことで、それより内部はなかなかの人外魔境と言える。

 さらにエアストドラゴンの巣がある山は、その魔境、それもほぼ中央に位置しているのだ。死ぬよね。そんなん。

 我らが調味料ダンジョンは、正確に言うならそのエアストな山のふもとにあった。

 我々がいる間はいいのだ。推しを危険から守るべく、たもっちゃんがむしろ手厚くドア・ツー・ドアで里とダンジョンの送り迎えを買って出る。ボロは着てても心はスパダリ。

 しかし我々がいなくても、エルフたちには調味料ダンジョンの探索を継続して行ってもらいたい。ダンジョンの産出品を駒として外交ルートを構築するなら、供給は安定していたほうがいいだろう。

 この困難な問題の解決に、一役買ったのはドラゴンさんだ。

 ダンジョンがあるのはドラゴンさんの住む山なので、当然普通に、危険なく、お散歩感覚で出入りができる。

 この点を踏まえて、魔力を直接摂取しとけば生命維持には問題ないけど手の込んだ料理もたまには食べたいドラゴンさんと契約し、エルフの里と調味料ダンジョンを直通でつなぐドラゴン定期便が就航となった。

 ドラゴンさんの希望としては、ラーメンとカニを重点的にとのことである。

 こうしてメガネはエルフと一緒にぐねぐねきゃっきゃとダンジョンに通い、私は私でちょっと忘れ気味だったギルドの依頼をどうにかするため大森林をさまよったりした。

 保湿クリームのもとになる実は、収穫時期が秋らしい。それでも探せば枝に残った木の実も多く、これをエルフのご婦人たちや美意識の高い若者などが手伝って採集してくれた。

 ありがたい。お礼に保湿クリームを要求されたが、私だけではどうにもならなかった確信があるのでただただ素直に助かった。

 久々に出した魔女鍋で大量のクリームを生産し、エルフたちが用意したちょうどいい入れ物にせっせと詰めて一部をお礼に配布するなどして数日をすごした。

 そうこうしてたら我々がこの里にいると精霊の噂を聞き付けて、ほかの里からエルフの客がやってきた。おみやげに日用品や民芸品を山ほど持ったその一団は、ドアからドアへボッシュート事件のあの時に人さらいの小屋で出会った美少女エルフとその保護者たちだ。

 あの時の礼がまだだったとか言って、わざわざ会いにきてくれたのだ。律儀。

 せっかくなのでぐねぐねはにかむメガネと手を組んで、彼らもカニやラーメンと、地球調味料の沼へと巧妙に引き込む。

 あとは夜中に異世界ラーメン振興党の党員を集めてこっそり夜食にラーメンを作って食べようとしたら、エルフセンサーを起動したメガネに見付かって「野菜も入れずにラーメン食べようとするんじゃねぇ!」とえらい剣幕で怒られたりしたことも今ではいい思い出だ。かなり直近の記憶ではあるが。

 こうしてエルフの里でのんびりすごし、毎度きっちりやってくる渡ノ月がもうすぐの頃。

 いつも金ちゃんに運ばせっぱなしの、最近では里長の家に置いたままでいることも多い、通信魔道具が着信を告げた。

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