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高専の常識は世間の非常識  作者: シャバゲナイト老婆
メインエピソード
29/37

おやすみと高専生

「おやすみなさい」

 叡智の部屋を出ると廊下には下野がいた。

 どうやら下野も部室の名前が変わることを先輩から聞いたようで、

「部室の名前が変わるって聞いたかい?」

 と話題提起してきた。

 下野はこう言ってはいるが、僕がその話を聞いたであろうことはほぼ確信と言っていいほどに見当はついていて、この問いは部室が変わることについての話をこれからしたいがために発言をしたのだろう。このぶっきらぼう。

 そのぶっきらぼうは僕に話しかけておきながら、さっさと自室へと戻ってしまった。おそらく、下野の部屋に行って話をしようというアピールであろう。

 しかし、僕はもう眠たかったので放っておくことにした。自分の部屋のドアを開ける。

 ベッドに横になるとすぐに眠気がきた。もう外界から視覚でもって情報を入手するのを体が拒絶している。瞼が重いとは、このことを言うのだろう。なんだか下野の声が聞こえたような気もしたが寝たもの勝ちである。








……という夢を見たんだよ」

「妄想大爆発だね」

 修繕部の部室で安物のパイプ椅子に座り、ガタガタする横長のテーブルに体重を軽く乗せながら軽口をたたきあう僕と下野。

 6月の北海道の天気は梅雨知らずで、気温もそんなに高くなく、窓から心地よい風が入ってくる。窓から見える申し訳程度に植えられた木が一人前に音をたてて揺れている。

「そもそも普通高でもかわいいヒロインが部活にいることなんて滅多にないのに、女子の数が少ない高専でダブルヒロインなんてあるわけがないよ。そんな都合の良い話を想像するのもおこがましいよ」

 同じようにパイプ椅子に座っている下野がヤレヤレポーズをしながら言う。

「妄想ぐらい自由にする権利があってもいいだろう。もしもヒロインが不細工だと話がもりあがらないだろう?」

「ヒロインの話は置いといても、風景とかの描写が弱すぎるよ」

「うるせえ」

 そうして僕らは今日も元気に男の臭で満たされた高専という場所で妄想を掻き立てる。







 と夢オチで終われたらいっそのこと潔くてよかったのだろうが、そうはいかないようで、僕は下野に体を揺すられて起こされた。揺すられたというよりは半ば暴力である。18禁がかかってもおかしくないレベルの暴力だ。

「んだよ」

 僕は不機嫌な雰囲気を出しながら答えた。それもそのはず、寝てすぐに起こされたからだ。寝たもの勝ちと言ったが、寝てすぐに下野が来て、眠りから覚めてしまったので僕の負けである。

「僕が部屋に帰ったことに対してツッコミがあってもいいんじゃないの?」

 なんでツッコミを欲してるんだよ。知らねえよ。自問自答しとけや。という思いもあったのだが、しかしこのままでは僕の顔面が暴力によって崩壊してしまうので仕方がなしにツッコミをいれる。

「コラコラ」

「ツッコミが雑すぎるよ」

 つっこんだらつっこんだで注文の多いやつめ。

「それだけ眠たいんだよ。わかってくれ」

「わかったよ。おやすみ」

「はいはい、おやすみ」

 これでやっと寝られる。

「なんだい。そのなげやりな挨拶は。挨拶というのはしっかりしなくちゃいけないんだよ」

 うぜえええええええええ。

 なんだろうこの下野のウザさは。日中の下野は若干クールなキャラなのに、日が落ちるとウザ絡みキャラになるのかよ。両親とか、結婚して最初の夜とか大変そうだな。

 すぐ下ネタに走ってしまう僕はやっぱりエッチ変態なのかもしれない。

「下野ってお酒飲んだ?」

「酔ってないよ」

 ということは飲むには飲んだってことだ。問うに落ちず語るに落ちるとはまさにこのこと。これは真面目に接さずに適当にあしらうのがベストアンサーであろう。

「そうか。おやすみ」

「おやすみ」

 そうして僕はついに睡眠を手に入れることができた。ゲッティング睡眠である。

 ん?なにを言ってるんだ僕は。

 ちょっと眠たすぎて頭が回っていないようだ。

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