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ヴィリとセルジュ(2)

 セルジュというこの少年は背が高い。脚がすらりと長く、人並みに筋肉のついた太ももが健康的な脚線美を描いている。手足も当然のように長い。(ちなみに、一方のヴィリは特別大柄でもないが小柄でもない。きわめて標準的な背丈ではあるのだが、いかんせん彼がでかいものだから相対的に小さく見えることがある)

 そして、彼は顔の造形も非常に整っている。やや切れ長な、紫に近い黒の瞳に、すっきりした鼻すじ。混じり気のない黒の髪を長く伸ばして、簡単ながらもきちんと編み込んでいる。もともとの髪質に恵まれたのかそれとも日頃からきちんと手入れしているのか、日の光のもとでみるとつやつやと輝いて見える美しい黒髪だ。指通りも良さそうなのが見た目から分かる。半端な舞台役者などのそれよりずっとずっと美しい髪だった。それは黒を基調にした使用人の制服とはわざわざ彼のために拵えたかのように見事な調和をなしていて、ヴィリはセルジュの髪をよく褒めたものである。

 要するに、だ。セルジュは背が高く端整な面立ちをしている。そして美しい髪をもっている。それはもう街を歩けばその辺の女性がうっとりして足を止めてしまうであろうほどに。

 そんなわけであるから、美少年好きを公言してやまないヴィリの大伯母邸にやって来ると、セルジュはその門扉をくぐる前に毎度小さな声でこんなことを言うのであった。


「あの、ヴィリ様……俺はヴィリ様に一生仕えるんだって決めてますからね。勿論エリーゼ様の仰ることは絶対ですけど、俺……」

 大伯母自ら選び抜いた美しい面立ちの少年たちが居並ぶ屋敷を心なしか恐ろしげに見上げるセルジュを、彼女は笑った。

「はは、大伯母様はお前がお気に入りだからなぁ! まあわたしもお前を気に入ってるんだ、あの方にお前を譲る気はない。これからもよろしく頼むぞ」

 見ようによっては酷薄な印象を与えるつり目がちな双眸を綻ばせてふんわり笑うセルジュを、ヴィリは慈しみのこもった目で見ていた。


 ヴィリとセルジュの主従関係はそう長い方ではない。セルジュを召し抱えたのは彼女がちょうど12の誕生日を迎えた頃のことで、仕えるようになって三年ほどが経つ。彼女が生まれたばかりのころから尽くしてくれている者たちに比べればまだまだ短いと言わざるを得ない年数ではあるが、ヴィリはセルジュをいつも側においていた。

 臣下としてひたむきに仕え、心から慕ってくれている。こと世話係としての能力についていえばセルジュよりもずっと優れた者は掃いて捨てるほどいるが、ここまで慕ってくれている者は他にいない。

(世話係というか……そう、弟みたいなかんじなんだ)

 自分によく懐いてくれる可愛いかわいい弟。確か、生まれだってヴィリの方が数ヶ月先であったはず。あまりにも好意が真っ直ぐすぎてときどきおもはゆく思うこともあるが、嫌だと思ったことは一度もない。たまに、あまりにも彼がヴィリの事ばかりだから自分という存在が彼の世界を狭めてやしないかと思うこともあるが、それでも彼から示される裏表の無い好意が彼女には嬉しかった。

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