オショウガツ・ワン
1月1日。
僕はアセロラジュースを飲んでいるうちに新年になってしまったので新年最初の「あけましておめでとう」はアセロラに対してだった。
どことなしかアセロラジュースも「あけましておめでとうございます!」と言っているような気がする。敬語。
そしてそのまま、電話が鳴った。新年早々に電話がくるなんて不躾なやつだな!と思うような素振りを見せているフリをして電話に出る。最近の僕は異様にテンションが高かった。なんでじゃ。
「あけましておめでとうございます。あなたは当選しました!」
「それ口頭で言うやつじゃないよね……」
迷惑メールによくある。僕はキッチリと最後まで読んじゃうんだよね。迷惑メール。そして迷惑メールなら「おめでとうございます」だよね。なんで「あけましておめでとうございます」なんだ。
いや合ってるけども。
やっぱりやはり、電話の相手は叡智だった。もう最近は叡智としか連絡を取り合っていない。というか元から連絡をこまめにとる人じゃないので連絡をとる相手が0から1になっただけの話である。この2年間のスパンで最も連絡をとっている人は叡智である。
悲しい男よ。
「それで叡智さん?」
「なんですか」
「要件は何ですか?」
「初売りに行きましょう!」
初詣じゃないんだ……。数日前に初詣に行きましょうとか言っておいて。いや別にいいけどさ。いいけどね。
妥協の人生。
僕は気をとりなおして話を進める。
「初売りに行くとしてもどこのお店に行くの?ブックオフ?」
「違います。おもちゃのヨシタツです」
おもちゃのヨシタツはこの町に何十年も前からあるおもちゃ屋さんであり、僕の父親や祖父母もそこでベイブレードを買っていた。先月。
意外とそういう地元に根付いたお店の方がTSUTAYAよりも安いゲームが売っていたりする。もちろんそうじゃない時もよくあるけど。
まあ、僕も元旦から一切予定のない暇人間なので快くとまではいかないけれども返事をする。
「午後からでもいい?」
「うーん。私は問題ないんですけど……」
なぜか渋る叡智。
「なにが問題なの?」
僕はダラダラと話をするのが好きではないので早急な問題解決に努める。女性にモテるタイプの性格ではない。しかし叡智も去年一年高専に揉まれていた紛れもない理系であるため、問題の早期発見・早期解決を良しとする性格である。
叡智は答える。
「うーん。実は昨日、12月31日はお姉ちゃんの誕生日なので能登先輩をのぞいた修繕部3人で誕生日おめでとうパーティーを開いたんですよ」
「えー!」
うそでしょ!?
マジ!!?????なんで誘ってくれなかったの!!!!??????
これが仮に修繕部の部員が40人とかめちゃくちゃ多かったんなら全員誘うのもなぁみたいな雰囲気になるのも仕方ないのかもしれないが。でも4人だよ!!!!!??????25パーセントの損失だよ!??!!?!?!!!!!???なんで誰も指摘しなかったの??????「そういえば、能登、いなくね?」って!!!!!!!!はああああぁぁぁぁぁぁぁぁ。もうやってらんねえわ。
「ああ、能登先輩。誤解がないように言っておきますけど、能登先輩を呼ばなかったのは日ごろの行いが悪いからですよ」
「ヒドイ!!!!!いらないトドメを刺さないで!!!!!!!!!!」
もう本当に不要な一言だった。オーバーキルもいいところだ。
「まあ、冗談ですけどね」
「う、ううん」
どこまでが冗談なのか分からずに曖昧な返事をしてしまう僕だった。全部嘘であってもなんだか変な気分のままだ。だれも得しない嘘である。
「お姉ちゃんの誕生日パーティーというか、そもそもお姉ちゃんはカウントダウンジャパンに行っているので北海道にいませんけどね」
安心。架空の誕生日パーティーに惑わされる僕だった。
本当に嘘でよかった!
ということで。
一段落ついたので話を元に戻す。あらかじめ先輩がカウントダウンジャパンに行くことは、CDJ1617に行くことは知っていたのでさっきの話し合いは全て冗談である。言う方も言う方だが、付き合う方も付き合う方だ。まあ、結局は2人ともこの流れが好きなのだ。いや、僕はそんなに好きじゃないかな。
だが、嫌いじゃない。
「それで僕は何時にどこで待っていればいいの?」
うーん、どうしましょうかねえ。と悩んだ後に叡智は答える。本当に考えていたのか、それとも考えるフリをしていたのかは分からない。
「では、明日の午前11時に永山神社で待ち合わせしましょう」
「それ本当におもちゃのヨシタツに行くの?」
どこからどうみたって初詣に行くようにしか思えないんだけど。というか永山神社からおもちゃのヨシタツは遠いよ。永山神社からバスで60分くらいかかる。しかも乗り換えを3回くらい必要とする。
しかし叡智は半分キレながら否定する。
「あたりまえでしょう。なにいってるんですか頭おかしいんですか。そうやってすぐに人の発言を否定して裏を取ろうとして楽しいんですか?私は全く不愉快ですけどね」
……。
半分というより全開でキレていた。
オススメの精神科を紹介しようか迷ったのだが、そんなことをしたら「私に精神科に通えっていうんか!この愚か者!」とさらに怒られるのでそっとしておく。叡智に関してはマジなのかジョークなのかわからない。
僕はいいかげん眠たかったので適当に返事をして会話を終わらせる。
「永山神社に11時ね。了解」
「はい。おやすみなさい」
おやすみ。と言って僕は電話を切った。
永山神社は1月2日だというのに参拝客が行列をつくっていた。僕はいつも1月の3日か4日に行く人なのであまりの参拝客に絶句する。
「こんなに人がいるのか……」
「私も予想外です。混んでいるのなんて1月1日くらいだと思ってましたけど。やっぱり時間も関係してるんじゃないんですかね。ちょうどお昼前ですし」
と横で叡智が話す。
僕達は行列の最後尾に並んでいた。ちょうど僕達の横にある池は水面に氷が張っていて、その上でカモが休憩している。
この時期になると川や池にカモ達が集まり、なんだかよくわからない時期に去っていく。正直、いつ来ていついなくなるのか把握していない。常日頃から神社に来るようなタイプではないので、カモを見るのも年に一度、この時だけだ。
あまりにも行列が進まないので、僕は暇つぶしも兼ねて叡智に話しかける。
「叡智、あそこにカモがいるよ」
「そうですねえ。私、カモ肉好きなんですよ。カモの肉って牛や豚、鳥、馬や羊なんかとも違いますよね。あっさりしてるのに、しっかりと肉であることは分かる感じ。分かります?」
「いや……」
分かるけども。わかるけどもカモを見てすぐにカモ肉の話にならないでしょ……。僕はカモかわいいねウフフフみたいな話をしようと思ってたのに。
なんだかお腹が空いてきてしまった。
「食べたいね。カモ」
僕は叡智に聞く。
「いいですね。食べに行きましょうか。カモ南蛮そば」
などなど言いながら、参拝。
賽銭を投げ、鈴を鳴らす。
完全静止して、2礼。
大きくゆっくりと2拍手。
今年のお願いをする。この時ばっかりは誰でも謙虚になる時間だ。
そして1礼。
顔を上げて完全静止し、帳簿に住所と名前を書く。
そのままおみくじを引きにいく。
おみくじにも列ができていて、僕はまた叡智と一緒に並ぶ。僕の冷えた右手で叡智の左手を取ってポケットに入れる。
叡智の手も冷たかったが、互いの手で互いを温め合うとすぐに手はぬくぬくとした。
「寒いねえ」
僕は叡智に聞かせるように呟く。
「そうですねえ。こんな日には蕎麦が食べたくなりますね」
めっちゃ蕎麦大好きかよ。もう脳内は蕎麦のことだけだろう。というかおもちゃのヨシタツに行くって話は絶対に忘れてるな。
実際、永山神社の近所にTSUTAYAがあるので、ゲームソフトを買うならそこが近いしいいんじゃないか?という話にもなる。
まあ、僕を呼ぶための口実に対して躍起になる僕も僕で変だろうからここで留めておくけど。
行列も参拝の時よりは早く進み、ものの数分で僕達の順番になる。
僕は毎年この神社で同じお守りを頼んでいるので、今年も同じお守りと、それにおみくじをチョイスした。
「600円をお納めください」
僕はサイフから千円札を取り出し、400円のお釣りをもらう。
無造作に並んでいるおみくじの束の中から僕の精神を集中して今年の運勢を決める一枚を選ぶ。叡智も同じようにおみくじを選んでいた。
グググッ。ポンッ。
実際にはこんな音は鳴っていないが、僕はおみくじを引いた。むだな脚色。
少し緊張しながらおみくじを開く。
大吉。
うおおおやったね!!!!!!!!!!
僕は叡智の方を向く。きっと顔が少しにやけていただろう。ポーカーフェイスへの道は長い。
「叡智はどうだった?」
「ふっふっふ」
笑う叡智。そのまま僕におみくじを見せようとしていたが、地面が滑ることをすっかり忘れていたのか、大きくずっこけた。
「大丈夫?叡智」
僕は叡智に手を差し伸べながら聞く。
「はい。それよりも私のおみくじの結果を見てくださいよ。なんと凶です」
ニコニコしているから大吉なのかと思ったらまさかの凶だった。もう一回ひきなさい。
叡智はもう一回ひいて、そしてニコニコしながら僕の方へと歩いてくる。今度は足もとを確認しながらゆっくりと、しかし気分ではスキップしながら。
「見てくださいよ。大吉です!」
「すごいね!」
「私が本気を出せばこんなものです」
おみくじって本気を出すものなのか?まあ凶よりは大吉の方がいいことは確かだけど。強運をひきよせる女。
僕達はおみくじの文章をその場でじっくりと読む。うーん。やっぱり大吉なだけはあっていいことが書いてあるね。
全部読み終わったころに、僕は叡智に聞く。
「それじゃあ叡智」
「なんですか」
「行こうか。カモ南蛮そば」
「いいですよ」
フフフと笑う叡智。少し前と比べて、最近はよく笑うようになった。僕達と接するようになって変わったのだと思うと少し誇らしい。
僕は叡智と手を繋いで境内から出ていく。どことなしか僕の気分もスキップしていることに気がついて少し照れた。
「能登先輩」
叡智はニコニコのまま僕に聞く。その表情には幼さが残されていて、この笑みだけは初対面の頃から変わらず僕の心を射抜き続ける。
「どうしたの」
僕もニコニコのまま問う。叡智の目には僕の表情は、叡智の心には僕のことはどう映っているのだろうか。
それを熟考するのは後でいいだろう。いつかの寝付けない夜にでも、じっくりと考えることにしよう。
叡智は握っている僕の手を強く握りなおして言う。
「今年もいい一年になるといいですね」
「そうだね」
空は少し曇っていたが、その色は地面の雪とそっくりで、まさに一面銀世界と呼ぶにふさわしい景色だった。枯れ木に積もっている雪がドサリと落ちた。
僕が神様に何を願ったかは内緒にしておくが、しかし叡智は、叡智だけは僕が何を願ったのかはもう分かっているのだろうな。と僕は思った。
外は寒い。
美味しい蕎麦を食べよう。




