部活と高専生
始業式から数日たって通常授業が始まった。これと同時に部活も活動開始する。僕の部活も活動を開始する。
僕の部活には先輩が1人と同学年に1人、幽霊部員が8人という感じだ。
高専生の部活というのは、幽霊部員でも問題ない。部長が一週間以上も部活に来ない運動部もあったりする。そもそも高専の部活動と言うのは、ロボットコンテスト、通称ロボコン部以外はあまり目立った活躍をしないのは、全国の高専に言えるのではないのだろうか。
それは部費にも表れていて、ロボコン部に部費の多くを持っていかれて残りの少ない金額を他の部活で分け合うみたいな感じである。
ちなみに僕の部活は1000円の部費が与えられている。目立った活動実績も無いし、部員の出席率も低いので当然だろう。
新年度初日の授業を終えて部室に行く。部室には既に人がいたようで、部室には鍵がかかっていなかった。
「能登君ではないか」
部室にいたのは数少ない幽霊じゃない部員の中で唯一の3年生の先輩であった。先輩の容姿は金髪のツインテールである。
高専は染髪に関する決まりはないため、金髪にしようが白髪にしようが問題ないのである。
だからと言って金髪ツインテールというのはどうなのだろうか。高専だから特に何もないものの、もしこれが普通高校だったらイジメにあっているのではないのか。それにしてもいかにも童貞が好みそうだ。やっぱり黒髪ロングと金髪ツインテールは童貞が好みそうだ。僕も童貞だけど。自分のことは自分が一番よくわかっているということか。
「先輩、部活動勧誘とかしないんですか?」
「しない」
キッパリと答える先輩。すさまじい決断力だ。決断力が欠如していると言われている現代日本人の姿はここには見えない。
「でもこのままだと部そのものが無くなってしまいますよ。ただでさえ出席率が低いのに」
「出席率は低くても主席率が高いから問題ないだろう」
「そういう問題ではないでしょう。確かに主席率は高いかもしれないですけど。そもそも主席率ってなんですか。というより幽霊部員じゃない部員のなかで僕以外が主席というのがそもそもおかしいですよね」
「君もゴチャゴチャとうるさいね。努力した結果主席になったんだから何もおかしなところなんてないじゃないか」
「なんか先輩に正論いわれるのめっちゃ嫌ですね」
「じきに慣れるよ」
慣れたところで得るものは何もないだろう。
「それにしても先輩も金髪ツインテールで主席とかキャラ濃すぎないですか」
「染めているだけだから金髪ツインテール主席じゃなくても黒髪ロング清楚主席にもなれる。能登君の好みになってあげるけど?」
「たとえ先輩が僕の好みの髪型になっても性格がアレすぎるので遠慮しときます」
「性格がアレって先輩に対して失礼すぎないか?」
「先輩聞きましたよ。今日の授業中に椅子の上で逆立ちしたって。授業初日からなにやっているんですか」
「逆に聞くけど授業中に逆立ちしたくならないのか?」
「なりませんよ。先輩も性格がまともだったら彼氏ができまくっていたのに惜しいですね」
この僕の発言はスルーされてしまった。
どうやら先輩は自分に都合が悪いことを言われると無視するようだ。今年で18歳とは思えない。もしも普通高校に行っていたならば、先輩はもう就職か進学か決めている時期なのに、この人は逆立ちをしている。
もっとも、先輩も高専じゃなかったら普通の生徒になっていただろうが。高専には不思議な魔力があるのでだいたいダメ人間になる。
そうして話を遮られてしまった僕は、そこらにあった椅子に腰かけてスマホを使うことにした。
ここで、ありがちなライトノベルとかだったら本を読みがちなのだが、僕は高専生なのでスマホを使う。
つい先日まで読んでいたアンデルセンは飽きた。
最後まで読んでいない。
スマホで最近始めたばっかりのソーシャルゲームを起動した。最近始めたので合間の時間を見つけてはコツコツと進めている。少し日が経ったら飽きることは目に見えているので課金はしない。そもそもソーシャルゲームのメリットというのは始めたいときに始められて辞めたいときに辞められることではないのだろうか。それとも僕が単に飽きるのが早いだけかもしれないが。
ソーシャルゲーム活動に勤しんでいると僕と同じ学年で、幽霊部員では無い最後の1人の部員が来た。彼も主席だ。もう主席ばっかりだ。主席飽和時代の突入とでも言えるのではないのだろうか。もう1クラスに2人くらい主席が存在する時代が来るかもしれない。
彼は部室に入ると僕や先輩に挨拶をして、僕の向かい側の席に座った。
部室には長机がスクエア状に並べられていて、椅子に座った人がそのスクエアの中心を向くシステムになっている。生徒会とかの部活にありそうな机の配置である。部員が3人しか来ていないことを除けば。
彼に部活を始めるように促されて、なんちゃって部長の僕が部活を始める掛け声をかける。
「これより修繕部の活動を始めます。今日は一般理数科の先生からグラフを書く用の黒板の修繕を依頼されたのでそれを活動内容とします」
僕が所属している修繕部というのは、その名の通りに壊れたものとかを修繕するという部活である。
なぜこの部活が出来たのかと言うと、昔は修繕を学生会に頼んでいたのだが、もういっそのこと部活にしてしまえばいいんじゃね?と考えた当時のアホ馬鹿うんこ生徒会長が修繕部を立ちあげたのだ。
その当時は学生会に入っている人が兼部をしていて、それにプラスアルファとして部員が数名いた。そこから次第に学生会生が入らないようになり、いまの部活になったのである。
ちなみに、僕がこの部活に入った理由としては、就職の面接のときに凄く有利になるからである。
なかなか聞かない部活名によって面接官の興味を引き立てる上に、活動内容も胸を張って言える内容なので就職だけでなく、進学の人でも面接試験がある大学を受ける人は有利になる。
幽霊部員が多いのもそのためである。名前だけ借りよう的なニュアンスなのだろう。僕も別に気にしていないので、適当に借りてってくださいという感じだ。僕のものじゃないけど。
僕はあらかじめ数学科の先生の教員室から運んでおいたグラフ用の黒板を長机の上に乗っけた。
「修繕する場所は黒板の周りを強化する金属製のパーツがとれかかっているんで、良い感じの接着剤で良い感じに接着するだけで終了できる予定です」
「金属用の接着剤って部室にまだあったか?」先輩が言った。
「そうですね、調理部の鍋を直す時に使った強力な金属用の接着剤があったと思うんでそれ使って直せばいいと思います」
「じゃあ、能登よろしく」
「よろしく」
2人とも僕に任せるようだ。
「わかりました」
大変な仕事でもないので部室の大きな棚から接着剤を探し出して接着させる。作業はものの十数分で終わった。
「じゃあ僕はこれ先生に返してきますね。これで今日の部活は終わりです」
2人から返事とも呻きとも取れる返事を聞いて僕は先生の教員室に向かう。普通高校は職員室なのだろうが、高専は教員一人一人に部屋が与えられていて、しかも教員室のサイズは教員によって変わるのだ。
専門科目を担当している力のある教員なんかだと広い教員室を使える。
そもそも、高専のシステム自体、凄い人は優遇するけど雑魚は冷遇とまではいかないにしても、若干冷たい感じになるシステムである。
これは教員の生徒に対する態度にも表れていて、成績のいい生徒には授業中にガムを噛んでも軽く注意するぐらいなのだが、成績が悪い生徒には日ごろの鬱憤を晴らすようにボロクソに言う。
ボロクソは過剰だが意識的にはそれぐらいである。
先生に黒板を返して部室に戻ると、僕が教員室に出かける前と変わらない光景が広がっていた。
帰らないの?と彼に問いかける。
「新入生が部活の見学にくるかもしれないだろう?」
「流石に見学にはこないんじゃない。まず、修繕部なんて聞いて入部したいと思うか?僕達の時は当時の修繕部の顧問が積極的に勧誘して入部したの2人だぞ。今年は顧問も変わったし、対面式にも出てないから新入部員はこないと思うけど。というか、そもそも修繕部ってなんだよって話になるでしょ。普通の高校だったら事務の人がやる仕事だし。絶対に入部したいと思わないわ。なぜか僕は入部したけど」
「それはどうかな」と先輩が言った。
先輩は外を見ていたので黄昏っているのかと思ったら、話を聞いていたようだ。先輩は新入部員が来ることを信じているようだった。その瞳には力強さが感じられた。
その後、やっぱり新入生は来ず、僕達修繕部部員は暇な時間を過ごした。知ってた。