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高専の常識は世間の非常識  作者: シャバゲナイト老婆
メインエピソード
5/37

富豪と高専生

 次の日は午後から実験だったので僕は部室に行かないで、さらに普段から土日は部活はしていないため新入生と会うのは4日ぶりであった。

 授業を終えて部室に行くと、すでに鍵は開いていた。

 部室に入ると、そこには新入部員がいた。

「他に部員は来てないの?」

「はい、私も合鍵作ったのでこれからはいつでも出入りできますよ」

 部員の鍵所持がステータスになってきているようだ。なんだか、この部活は他の部活と比べて自由すぎるな。部活の性質上、人の役に立つ部活なので自由は利くものの、ここまで自由にやっていいのだろうか。無断で合鍵つくるのは法律的に違法だったような気がするが、ばれなければオッケーの精神で良いことにしよう。僕も合鍵持っているし。

「叡智さんって学科どこなの?」

「化学科ですよ」

「僕と同じ学科だったのか。化学科大変だから気を付けてね」

「どこが大変なんですか?」

「えっと、1年生なら一般化学で毎週2時間化学やった後に、専門の化学で毎週3時間化学やるから慣れないと大変だよ。4年生とかになると授業のほとんどが化学になるけどね」

 4年からは大学生と同じ年齢になるので化学のオンパレードらしい。というよりも2年生でも普通の科学で毎週2時間、専門の科学で毎週4時間、実験で毎週4時間と合計で10時間も化学をやるのはどうなのだろうか。授業の詳細が書いてあるシラバスによると3年生は専門の授業だけで毎週19時間もあるそうだ。狂気の沙汰である。ちょっと狂気の沙汰って使ってみたかっただけだ。

 そういえば叡智を対面式の時に見ていなかった気がする。

「叡智さんって対面式のときいた?」

「いや、私は姉から対面式の話を聞いて出たくないなって思ったのででませんでした」

「あ、へぇ」

 姉がいたようだ。でも叡智に似た容姿の人を高専内で見たことがないのできっと血の繋がっていない姉とかだろう。世の中は残酷だから何があってもおかしくはない。

 僕の発想力が枯渇している。

 それにしても対面式って出たくないと思ったから出ない。というのが通用するのだろうか。高専も時間が経つにつれて緩くなったものだな。1年しかたっていないけど。

 大事なのは時間じゃない!

 今日は部室に来たものの、部活としての活動は無いのでやっぱり暇になってしまった。あまり読み進めていないオリエント急行を読む。叡智も最初は部室内を物色したり、外を見たりしていたが飽きてしまったようで、

「部活としての活動ってしないんですか?」

 と僕に聞いてきた。

「先生や生徒からの依頼がないと活動しないね。しないというよりも、出来ないという感じかな」

「そうですか。それだと困りますよね。部室にゲームとか置きたいですよね」

「いや、僕は別に困っていないけど」

「困るとか困らないとかの問題じゃないですよ先輩。充実させようと言っているんですよ私は。馬鹿にしてんのか」

 新入生にためぐちで怒られる。

 まあ、それはおいておいて、部室にゲーム置くのは充実というのだろうか。たしかに遊ぶものは充実するだろうがここは部室だし。僕はやんわりと否定する。

「でもテレビも無いから難しいと思いますよ」

「私が用意するんで大丈夫です。私が入部したのが運のツキというやつですよ」

「じゃあ持ってきてもいいよ」

「わかりました。明日を楽しみにしていてください。朝にセッティングするで放課後にはゲームできますよ」

 今日は部室には僕と叡智の2人しかこなかった。先輩は実験で遅くなることを事前に聞いていた。そもそも活動がある日は部活動掲示板に書くので記載がある日にだけ部室に来ればいいのである。まあ僕も来てしまうんだけど。

 


 次の日になって部室に行くと部室に簡易畳がしかれていて、その上に40型の液晶テレビと置き型ゲーム機が2台置いてあった。端にはゲームソフトが、うずたかく積まれていた。

 部室には既に3人集まっていてゲームをしている。

 適応能力が高い。

 誰に言う訳でもなく挨拶を済ませて椅子に座り、液晶画面を見た。

 液晶には有名ゲームメーカーの格闘ゲームの画面が出されている。そのゲームは自分で名前を決めることができる。画面には「うんこ」「ちんこ」「おしっこ」の3つのプレイヤー名が並んでいる。なにこれドン引き。

 仮にも青春を謳歌するはずの15~17歳の男女が集まって何というプレイヤー名だ。今時、小学生でも名付けないと思う。

 ゲームの決着が着くと叡智が後ろで椅子に座っている僕に振り向いて、

「部長もやりますか?」と聞いてきた。

「僕もやるけどその前に1つ聞いてもいいかい?」

「なんですか?」

 先輩も彼も不思議そうな顔をしてこっちを振り向く。

「プレイヤー名って誰が決めているの?」

「なんかノリで決まりました」

 いい年した高専生がノリでつけるものなのだろうか。どこまでふざけたノリならプレイヤー名が「うんこ」とかになるのだろう。謎は深まるばかりだった。

 僕も畳に座ってコントローラーを持つ。プレイヤー名は「あああああ」にした。ありがちである。

「もっとちゃんとした名前つけてくださいよ。ふざけているんですか」と後輩が言った。

「ちゃんとした名前ってなに」

「ちゃんとした名前ってのはね、もっと心に響くようなものだよ」と彼。

「自分の人生を一言で表したような名前だな」と先輩も続けて言った。

 自分の人生を一言で表したらうんこになるのかよ。悲しい人生。

 仕方がないのでプレイヤー名を進級にした。去年は危うく留年しかけたので僕の人生は進級することが最優先である。なぜ進級が危なかったのに部長になってしまったのだろうか。

「リアル感ありますね」と後輩である叡智が言う。

「高専はすぐ留年するからね」と僕は返す。

「そうか?普通にやっていれば留年しませんよね?先輩」

「しないな」

 と先輩と彼が言った。主席同士の会話はレベルが高いな。といっても僕も試験前からしっかりと勉強しておけば簡単に進級できそうな気がするけど。試験前にしっかりと勉強することは簡単ではないので留年しそうになった。

 と新入生に高専の現実を見せつけたところで、プレイヤー名に関しては勘弁してくれたようなのでゲームに参戦した。

 対戦してみると分かるのだがみんな強いこと。学業優秀でゲームも強いなんて、対抗できるところがない。僕の得意な柔道なら勝てるかもしれない。この僕の無駄に筋肉質な体で華麗に得意技である払い腰を決めたら勝てるはずだ。みんなやせ形だから僕がボコボコにできる。これで運動も完璧とかだったら僕は拗ねて退学してやる。しないけど。

「能登弱い」と先輩。

「あんまりゲーム強くないんですよ。でも柔道だったら先輩にも誰にも負けませんですけどね。小・中と柔道やってましたから」

「私、黒帯だけど」

 その先輩の思いがけない発言に僕は驚いて右手に持っていたコントローラーを砕いた。僕は聞き直す。

「柔道ですか」

「柔道と空手、両方とも黒帯だよ」

 退学します。嫌なこともあったけど高専生活楽しかったなぁ。

「能登、嘘だよ。騙して悪かったね」

 復学します。これからもよろしくおねがいします。部長、頑張って進級します。

 その後もゲームを楽しんで今日の部活動は終わった。



 それから数日たって部室に大きな箱が置かれた。冷蔵庫だ。家庭用の大きな冷蔵庫だが、いったいどうやってもってきたのだろうか。1人で持ち運べる大きさではないだろう。春休みに引っ越しのアルバイトで運んだことがあるから分かるのだが1人だと掴むところがないし、1人で持てたとしても縦のままでは扉にぶつかって入らない。

 そう考えていると冷蔵庫の所有者であろう後輩がきた。

「あ、部長お早いですね。いいでしょうソレ」

 ソレとは紛れも無く僕の目の前にある冷蔵庫のことだろう。

「これって叡智が置いたの?」

「そうですよ。いいでしょうこれ。これでいつでも部室で生活できますよ。やっぱり生活にテレビと冷蔵庫は必須ですよね」

 そうですか。

「これからは他にもじゃんじゃん置いていきますよ」

「そんなに物置いていったら狭くなるよ」

 これ以上置かれたら見つかった時になにかと面倒くさいのでさりげなく注意する。

「そうしたら工事して広くすればオッケーです」

「工事はさすがにマズイ」

「大丈夫ですよ。ばれないようにコッソリやりますから」

「そういう問題じゃなくて。というよりもお金は大丈夫なの?冷蔵庫にテレビにゲーム機って結構お金掛かっていると思うんだけど」

「私の親富豪なんで大丈夫ですよ」

「富豪」

「ええ、富豪」

 ……これ以上触れるのは辞めておこう。

 それにしても修繕部のメンバーがなかなかイカレタメンバーになってきた。このメンバーをまとめる僕って有能部長なのかもしれない。全然まとまってないけど。散らかりまくっているけど。


 そうやって修繕部は新入部員の入部によって大きな変化が起きるのであった。部室が変化しているだけだが。


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