ブレイクタイムの高専生
時間は進んで、我が家。
「はあ……」
ため息をつかずにはいられない。
あの後はテントで眠って翌日に帰宅したので気まずさを感じることは少なかったが、こうもゆっくりと時間をおいて考えてみると学校に行くのが憂鬱になってくる。
なんでこうもシリアスをぶちこんでくるのか。
……じゃなくて。
僕はどうしたらいいのか分からない。これから2人とどうやって接していけばいいのか分からない。一日の間に告白と失恋を経験してしまった。
告白して失恋したのではなく、告白されて失恋した人というのは全国でも僕ぐらいではないだろうか。
大好きですと言われてしまっては、変に意識してしまうし、そもそも隙あらば彼女をつくろうと思っている僕としては、あの時は気が動転してしまって深く考えてしまったが、冷静に考えてみて付き合う以外の選択肢はなかった。
十数年と生きてきて、彼女どころかそれっぽい人さえも、噂さえもなかった僕としては、ぜひとも一度は彼女をつくってみたいところだった。
しかしここまで話がこじれてしまったら別問題である。というか付き合うって僕が思っているよりもめちゃくちゃ難しいな。
僕が誰かのことを好きで、その人が僕のことを好きっていう状況が、とってもレアなことに気がついた。
たった一言。好きっていう言葉を伝えあうだけで全てが成立するものだと思っていた。どんなに色んなバックグラウンドを抱えていても、どんなに重い病気があったとしても、精神疾患があったとしても、好きならそれでいいのだと思っていた。
しかし現実はそんなに簡単じゃなかった。
そのサンプルが目の前にいたのだ。あんまりサンプルという言い方は良くないのかもしれないが、そんな言葉がすぐに出てしまうほどに、自分にとっては現実離れしたことで、考えたこともなかったことなのだろう。
うーん。
考えても頭の中がゴチャゴチャと掻き回されるだけで前進している気がしない。
よし。
僕はスマートフォンを持ち出して、少し前に教えてもらった電話番号に電話する。発信ボタンを押す直前に、少しためらってしまったが、僕は勇気をふりしぼってタップする。
プッ……プッ……プッ……
プルプルプルプルプルルルルルルルルル
ガチャ
出た。
「もしもし」
「おかけになって電話は現在電波の届かないところにあります」
出ないんか―い!!!!
僕はスマートフォンを布団の上におもいっきり投げつけた。あの緊張と葛藤を返してくれ。というかここは出るような状況じゃないのか。
「おーい。もーしもーーし」
と、僕が怒りを末代にまで伝えていると、なんだか僕を呼ぶ声が聞こえた。
「能登ちゃーーん」
僕は恐る恐る声の出所を探していると、というか声の出所は大方予想はついていたが。
やはり声の出所はスマートフォンからだった。
「もしもし」
僕はやや怒りを表しながら電話に出る。
「ああ、いたいた。まったく、人に電話をかけておいて無視するってひどくない?」
声の主はプリプリと怒りながら話す。
「それならまぎらわしいことしないでくださいよ。なんで留守番電話サービスの人のモノマネをするんですか。電話でやっちゃいけないモノマネランキング堂々の一位ですよ、それ」
「たしかにねえ」
あまりにも納得したような返答すぎて、なんだかスカされたような気分になったので電話を切った。結局何のために電話したのかわからなかった。
しかし、やっぱりコールバックがかかってきたので、僕はそれに出ずに携帯をマナーモードにした。
「少し寝るか」
ピンポーンピンポーンピンポンピンポーン
僕はしつこいチャイムの音で目が覚めた。なんだかとっても嫌な予感がしたので二度寝しようと思ったが、
ピンポンピンポピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピンピン
「うるさいうるさいうるさいうるさーーーーーーーい!!!!!!!!!!!!!」
あまりにもピンポンがうるさかったので叫んでしまった。もうあまりにも何回も何回も押すものだから後半にはピンポンの前半部分しか聞こえなかった。
ああ、うざいうざい。
僕は自室を出て長い廊下を歩く、歩く、歩く。
その間もピンポンと鳴り響いているので僕は小走りで玄関へと向かう。
「やあやあ、久しぶり」
玄関を開けると周防さんがニッコリとした表情で立っていた。
「どうしたんですか」
「電話したのは君だよ」
「でも家に来てとは言ってませんよ。というかどうやって僕の家が分かったんですか」
「気合」
「気合……」
もうなんもいえねえわ。
僕は仕方がなかったので、周防さんを僕の家へと招き入れることにした。
長い長い廊下を歩かせるのはあまり嫌だった。この家はデザイナーが無駄に頭を捻ってつくったため、1LDKなのに廊下がうんと長い。もちろん、結構入り組んだところに家があるため、こういう構造にせざるをえなかったといえば、そうなるのかもしないが。
それなら玄関を手前に作ればいいじゃないか、というのは誰もが考えるところだ。
「それで」
周防さんは僕の部屋に到着してすぐに口を開いた。
「なぜ電話したんだい」
僕はここまで来たら引くに引けないので、僕の思っていること全てを話した。
途中で深く考え込んでしまうこともあったが、それでも僕は自分の頭の中で推敲し、ゆっくりと発言していった。
その間、周防さんは右手にぶさらげていた袋の中から大きなカステラを取り出して、もしゃもしゃと食べながら聞いていた。本当に聞いてるの?とも思ったがとりあえず信じて全て話した。
というか、そのカステラ、手土産じゃないんだ。自分で食べる用なんだ。
まあ、飲み物を出さない僕も僕でどうかとは思うけど。
キッチン、遠いんだよね。
僕が話し終わってから、周防さんは「う~ん。うんうん。う~んう~う~ん」と唸ってから、
「分かんないけど、なんかそれでいんじゃない?」
というよく分からない返事をした。
それって……どれ?
どうしたらいいの?って聞いてるのに、それでいいよって返答されても困っちゃう。なんか力になりそうな雰囲気を出しながら、結局なんの力にもならなかった。
見掛け倒しもいいところだ。
というか、そんな適当な発言しか出来ないのならわざわざ家にまで来なければよかったんじゃないのか?
「うーん、そうだね、こういう逸話を知ってる?」
「逸話ですか?」
あまり逸話に詳しい方ではないのでたぶん知らない。というか逸話ってなにかイマイチ分かっていない。
周防さんは軽いドヤ顔をしながら言った。
「推古天皇は美輪明宏の前世なんですよ」
えっと……。
「それ、たぶん嘘ですよ」
「エッ!」
周防さんにとってはあまりにも衝撃的だったようで、周防さんは勢いよく飛んだ。
そのまま僕の家の屋根を突き破ってどこかへ行ってしまった。
「なんだったんだ……」
1人だけ住む世界が違ったような気がしたし、結局何をしに来たのか分からなかった。ただ、食べかけのカステラと屋根に大きな穴が開いた僕の部屋だけが残った。




