クリスマス・ワン
「今日は何の日でしょ~か!」
部室でストリートファイターⅡをしている僕に向かって、叡智はテレビの電源プラグを抜かれながら聞いてきた。
「ええ……」
もう絶句しかできなかった。テレビの電源プラグを抜く必要性を感じていない。頭がイカれている。
確かに部室に不釣合いなほどに大きな60型4Kテレビは暗転してしまったが、しかしスーパーファミコンの電源プラグは抜かれていなかったため、おおよその位置を予測しながらコントローラーを手のひらで操作する。
テレビがついていた時には左端に位置していた自分のキャラクターをその位置から動かさずに攻撃のコマンドをうちこむ。
電源プラグを抜いても僕のゲームをする気が失われなかったためか、叡智は諦めたようにテレビの電源プラグを再びコンセントにさした。
再び明るさを手に入れたテレビには、衝撃的な状況が映し出されていた。
負けてた。
「うわああああああああ!!!!!!!ザンギエフゥゥゥゥゥッゥ!!!!!」
「そんなにゲームに感情移入するタイプじゃないでしょ……」
叡智は呆れていた。こっちはマジでガチなのに。
スーパーファミコンの電源ボタンを押す。このままゲームを続行していたら何をされるか恐ろしかった。ハンマーとかで後頭部を思いっきり殴られそうだ。
猟奇。
「今日は何の日?だっけ?質問は」
「はい。でも能登先輩は疎いタイプですからもしかしたら気がつかないかもしれませんね」
なんだって!僕だって思春期の高校生なんだから今日が何の日かなんて分かっているに決まってるじゃないか!
と、言いたかったのだが。
「今日って何の日だ……」
今日は12月28日。
何でもない日である。というか年末に部室にいる僕も叡智もどうにかしていた。学校は明日から完全休業に入るため、まあ入ってはいけないということではないのだろうけれど。
部活動が活発でない高専で年末ギリギリまで部活を行うところなんてどこにもなく、活動しているのは修繕部(故)ぐらいだった。というかこの部が活動と呼べる活動なんてしたことがあっただろうか。4月に惰性的に仕事を回してもらったくらいだ。
何の日だかわからない僕に、分かりやすいようにため息をついて叡智は話しだす。
「今日は身体検査の日ですよ。まったくもう……」
そんなの分かる訳がなかった。おー!今日は身体検査の日かー!となることもなかった。初めて聞いた。身体検査の日。
「だから……」
叡智はレスリングの構えの格好をして、ゆっくりと話しだす。
「だから……」
僕も叡智に合わせて話す。
「私は能登先輩にセクハラします」
「えー!」
セクハラって言っちゃってんじゃん。身体検査の延長線上でエッチなことをするんじゃなくて、もう最初っからセクハラになってんじゃん。セクハラファーストじゃん。
僕は叡智とくんずほぐれつの大激戦を繰り広げた。といっても、一方的に僕が防戦するだけだった。これからは女性の時代であると、強く感じた僕だった。
じゃなくて。
「で……叡智さん」
僕は息も絶え絶えになりながら尋ねる。もう力関係が完全に逆転してしまったので年下にも躊躇せずに敬語を使う。
「なんですか」
叡智は叡智で力関係が逆転しても年上であることに変わりない僕に対しては変わらず敬語を使ってくれる。というか元から敬語が板についているのかもしれない。力関係とかそういうの関係なく。
「結局なんで僕は今日呼びだされたんですか」
ああ、そうでしたね。と言って叡智はカバンからラップトップを取り出す。実は今日僕が学校にいるのは学習に対する意欲がある訳ではなくて、昨日の晩に叡智からメールで呼びだされたのだ。
僕はお風呂場にスマホと本を持ち込むタイプの人間なので、お風呂場に滅多に来ないメール音が鳴り響いたのにビックリしてしまい本をビチャビチャにしてしまった。
かわいそうな浅田次郎。
「12月31日は何の日かわかりますか?」
まーたなぞなぞかよ。いいからさっさと言ってくれよ。めんどくさい女かよ。
「大晦日!」
「ちげえよカス」
「口、悪!」
強さをはき違えている。
叡智は僕のみぞおちにパンチをいれた。僕はよろよろとフラフラとしながら畳の上に仰向けになる。僕の上に叡智がまたがり、そして言った。
「12月31日はお姉ちゃんの誕生日ですよ。忘れたんですか」
そういえば。だいぶ前に先輩から誕生日が12月31日だったと聞いた気がする。なんか近くにバイクとか有った記憶があるからオフで聞いたんだろう。
休日をオフと呼ぶな。外資系か。
「じゃあ誕生日パーティーをしましょうか」
パーティーを僕から提案する。やる気のない学生だと思われたら殴り殺されてしまいそうなので。
「いえ、しません」
「しないんかい」
「はい。それは別として、初詣に行きませんか」
ちょっとワガママが過ぎないか?さすがに話をコロコロと替えすぎだろう。話が要領を得ていない。少し叱るか。
「叡智!」
「なんでしょうか」
「最近ワガママすぎないか?話をコロコロと変えたり、僕に不必要な暴力を与えたり、熱々のお茶を僕の顔にかけたと思ったら氷水を顔にかけてノーカンにさせたり」
「だって……」
なんだか暗い雰囲気になる叡智。それになんかちょっと照れてる?
叡智は僕にマウントをとった状態で言った。
「だって、私、能登先輩が好きなんですよ」
……。
か……かわいい。
頬が少し紅潮していて、照れて下を向こうとしても下には僕がいるため目が合ってしまい、逸らす。なんだか気持ちをそらすようにして、叡智は左手で長い髪をクルクルとカールを巻いては解き、巻いては解きを繰り返している。
元々叡智は整った顔つきをしていて、どんなシーンにおいても絵になるタイプではあったのだが、しかし下から見上げてもこんなにかわいいとは無敵だな。あんまりそういう対象として叡智を見たことがなかったから、こうやって告白されることによって改めて叡智を1人の女性として意識してしまう。
なんだか胸の中が嬉しい気持ちで一杯になった。が、
「もっとちゃんとした時に言って欲しかったな……」
みぞおちにパンチは入って意識はハッキリとしていないし、マウントはとられているし。これ断ったらそのまま殴り殺されてしまいかねない雰囲気だ。
なんだか不安の気持ちが増えていく。そういうところが無かったら最高の交際相手なんだけどな……。
というか最近、僕に対して暴力を振るいすぎじゃないか?小学生の恋愛かよ。
不満ばかりの人生。
と、さんざん叡智をまたせるのもいけないので僕は返答する。
「ごめんなさい」
「断るんですか!?えええええええええええええええええええええええ!!!!??????これ絶対あるパターンだったですよね!!?????というか少し前に私に告白してきませんでしたか?????はーーーーーー。なーーーんだよコイツ。最悪かよ。最悪の国に生まれた最悪プリンスかよ。もう敬語で話すの辞めるわ。調子乗んなよ」
え?
なんか辛辣がすぎないか?僕としては冗談でしたー(笑)くらいのつもりだったのだが、まさかここまでショックを受けるとは思わなかった。というか、そんなにダメージうけるんなら11月で僕の告白を振るなよ。すんなりオーケーしろよ。
はーーーー。
「というかちょっと待って」
「なに」
叡智のおざなりな態度に僕は少し心を痛めた。いきなり溜口になるって結構精神的にダメージくるのね。
「最悪の国に生まれた最悪プリンスって……なに?」
「なんでしょうかね。私も分からないです」
怒りに乗じて適当な発言をするな!
まあ僕もそういう発言をする節があるから強く咎めることはできないけども。
「さて」
叡智はパチンッと大きく柏手をうって会話を強引に切り替える。いいから僕の上から降りてくれないか。
「1月1日に私の家に来てください。あと、スリーサイズも教えてくださいね」
「……それだけのために僕を学校に呼んだの?」




