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高専の常識は世間の非常識  作者: シャバゲナイト老婆
メインエピソード
20/37

思春期と高専生

「うおおおおええええええええええええええ」

「汚いですよ」

 僕は盛大にゲロを吐いた。

 滞在2日目、僕達は釣りをした。

「なんかめっちゃ蚊に刺されるんだけど」

「日ごろの行いが悪いからですよ」

 その次の日は山に行った。

 他にも、もう一度海に行ったり、砂浜で砂の城を造ったり、広い砂浜でだるまさんが転んだをしたり、缶蹴りや凧揚げをしたりと、人間が考えつくことのできるような遊びはこの一週間で全て体験してしまった。

 そしてなにより、その1週間で楽器の練習をした時間は1つも無かった。これはもう合宿ではなく、ただの旅行である。

 まあ予想はできたことだが。

 1週間の最終日に叡智は僕達に1つの提案をした。ずっと強制イベントばっかりだったので、ここにきて任意イベントが発生したことに対して僕は修正パッチが配られたのかと勘ぐってしまった。

「1ついいですか?」

 叡智はリビングで蕎麦を食べている僕達に向かって言った。ちなみに僕達が打った蕎麦なので多少の厚みはご愛敬である。

「いいよ」彼は答える。

 彼が率先して返事をするのは珍しい。今までの彼ならば会話から一歩離れて達観しているのに。きっとこの合宿で何か変わったのだろう。よきことだ。

「実はですね、海でキャンプし忘れていたと思い出しまして。という訳で一泊増やしてキャンプしませんか?」

 というのも、北海道では気温的な問題から真夏と呼べるような期間は非常に短く、また、海水温が低くない期間も非常に短いため、海ではテントを張って一泊キャンプをするのが常識である。さらにキャンプではバーベキューをすることもまた常識である。

「僕は別にいいよ」彼が答える。

「僕も問題ない」

「私も大丈夫だ」

 僕に続いて先輩も答える。

「きまりですね。じゃあ明日はキャンプすることにしましょう。納戸にテントとかあるんで出すのを手伝ってください」

 そういって叡智は歩いて納戸に向かった。

「いま?」

「今ですよ。急がばまわれですよ」

「誤用」

 誤用中の誤用。キングオブ誤用だった。

 僕も叡智について行って納戸へと向かう。初日に海へ行くときにも納戸に行ったのでだいたいの場所は覚えていた。

 それから一日経ち、次の日、僕達は砂浜にテントを建てた。一致団結である。

 叡智はいつのまにかキャンプ用の布団を出していた。睡眠はどんなときであっても重要だから妥協はできないのだそうだ。

 バーベキューセットも納戸から出した。周防さんがバーベキュー関連はやってくれるそうだ。周防さんに言わせれば「私はオールマイティーだからキャンプでも登山でも逃避行でも任せなさい」ということらしい。

 僕達は水着に着替えた。

 今日の叡智は最初の日のようなスクール水着ではないようだ。周防さんもちゃっかり水着に着替えていた。周防さんは水着を着たまま火起こしをするもんだからパチパチと火花が地肌に触れて熱そうである。というより「熱い!」と声に出ている。僕はたまらず話しかける。

「熱いんなら水着辞めればいいじゃないですか」

「裸になれと?積極的ですねぇ」

 なんで僕の周囲にいる人はこういう人ばっかりなのだろうか。ちょっとご都合主義が過ぎないだろうか。

「周防さん、1つ聞いていいですか?」

「なんです?」

「周防さんと叡智って何歳からの付き合いなんですか?」

「子供の頃からの付き合いですよ」

 この周防さんの発言によって、人は生まれ持った物よりも育った環境によって性格が決まるという僕の考えの正しさが証明された。周防さんも叡智も軽いノリでこういうことをやってしまうのだろう。ああ、やってしまうっていうのは人生を軽いノリですごしてしまうって方のね。発言の節々にエッチな発言があったから、僕が変な気分になって、おっぱじめてしまった。という意味ではない。

 それにしても、“おっぱじめる”という言葉から伝わるおっぱい感は異常だ。もうほぼおっぱいだ。全国字面おっぱいランキングがあったとしたら上位入賞は間違いないだろう。

 ……僕は何を考えているのか。

 テントは屋根が備え付けタイプのテントなので、用意したはいいものの日差しを防ぐという役割が被っているパラソルは納戸の中だ。

 僕はその屋根の下でゴロゴロしている。修繕部3人は海に遊びに行ってしまい、僕の周りには僕と周防さんしかいない。マッタリと過ごす時間もなかなかに良いものである。

 周防さんは僕がいることに対して気まずいと感じることもなく、マイペースに火をおこしている。なんだか逆にこっちが気まずいと感じそうなぐらいだ。でも周防さんのマッタリとして、なおかつ間延びしない独特のリズムはなぜか僕に気まずいとは感じさせなかった。

 3人は僕からギリギリ視界にはいる場所で遊んでいたのだが、徐々に視界の中央に移動してきていた。ビーチバレーをしていると、気付いたら知らない場所にいた。なんてことは、よくある話だ。

 こうやって遊んでいる3人をみていると自分がいかに場違いな場所にいるのかが身に染みてくる。僕がいなくてもこの部はなんの変化もなく、活動しつづけるだろう。

「僕ってなんなんでしょうね」

 つい、周防さんに話かけてしまう。これもまた僕が旅で浮かれているのだろう。

「そうですねー。年上として偉そうなこと言ってしまいますと、なんでもいいんじゃないですか?」

「ほう」

「そもそも人間は人生に意味を持たせ過ぎなんですよ。どんな人だってやろうと思っていることは色々と考えついて、自分はそれを全部できる気でいるんですよ。だから人生に悩んだりするんですよ。後悔するんですよ。私を見てくださいよ。小さいころから叡智さんの家に従うことしか考えていないから悩みや後悔なんて1つもないですよ」

 周防さんは少し言葉を選びながらも話す。

「そんなもんなんですかね」

「そうじゃない人生なんて酷すぎますよ」

 僕は周防さんの発言を聞いて少し黙ってしまう。炭からのパチパチという音や波の音だけが僕の耳を支配していく。

「どうすれば一発逆転できるんですかね」

 周防さんに聞く。

「一発逆転とは?一発逆転の形にもいろいろありますよ。有名なスポーツ選手になってお金を稼ぐのも一発逆転ですし、お金持ちの家に婿入りするのだって考え方によっては一発逆転ですしね」

「こう、就職も上手くいって定時ぐらいで家に帰れて、恋人つくって結婚して子供も欲しいですね。老後も結婚相手と2人でゆっくりすごしたいですね」

「贅沢ですねぇ。いや、人生は一度きりのことだから贅沢になるべきなんですかねぇ」

「高専にいると女子と話すことが苦手になってきてる感じがわかるんですよね。しかも女子も少ないんで高専内での出会いも少ないんです」

「環境は関係ないって言う人はいるけど、実際のところ環境は大事ですしね。私もたいして人生経験を積んでいる訳ではないですけど、思春期の15~18歳って言うのは大事な時期なんですよ。小学生の頃の1年よりも、きっと老後の1年よりも社会人になっての1年よりもずっとずっと。その1年は非常に大きくて、何でも変わってしまう、何でも変えられてしまう1年なんですよ。まぁ、つまり、」

「つまり?」

 周防さんは少し間をあけて答える。

「結婚っていう言葉に縛られないで好きに生きたらいいんじゃないですか」

「わかるような、わからないような」

「じきにわかるようになると思いますよ」

 周防さんが僕に紙を差し出す。

「これ私の連絡先です。なにかあったら気軽に連絡してください」

 みると中には電話番号が書いてあった。

「僕あんまり電話するの得意じゃないんですけど。どっちかというとメールの方がいいんですけど。メールアドレス教えてもらえませんか」

「だめです」

 周防さんは両手を交差させてバツをつくる。

「そうですか」

「これも女子に慣れるための特訓だと思えばいいですよ。女という存在に縛られるな。ってさっき言っておいて、辻褄あってないような気がするけどきにしないでください」

 僕は体を寝かせて横になった。考えることを辞めたのだ。それはきっと、周防さんによって僕の心の中に安堵が訪れたからであろう。

僕は気付いたら眠っていた。

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