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高専の常識は世間の非常識  作者: シャバゲナイト老婆
メインエピソード
27/37

友達の家と高専生

 教えられたとおりに進んでいくと、叡智の家と思わしき場所に着いた。最初の感想としては、なによりもデカい。庭とか噴水がついている。チョロチョロと音が聞こえてくる。おしっこだろうか。おしっこではない。

 門の前にはバイクに2人乗りしている叡智と先輩がいた。叡智に促されて敷地の中に入る。先輩も学校に来る前に一度訪れていたようなので、見た感じ先輩はあまり緊張せずに、それでもやっぱりどこか慣れなくて緊張している風な感じだった。僕はもちろんガチガチに緊張していた。下野は全然緊張していなかった。凄い。人間技じゃない。

 門の中に入ると黒と白を基調とした服装の、いかにも使用人的な人がいた。

「ほんとうに使用人っているんだ……」

「声が漏れているぞ」

 僕はつい声を漏らしてしまったようで先輩に指摘されてしまった。使用人的な人はフフフと音をたてているように笑っている。絵に描いたように使用人である。だいたい笑うからね。

 きっと普通の人は使用人がいたら驚くはずだ。先輩も叡智も家に一般庶民を呼んだことがないから僕の反応が珍しいものだと感じたのだろう。

 その使用人――メイドに促されて僕達は叡智と先輩のお父様に挨拶をしにいった。

 いかにもというような大きな扉が開かれて、まず目についたのは値が張りそうなテーブルとイスとベッドだった。ここがお父様の部屋だということは、その雰囲気に加えて、なにより正面のイスに若そうな男が座っていたことから明らかだった。たぶん彼がお父様なのだろう。見た目の年齢は30を少し超えたであろうぐらいであったが、僕のイメージするお金持ちのムッシュというのは、見た目よりも年をとっているというのが通例である。通例といっても漫画やアニメから手に入れた知識なのだが。

 そのムッシュは扉の開いた音を確認すると、机の上にあったデスクトップパソコンから顔をあげてこちらを向いた。あくまでもこちらに歩いてこないところが大物っぷりを感じさせる。言い方を変えてしまえば愛想が悪い。いい年をしたムッシュに愛想が無いと言っても「なんだそれは」という感じだろうが。

「お父様、先日お話していた修繕部の2人を連れてきました」

 お父様は顔をあげたまま動かない。僕は挨拶をする。

「はじめまして。2年化学科の能登です」

 本当ならもっとこじゃれた挨拶をするべきなのだろうが、センスがないので仕方がない。せめて叡智や先輩との関係を述べるべきだったのだろうが、僕はやっぱり瞬間的なセンスがないのだ。あらかじめ考えておくべきだったな。

 そう考えている間にも下野はペラペラと小粋な自己紹介をしている。下野はなにをやっても器用にこなすものだ。

 下野の自己紹介が終わるとお父様が立ち上がった。

「叡智昭人だ。株の売買を仕事にしている。収入は5000億だ」

 言葉がでない。これには下野も言葉がでないようだ。初対面で収入自慢をする大人を初めてみた。

「冗談だよ」

 お父様、もとい昭人さんはニッコリと笑って言った。冗談のレベルが高すぎて嘘か本当かわからない。

「ゆっくりしていってくれ」

 そう言うと昭人さんはデスクトップパソコンに目線をずらした。

「じゃあ部屋に戻りましょうか」

 それまで沈黙を貫いてきた叡智がそう言って部屋を出る。僕もそれについていくように出る。案内していたメイドさんはいつのまにか消えていた。

 昭人さんの部屋から出て直線の廊下を進んで空中通路を越えてしばらくすると、離れと思わしき場所に出た。部屋が群生していて、どうやらここが客室のようだ。昭人さんの部屋から遠く離れているあたりが、お金持ち特有の感覚なのだろうと感じる。

 どうやら1人1部屋らしい。これは予想がついたのだが、叡智の部屋もこの離れの中にあるということを聞いて、いったい、このたくさんの部屋はなんのために作られたのだろうか、と疑問に思ってしまう。客室じゃないんだ。血族が住むんだ。と思ってしまう。

 お金持ちの考えることはよくわからない。

 指定された部屋に入って荷物を置くと、すぐにバンドの練習をするスペースに連れていかれた。そのまま、そこでミッチリと練習させられた。このタイミングで謎のスパルタ展開に突入してしまったので、僕はあきらめてスパルタ練習についていった。1時間耐久練習とか必要があるのだろうか。本番は4曲で20分ほどしかないのだから、20分演奏できるようになればいいのではないのだろうか。

 その練習の終わりを告げてくれたのは、最初に出会った使用人の人だった。今の僕にとって、その人は命の恩人であった。

 その人いわく、晩御飯の用意ができたようだ。

 食事はカラカラと食事を乗っける専用のカート的なやつで運ばれてきた。アニメとかでは主人が長いテーブルの奥に座ってそこで食事しがちだが、実際は各部屋で食べる仕組みだった。きっと、まだ父親が先輩と顔を合わせるのが気まずいのだろう。それに、娘が男を自分の家に連れてきたのだから、親の気持ちとしては、あまり穏やかではないのだろう。

 叡智の提案で、それぞれの部屋で食事をとらずに、叡智の部屋に集まって食事をとろうということになった。

 叡智の部屋は同じ客室でも僕達とは少し離れた場所にある。もちろん叡智の部屋に入るのは初めてである。

 部屋に入ってみると、そこにあったのは味気無い部屋だった。これが女子高校生の部屋なのだろうか。この部屋の中で見つけられる女子高生らしい物といえば、50センチくらいの水色のイルカのぬいぐるみがあるぐらいだろうか。念のために言っておくが、ここで言っている女子高生というのは、女子高専生の略称である。決して、今を輝く華の高等学校に通っている女性のことではない。あしからず。

 ベッドにテーブルにイスにテレビに勉強机。そして左の壁には一面に本棚がある。そこには古い本や、最近買ったような本が隙間なくしきつめられていて、本の上にできた隙間にも本が置いてある。

 椅子に腰をかける。椅子は思ったよりもフカフカだったので僕が予想していた沈みよりも深く沈んだ。あまりにも予想外だったので情けない声を上げてしまった。

「おふう」

 誰かがツッコミを入れると思ったが、みんな黙ってしまった。聞かなかったことにしないでくれ。軽口たたいて笑い飛ばしてくれ。こっちの方が辛い。気遣いが辛く感じるという状態である。

 仕方ないので僕も聞かなかったことにして食事を食べ始めることにした。メイドさんが料理を運んできてくれる。カラカラの食事を運ぶやつを部屋の中に入れるのはダメらしいので廊下から4人分運んでいる。

 料理はカツだった。ランプの魔人に出てくるランプみたいなヤツも運ばれてきたのでカレーかと思ったらソースだった。色もカレーと似ているので、さらに分かりづらかった。あやうくご飯にかけるところだった。

 カツを食べてみると、家で食べているカナダ産の豚肉よりも柔らかくて、叡智が、なんとかかんとか豚ですよと説明してくれた。聞いたことがない名前だったので聞き取れなかった。そもそも黒毛和牛しか肉の種類をしらない。豚に関しては一切知らない。

 カツを食べ終わって、食後にデザートとして出てきたバニラアイスも美味しく頂いた。バニラアイスの横にチョコの温かいものがあったが、これはフォンダンショコラというらしい。中からチョコレートの液体が出てきてビックリ。

 食べた後はユックリとマッタリしたかったのだが、やっぱり練習に連れていかれた。本番は明日なのに緊張感が無いと言われてしまった。確かにそう言われてしまうと緊張感が足りないかもしれないが、そもそも明日の午前中も練習できるし、部室も数週間前に防音設備が取り付けられたから、練習しようと思えば部室でも練習できるのである。なによりも前夜祭の日に練習すると言って部室に集まっといて練習しなかったのは誰のせいだ。僕のせいでもあるか。反省。

 でもそんなこと言えるわけがなく、僕は大多数の勢いに乗せられて練習に連れていかれるのだった。多数は正義だ。数の暴力。

 その後もミッチリと練習させられて、僕が開放されたのは夜の8時だった。窓から見える空の色は真っ黒で、こんな化学物質を前に見た気がする。ブラッドフォードだっただろうか。こんな時にまで化学のことを考えてしまうとは。

 もう疲れすぎて空を見てもなにかを思う体力すらない。ふと、空を見あげて、星がきれいだな。と言ってみたいものだ。僕は今度空をみたときは何を思うのだろうか。楽しいといいな。

 その時、叡智が僕に話しかけた。


「混浴風呂はいりたくないですか?」


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