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高専の常識は世間の非常識  作者: シャバゲナイト老婆
メインエピソード
21/37

好きなものと高専生

「ううん……」

 僕は空腹で目が覚めた。

 なにか周りに存在感があると思ったら、修繕部プラス周防さんの4人が僕と同じようにしてビニールシートの上で寝ていた。僕は体を起こそうとしたが、何者かによってすぐに倒されてしまった。

「能登先輩」

 その声は叡智だった。

「どうしたの。あと、起き上がりたいんでけど」

「いやです。私はこれから能登先輩に話があるんです」

 叡智はグイッっと顔を近づけてくる。その表情からは叡智の緊張が伝わってきて、あまりにも至近距離なので叡智の吐息がこちらにまで伝わってくる。

「じゃあ、とりあえずどっかに行って話そう」

 僕は叡智にそういって体を起き上がらせてもらう。起き上がると僕の後ろには周防さんがニッコリと笑っていた。寝ていたはずなのに気が付いたら後ろにいた。

 忍者かよ。

「いやいや、そうではなくてですね」

 何も言われてないのに否定してしまう弱い僕。

 しかし、なおもニッコリを崩さない周防さん。目で「いってらっしゃい」と意味ありげに促されたので、僕は覚悟して叡智と一緒に砂浜を歩くことにした。

 2人だけで砂浜を歩くが、どちらも話をしようとしない状態が続く。海の方を向くと、波がまるで一人前の大人にでもなったかのように音をたてながら規則的に動き続けていた。その波があまりにも生意気に感じたので動くのを止めたくなる。もしも僕が波を止めることができたら、きっと僕は楽になって、同じように波を生意気に感じている人から賞賛されるだろう。でも、きっとサーファーからは文句をたくさん言われるのだろう。でも、コッソリと止めてしまえば僕は誰に怒られることもなく、僕はたった1人で満足できるのだろう。

 砂浜を歩いて長い時間が経ったが、しかし叡智は何も話さない。僕がどうしようかと考えていると、ついに叡智は足を止めてこっちを向いた。

「能登先輩、聞いてください」

 叡智の表情にはやっぱり思いつめたような表情で、これから話すことが冗談ではないことが伝わる。僕もつい身構える。

「私って、これでよかったんでしょうかね。みなさんを振り回してないでしょうかね。いや、振り回しているのはわかっているんですけど、振り回しただけの責任はとれているんでしょうかね」

 僕は言葉を出せない。言葉を発するための全ての機能がストップしていた。

 叡智は続ける。

「私、中学校の3年生の頃に学級委員長だったんですよ。それで最後の体育大会のときに優勝したくて、放課後とかに練習をすることにしたんですよ。ほとんど強制的に。朝早くから集まって、放課後も夜遅くまで練習して。でも、クラスメイトはそれほど優勝したいと思っていなかったようで、クラスメイトと温度差ができてしまって。それである日、私が朝練に行ってもグラウンドに誰もいなくて。それで、その日の昼休みに全員を強制的に集まらせて、なんで朝練に来なかったのか聞いたんですよ。でも、誰も答えなかったんですよね。仕方なく、放課後の練習には絶対に参加するように言ったんですよ。でも、放課後にずっとずっとずっと待っていても、誰も来なかったんですよね。私は学校の用務員さんが私に話しかけるまで、ずっとグラウンドの前で待っていました。日が落ちても。街灯が付き始めても。きっと誰かは来てくれるだろうと思って。朝はたまたま来なかっただけで、本当はみんな、中学生生活最後の体育大会を優勝したいと思っていると信じて。最後に良い思い出を作りたいと思っていると信じて。でも、誰も来なかったんです。クラスメイトどころか、担任すらも来なかったんですよ。私はそのときになってやっと気づいたんですよ。クラスメイト全員でボイコットしている。私はクラスメイトや担任から嫌がられている。迷惑だと思われている。ウザがられている。「いなければいいのに」って思われている。って。それがショックで、その日を境に学校に行くのを辞めたんです」

 叡智は続ける。

「それで、その日からずっと学校に行かないで家にいたんですけど、ある時姉が誘ってくれたんですよね。高専に来ないか。仮にどんなことがあったとしても私が守ってやるって。私はその言葉を信じて高専に来たんですよ。

 でもやっぱり不安になるんですよ。私は周りを振り回していないかって。また中学校の頃と同じことを繰り返しているのではないかって」

 叡智の表情は晴れない。

「もういいです、帰りましょうか。ごめんなさい、楽しい合宿なのに、突然こんな話してしまって」

 叡智がテントへ戻ろうと僕に対して背を向けたとき、なぜだろうか、僕は無意識に叡智を呼びとめてしまった。

「待って」

 叡智は歩みを止めた。ただ、僕に背を向けて動かないでいる。僕はもう動いている波のことなんて気にしなくなった。波の音がしているのかすら分からなかった。

「僕は」

 続きの言葉がでない。

「僕は……」

 なぜだか僕の頭の中は空っぽになっていて、それなのに心の中は思いが満タンになっていて、とても不思議な気分だった。

「能登先輩」

 叡智がこちらを振り向いて、言った。



「大好きです」

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