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高専の常識は世間の非常識  作者: シャバゲナイト老婆
メインエピソード
4/37

新入部員と高専生

 次の日も僕は修繕部に行った。

今日は活動する内容は無いのだが、このまま帰っても暇なので、新入部員が来るかもしれないという理由で部室に行く。別に理由が必要な訳ではないのだが。思春期の男子の心とはなんとも複雑なものだ。

 部室には誰もいなかったので鍵をカバンから出して開ける。本当ならば鍵は学生課に取りにいかなくてはいけないのだが、勝手に合鍵を作っちゃった。テヘッ。

 おっ、かわいいな~。かわいいから許しちゃお。

 部室に入っても暇なのは変わらなかったので掃除をする。掃除当番という仕組みはないため、掃除は部長の仕事になっている現状だ。といっても年度末である3月に部員全員で(といっても幽霊部員は除くが)大掃除をしたので特別汚いわけでもない。ホウキを使って軽く掃き掃除をしてテーブルを拭いて終わり。

 さて、また暇が来てしまった。

 新しく図書館で借りてきた本を読むことにした。アガサクリスティーを読む。オリエント急行殺人事件とか読む。アンデルセンと同じように、たぶん途中で飽きるだろうけど。

 たぶん僕は洋訳書が得意ではないのだろう。今度は宮沢賢治でも読んでみようか。こころとか読んでみようかな。

 とオリエント急行殺人事件を読んでいると彼が来た。

「やあ部長、新入生は来たかな?」

「来ると思ったのか?残念ながらその考えは甘い」

「僕は甘党だからそれはピッタリだね」

「いや、言葉の綾だけど」

「知っているよ。主席をなめないでくれ。能登は冗談が通じないなあ。頭が固いよ」

 僕も冗談で返したつもりなのだが。そんなにも僕には冗談のセンスがないのだろうか。いや、たぶん彼の冗談が通じないという発言もまた冗談なのだろう。まったく、主席が考えることはわからないな。人としての構造が違うのだろう。きっと染色体とか80本くらいある。

 話を終えると彼は椅子に腰かけて本を読みだした。

 もう修繕部ってめっちゃ本読む部活動じゃん。これもう文芸部でいいよ。来年から文芸部に改名しよう?それの方が部員入ると思うよ。なんだよ修繕部って頭おかしいんじゃねぇの。と言いつつも修繕部に入って部長にまでなってしまっている僕。

 彼が読んでいた本は高瀬舟だった。

 重い、重いよ。

 それ学校で、しかも部室で読む内容じゃないでしょ。せめて舞姫にしたらどうだろうか。舞姫も僕からしたら十分に重い内容だけど。舞姫ならエリスを愛でることができるからね。

 全国の舞姫ファンと森鴎外ファン・エリスファンからボコボコにされそうだから愛でるのは辞めておこう。

 もしも仮にエリスが部室に来たとしても軽く会話をしてさっさと帰らせよう。

 不必要な決意。

 僕もオリエント急行を読みながら時間を潰すことにした。新入生が来るかもしれないという理由を添えて。

 今度は先輩が部室に来た。僕を含めたこの3人の部活動出席率は9割を超えているだろう。しかし他の部員は一切来ないので部活全体の出席率は低い。

 だが、高専祭の時に部活単位で出店するときと、五月の初めにある新入生歓迎焼肉には、だいたい全員出席する。そのときは初めましてのオンパレードである。

「2人とも新入部員は来たか?」と先輩が椅子に座りながら言った。さっきも聞かれた。

「来ると思ったんですか、その考えは甘いですよ。あ、甘いというのは言葉の綾であって、決して本当に甘い訳ではないですよ」

 また冗談が通じないと言われるのを防ぐため最後まで言った。先手先手をうつのは大事である。

「そんなこと知っているよ。君は頭がおかしいのか」

 これは僕が悪い。デジャブだ。

 誤用か。

 そもそも、高専生は基本的に国語力が足りない。それは高専の授業が大きく理系と専門科目に重点が置かれていることが影響しているのか、それとも国語力がない人が自然と高専に流れてくるからなのかは知らないが、どちらにしても高専生は国語力が足りない。だから僕がデジャブを使い間違えても問題ないのだ。人間は成長から学ぶ人間だ。

「今日は新入生が来るよ」

 先輩が言う。

「そんなことはないでしょう。だって部活に来る要素も、この部活のことを知る要素もないじゃないですか」

「いや、私はわかるぞ」

「たしかに電波属性は不思議な予知能力があるって話もありますけど」

「私は電波属性ではない。おてんば属性だ」

「え?汚点ババア属性ですか?確かにその容姿に対してその性格は十分に汚点ですし僕から見たら先輩はババアですし」

「能登、それは流石に酷過ぎないか?」

「冗談ですよ。まったくもう、先輩は冗談が通じないなあ」

「冗談なら何を言っても良いわけではないだろう?人には触れてはいけないこともあるし、言っている内容は紛れもなく悪口なわけだ。私は事件化することを良しとしないから大事にはしないけど。今度から気をつけた方がいい」

 先輩に普通に怒られてしまった。先輩の顔が普段の何を考えているか分からないニッコリとした顔から真顔になっている。腕を組んで貧乏ゆすりをしている。本気のやつだ。

「すいませんでした。これからは気をつけます」

 すなおに謝罪する。

「冗談だよ。能登は冗談が通じない人だなぁ。頭が固いよ」

「確認したいんですけど、それ本当に冗談ですか?冗談だとしても演技派すぎますよ。もう本当に怒ったのだと思ってましたよ。というより今も半分くらい思ってますよ」

「安心してくれ。100パーセント冗談だ」

「安心しました」

 先輩は僕の返事を聞くと、やっぱりカバンからやっぱり本を出した。

 まさかの高瀬舟だ。彼と呼んでいる本がかぶっている。というか、高瀬舟でかぶるとか意識高すぎる系部活だ。というよりも絶対狙っているでしょ。自然に読んでいる本が被ることなんてまずないし、被った本が高瀬舟とか何万分の一って話だ。高専生なんだからせめて有名なライトノベルで被せろ。高専に森鴎外を流行らせるな。

 そうしていると部室にノック音が響いた。一瞬新入生かと思ったが、たぶん顧問とかだろうから「ハーイ」と返事をする。

 失礼します。と言って入ってきたのは見たことない生徒だった。たぶん新入生。

「はじめまして。新入部員ですか?」

 僕は先制パンチを繰り出す。

「いや、まだ入部すると決めた訳ではないので新入部員ではなくて新入生ですけど」

 使う言葉を間違えてしまった。新入生にさっそく恥を晒してしまった。

 続いて新入生が言った。

「でも、そこまで言うなら入りますよ。私、この部活に」

「え」僕と彼が同時に言った。彼は驚きのあまり本をビリビリに引き裂いている。頭大丈夫か……。

 先輩は、だから言っただろう?とでも言わんばかりにニタニタしている。

 そういえばそんなことを言ってたな。

「もしかして歓迎されていない感じですか?」

 新入生は僕達の顔色をうかがう。

「いやいや、歓迎だけどよく考えたら?この部活に入っても面倒くさいことばっかりだよ?」

「問題ないです。私もう決めましたから」

 その後も修繕部に入るのを諦めさせるために、僕と彼はあの手この手で修繕部のデメリットを言ったのだが、新入生はそれでも大丈夫です。問題ないです。と繰り返していたのでついには根負けしてしまった。

「わかったよ。じゃあ入部届け渡すから必要項目書いて学生課に提出してね」

「わかりました。私の名前、叡智って言います」

「叡智って名字?名前?」

「名字に決まっているじゃないですか。叡智が名前だったら、それはアメリカ人じゃないですか」

「うーん、うん」

「突っ込まないんですか。頭が固いですね」

 後輩にまで頭が固いと言われてしまうとは。一生の不覚。来週には忘れてしまう程度な僕の一生。そもそもアメリカ人ってなんだよ。ボケが雑すぎる。

 その後、新入生の叡智は椅子に座っていいですか、と聞いて返事も待たずに座り、他の部員と話をしていたようだ。

 その後、修繕部の既存部員3人は新人部員と話をして部活の活動は終わった。

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