高専祭が終わって
これはあとがきというか、おまけのようなものです。
「あ、あの……」
あの高専祭から数日が経った。
「初めてでこんなこと言われると困るかもしれませんが……」
あの高専祭から数日が経ち、
「付き合ってください!」
僕はモテまくっていた。
「いやあ、困った困った!また告白されちゃったよ!」
僕は修繕部(故)の部室のドアを自慢しながら開ける。もう何度も告白されて慣れてしまった。しかし、悪い気分じゃない。
下級生はもちろんのこと、同い年や上級生にも告白されるようになった。本当の本当にモテモテだった。
今まで告白された経験は一切なかったので、いきなり告白された回数が乗数的に増えてしまった。まあ、0に乗数をかけたところで0なんだが。
あくまでも言葉の綾ということである。
まあ、なんにせよ、人生で最高のモテ期であった。
しかし修繕部(故)の部室には誰もいなく、ただ独り言を言っただけの僕がそこにはあった。部室の鍵がかかっていなかったから誰かいるものだと思っていた。部室には高価な電子機器があるので施錠はしっかりとしてほしい。
僕が買ったものじゃないけど。
というか部長的に言えば、少し前に部室の壁をブチ開けたエアコン用の穴が見つからないことが心配だ。弁償とかになったらどうしようか。
と急激に醒めた気分でいた僕の視界が突然奪われてしまった。
まあ、つまり、
「だ~れだ!」
と目を覆われた。
なんだか僕の視界をふさいでいる手が濡れているような、そんな雰囲気がヒシヒシとしていた。それに加えて、その手は、今でこそ僕の目の前ギリギリをキープしているが、それがベッチャリと僕の顔につけられそうな感じがした。
ベッッッチャリ。
はい大正解。
なんだか濡れたものが目に沁みるような感じがして、というか普通に目が痛かった。なんだか滅茶苦茶痛かった。
「痛い痛い痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!!!!!死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!!!!!!!!!!!」
「怒りすぎじゃない?」
僕の目にマスタードをベッチャリと塗りつけたのは先輩だった。
「誰だって目にマスタードつけられたら怒りますよ」
僕は修繕部(故)に備え付けられている水道で目の周りにこびりついたマスタードを洗い流す。水道水と一緒に涙も排水溝に流れる。
こんなもん痛すぎるわ。
僕が十数分くらいじっくりと顔を洗っていると、僕の首元にソッと良い匂いのするタオルがかけられる感じがした。
いや、その優しさは分かるけども……。
その優しさ、被害を未然に防ぐ方向に回せなかったのかな。失明よろしくの姿勢にはもはや感動すらも覚えてしまう。
もしかしたら感動の涙かもしれない。
いや、普通にマスタードが目に沁みているからだ。
ジャバジャバと顔を洗って、首元のタオルで水滴を吸い取る。
先輩に仕返しでもしてやろうと振り返るが、部室には既に先輩がいなくなっていた。僕のやるせない気持ちだけが残った。
先輩の代わりに叡智が部室の中央で僕の方を見ながら仁王立ちしていた。なんだかこっちの方が気まずかった。予想外の状態の部室だったので、僕は思わず叡智を二度見してしまった。
「え?え!?」
じっくりと叡智を見てみると右手には巻き物のようなものを握りしめていた。
「時代錯誤……」
そして沈黙が流れる。もう僕のターンは終わって叡智のターンだと思っていたのに、どんだけ待っても叡智は話しださないので、仕方なく僕が話をする。
「どうしたの?その右手?」
叡智は一向に話そうとしない。ただ仁王立ちするだけだった。
ずっと僕のターン。
別にターンを欲しているわけではないし、余剰ターンを消化したいので攻撃に次ぐ口撃をすることにした。
「おらおらおら!!!」
「ヘタクソ!」
口撃をしようと思った割に言葉が浮かんでこなかったので、とりあえずオラついてみたらなんとかなるかと思ったらなんとかなった。ついに我慢の限界に達したようで叡智は話し始める。
「私が少し黙っていたくらいで話すことがなくなってしまうの、なんとかした方がいいですよ」
「……」
いきなりのマジ説教だった。
しかも正論なので反論のしようがない。完全論破された。というか、なんだか僕に辛辣じゃないか?僕はてっきり叡智と高専祭で仲良くなったと思ったのに、こんなのあんまりだ。
悩んでいても思い当たる節がなかったので、正直に叡智に聞いてみることにした。
「叡智ちゃん?」
「なんですか」
「なんか最近、僕にあたり強くない?」
……。
沈黙が流れる。叡智は僕の言葉を聞いて、ただ一切の感情を捨てて僕の目を見るだけだった。視線が合う。いつもだったら気恥ずかしさから目を背けてしまうのだろうが、なんだかいつもの冗談で済ませられるような感じではなかったので僕も叡智と目を合わせる。
それからいくつかの沈黙が流れた。時間からしたら数分くらいなのだろうが、互いに目が合った状態だと時間の進み方が非常にゆっくりだと感じた。体内時間だったら1時間経っていたとしても変な話ではない。
「……最近」
それからさらに少し間を置いて叡智は話し始める。その表情には困惑のような照れのような表情が感じ取れそうで、でもやっぱり僕は正解を感じ取れなかった。
「最近?」
聞き直す。
「最近、いろんな女の子に告白されてるらしいじゃないですか」
おっと。
まさか僕にモテ期が来ている件に関してのことだとは思わなかったので、少し驚きが表情に出てしまった。驚きと同時にモテモテであることへの喜びが出てしまって顔が少し“にやけて”しまったことに関しては弁解のしようがない。
そんな僕を感じ取ったようで、叡智は話を進める。
「告白、全部断ってるらしいじゃないですか。それって……」
なるほど。
全て理解した。
やはり叡智もどんな生活環境であっても結局は青春真っただ中の少女であるため、自分のした行動が何を意味しているのかを理解している。
しかし、それが語弊であることも僕は理解していた。なにせ叡智が悩んでいることは僕がなんて思っているか、という話なのだから。
「叡智」
僕は叡智の名前を呼んで、暗示をかけるように“ゆっくり”落ち着いて話し始める。
「これから話すのは全部本音なんだけど、僕は叡智に気を遣って告白を断っているわけじゃないよ。確かに僕は叡智のことが大好きだけど、だけど叡智はやっぱり他人だからね。どんなに叡智のことを心配していても自分の人生を大きく変えるようなことはしないよ。僕は僕がやりたいようにやってるからね」
しかし叡智の顔はどこか晴れない。
うーん。
僕はゆっくりと深呼吸をして、心を落ち着かせる。心臓は嫌というほどに脈打ち始めて、なんだか勢いで片付けられないような気もしてきたが考えないでおこう。
「叡智!」
「はい」
叡智は少し驚いたように、うつむいていた顔を上げて僕の方をみる。
再び僕と叡智は目が合った。
「僕は告白されても、なんだか違うって思ってたんだ。だから全部断ってきた。でも今、その違う原因の何かが分かったんだ。僕は叡智じゃないとダメなんだ。このモテ期は高専祭の後限定の一過性のものかもしれないけど、でも僕は高専祭よりもずっと前から、本当は叡智のことが好きだったんだ。たしかに僕は頼りないかもしれないけど、でも、付き合って後悔はさせないから。僕と、僕と付き合ってください」
「ごめんなさい」
「えええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!」
ええええええええええええええええええ。これ絶対オッケーのパターンだったでしょ。逆にこれでNG来ると思った人とかいるのかよ。だってこれ絶対にいけるやつでしょ。
じゃあもうそういう雰囲気出すなよ!!!!!!あれ?いけるんじゃね?的な雰囲気を出すなよ!!!!!!!最初に「私は別にあなたのことを恋愛対象だと思っていません」って言ってから挨拶とかしてほしいな。無駄に傷ついちゃった。
あああああ恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。もう嫌いだ!!!!!僕、叡智、嫌い!!!!
というか叡智って少し前に僕のこと大好きって言ってなかった?なに?僕どこかで嫌われるようなことしたっけ?あああああああああ!!!!!!わかんねええええええええええええ。
ああああああもうやってらんねえわ高専生活。辞めてやる辞めてやる!こんなクソみたいな学校辞めてやるよ!!!!!!!
さて、
ここで一句。
忌み嫌い 負かした狐に 化かされて
……以上です。
と、僕が告白に失敗して悶絶しながら地面をゴロゴロと転がったり蜂のように窓ガラスの隙間に入ったりしていると、それを見ていた叡智が笑いながら。
「冗談ですよ」
と言った。
はたして、どこまでが冗談なのか僕は分からなかったし、もしかしたら冗談という発言そのものが冗談の可能性だってある。しかしそんなことどうでもよかった。なんせこの部活は軽口を叩きあうだけの部活なのだから。どこまでが本当でどこからが嘘なのか、そんな泡沫を気にしたところで楽しい学生生活は送れないし、ふとした時に上手い発言をした時の爽快感は何物にも代えがたい喜びがあるものだ。
「叡智」
「なんですか?」
「カレーでも食べに行こうか。オススメのお店を知ってるんだよ」
「それよりも私の家でカレー食べる方が安くて美味しいと思いますよ。来ますか?」
「行かせてください」
この世の中、劇的な生き方をする人なんて小説の中くらいで、実際には存在しないのかもしれないけど、だけど劇的な生き方を心がける人には案外優しい世の中なのかもしれない。
好きな人がいつまでも幸せに生きられることを祈ろう。
なんで時間が空いてあとがきなんて書いたんだ。という話になるのも当然という話かもしれませんが、早い話が、来週から新しい話でも書こうと思っていたので、リハビリ程度に書こうと思っただけです。もしかしたらテイストが本編と違うかもしれませんが、それならばごめんなさい。




