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高専の常識は世間の非常識  作者: シャバゲナイト老婆
メインエピソード
6/37

新入生歓迎会と高専生

 そうこうして。

 部室には色々な家具やら電化製品が置かれていて、僕がつい最近まで愛用していたホウキはコードレスタイプの掃除機になった。しかも最新型である。

 パイプ椅子はソファになって、長机はモノトーンのオシャレな机になった。テレビはBSも入るようになってデスクトップパソコンとノートパソコンが1台ずつ。卓上IHヒーターに電気ケトル。しまいにはエアコンまで設置された。エアコンって壁を壊すための工事が必要だったような気がする。勝手に部室を工事するな。工事に気付かない学校側も学校側だと思うのだが。

 そんな快適すぎる部室になったのだから、僕も部員も部室にいることが増えた。お昼休みも部室に行くようになった。

 先輩は部室にあるパソコンを使って部室から授業を受けるようになった。もちろんWi-Fi回線も通してある。先輩は相変わらず変人街道を突っ走っている。

 確かに家から授業を受けるとかは、誰でも一度は考えたことはあるが、実際にやろうとは思わないし、僕が先生に相談しても馬鹿が何言っているんだって話になってしまうからな。

 ここ最近は修繕部としての活動はあまりなく、あってもすぐ終わる内容の修繕だった。

 そして、もうすぐ新入生歓迎焼肉を開かなくてはいけなくなった。

 毎年部長が開くことが決まりとなっているのだが、幽霊部員がいっぱいいるので毎年部員の出欠をとるのが大変なのだ。

 面倒くさいので部活動掲示板に出欠の紙を貼っておくことにした。

 しばらくして出欠具合を見てみると幽霊部員は軒並み欠席で、幽霊じゃない部員の4人しか出席になっていなかった。これ開く意味あるのか。

 欠席がいっぱいの紙を部活動掲示板から回収して部室に向かうと、幽霊じゃない部員がみんな部室にいたようだ。

「新入生歓迎焼肉のことなんだけど」と僕が話を切り出す。

「今年は幽霊部員の人達が軒並み不参加だったから去年より少ないね」と彼。

「新部長の人徳がないからだな」と先輩。

「悪かったな」

 僕は返事をする。

「あ、先輩にタメ口きいたな」

「僕はこれから強気の部長を目指すんで先輩にもタメ口でいきますよ」

「あっそ」

 僕が折れないとなるとすぐに話を終える先輩。

「そんなことよりも部長?その焼肉のことなんですが」と叡智が僕に話しかけた。そんなことって。

「どうした?お肉が食べられないとかか?仕方ないな、じゃあ中止にするか。よし、中止にしようか。中止。中止」

「違いますよ。焼肉のことなんですが、私の家でやりませんか?ちょうどいい庭があるんですよ」

「いや、でも家の人に迷惑がかからない?」

「いや、お手伝いに用意させるんで大丈夫ですよ」

 お手伝いがいるのか。富豪すげえ。

「私も大丈夫だぞ」と先輩。

「僕も良いよ」と彼も言う。

「じゃあ決まりましたね。来週の日曜日を楽しみにしていてください」

 叡智は僕に向けてチェックメイトをするようなポーズをとる。

 僕はまだ大丈夫って言ってないのだが。

 まぁ暇ですけど。


 来週の日曜日になった。叡智の家は市のはずれにあるらしいので駅前で待ち合わせすることになった。僕が自転車で待ち合わせの5分前に着くと既に彼がいた。

「早いな」と彼に話しかける。

「なんでも一番を取りたいものだよ。勉強でもなんでもさ」

「はあ」

「もっと関心を持てよ。女の子にしか関心が無いのか?」

「僕を煽るな」

「お?お?怒ってるの?頭が悪いから自分を制御することすらできないの?」

 なんか今日の彼のテンション、めっちゃ高いな。一応僕も女の子にしか関心がない訳ではない。 他にも進級とか留年とかに関心がある。

 約束の時間になると大型バイクに乗った先輩が来た。俗に言うナナハンである。

 あれ。

 大型免許って18歳以上でなくては取れなかった気がする。3年生になったばかりの先輩が乗れるのは変じゃないか。

「あの、先輩1ついいですか」

「どうした、このバイクか。これはヤマハのボックスだぞ」

「ボックスはスクーターでしょ。先輩って今何歳なんですか?」

「18だ」

「誕生日っていつですか」

「12月31日だ。なにか問題があるのか?」

 これはこれで珍しい誕生日だな。べつに誕生日で話を広げる気はないけど。

「いや、別になんでもないですけど」

「ああ、私は1年生のころに留年しているぞ。欠課時数超過でな。まったく、ついうっかりだよ」

「先輩らしいですね」

「実質2歳年上なのだからもっと敬ってもいいぞ」

「あっそ」

 だから部長にならなかったのだろう。毎年、修繕部で部長になる人は、高専に入ってから3年目の人が原則として部長になるのである。

 ちなみに去年の部長は3年終了退学という裏技と称させる技を使って高専から脱出して国立大学に入学した。ずるいやつめ。いや、ずるい技ではないけど。

 そうしていると叡智が車に乗ってきた。

「みなさん集まりましたね、では行きましょうか。車に乗ってください」

 叡智が乗ってきた車にみんなで乗る。車といってもキャンピングカーである。どこに連れていかれるのだろうか。

 叡智に何処に向かっているのか聞いても、まぁまぁとしか返ってこない。豊浦町とか連れていかれたらどうしようか。札幌より遠いわ。

 連れていかれたのは市街の開けた場所だった。自然がいっぱいで心がアレである。国語力がないので説明できないがアレである。高専生に国語力は標準搭載されていないから仕方ない。彼や先輩は課金したのだろう。先輩は学力よりも社会性に課金しろ。

「じゃあ、焼肉を始めますか。近くには川もあるんで食べ終わったら水着でウフフキャハハしましょうね」と叡智が言った。水着とか初めて聞いた情報なんだけど。

 でも、水着はいいね。僕的には叡智さんの水着姿よりも先輩の水着姿がいいね。ロリ金髪ツインテールの水着とかやっぱり心にくるものがあるな。2歳年上だけど。

「4月の終わりに川になんて入ったら凍え死んでしまうね」と彼が言った。

 そりゃそうだよね。冗談だよ。ババアの水着姿なんて見たくないよ。

「ババアでわるかったな」

 なんともベタなボケをしてしまった。声が漏れていたようだ。

「いやあ、ついうっかり」

 ついうっかりなのでセーフ。

 そうして新入生歓迎焼肉は始まった。キャンピングカーの運転をしていたであろう叡智家のお手伝いさんが手際良く焼肉を焼くヤツに火をつける。名前なんだっけな…七輪?それサンマ焼くヤツか。

「肉の厚さはどうしますか?」

 どうやらキャンピングカーの冷蔵庫のなかに大きな肉の塊があるらしい。富豪ってコワイ。

 肉の焼き方を聞かれたことがある人はいるかもしれないが、肉の切り方を聞かれたことがある人はなかなかいないのではないだろうか。

「お任せします」

 全員がお任せしますと答えた。しばらくしていかにも高そうな肉が運ばれてきた。肉と同時に白米と塩と既製品の焼肉のタレが運ばれてきた。肉のこだわりに比べて焼肉のタレは近所のスーパーに売っているものなのはどうなのだろうか。どっちにしても僕は塩派なのでタレが高かろうが期限切れだろうが関係ないことだ。

 その後僕達は肉を食べた。

 食べるときは全員無言で食べて視線には肉と白米しかないようだ。カニを食べるときに、人は無言になるというのは通説としてあるが、焼肉にも通じるものがあるのではないのだろうか。

 というより、部の集まりの焼肉で無言という状況はなかなかないのではないのだろうか。焼肉屋に行くと四方八方からくだらない話や取るに足らない話が聞こえてくる。しかもこれはバーベキューである。

 バーベキューというのは屋外という開放的なところで開放的な食事をとることによって、気分も開放的になって、世の中のイケイケ能無し軍団は女の子を捕まえてセックスするのではないのだろうか。少々表現が過度すぎたか。屋外ですることはせいぜい接吻ぐらいだろうか。そのあと家に連れ込んでセックスするのだろう。

 僕は昼間から何を考えているのだろうか。

「どうしたんですか能登先輩ニタニタして」

 どうやら気付かないうちにニタニタしていたようだ。最低な男かよ。

「ニタニタじゃなくてスマイルと言ってほしいな」

「能登の顔でスマイルとは冗談がすぎるな」と先輩。

「そうかな。僕は結婚したいぐらいだよ」と彼。もちろん彼の悪いジョークであろう。ホモはNG。

 僕は彼の悪いジョークを軽く受け流して肉を頂く。網の上に置かれた肉は今にも食べてくださいと言わんばかりの匂いと油を発生させている。そこまで言うなら期待に応えてあげないこともない。食べてあげよう。

 そうやって僕達修繕部は新入生歓迎会という名目の、ただの高級な奢りバーベキューをありがたく頂いた。

 僕はバーベキューをしてから叡智の家の所有地であろう草原的なところを眺めながらチョロチョロと歩いていた。

 そうすると叡智が、キャンピングカーのソファで休んでいたであろう先輩と、草の上に寝転んでいた彼を連れて僕に話しかけた。


「能登先輩野球しませんか?」


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