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高専の常識は世間の非常識  作者: シャバゲナイト老婆
メインエピソード
11/37

高専生とお昼寝

 試合の決着はあっさりとついた。ショートゴロの間にランナーが返って1対0で5年機械科の優勝だ。最後はチーム力の差がでたといったところだろうか。

 しかし、1年生で決勝まで行くのも普通ならあり得ないことだ。成長期の15歳と成長がある程度終わった20歳が同じ戦ったならば、普通は20歳が勝つだろう。それでも、15歳で決勝まで来られたのだから結構なことだ。

「いやー負けちゃいましたよ」

 これで何度目かはわからないが叡智がこちらに向かって来た。

「十分よくやったよ」

 僕は心からの気持ちを叡智に話した。ここで嘘をつく必要もない。

「じゃあ打ち上げの代金を奢ってくださいね」

「なぜそうなる」

「いや、それくらいが妥当だろうな」と先輩。

「それでも少ないぐらいだよ」と彼。

「じゃあ彼が奢ってあげればいいでしょ」

「能登は義理と人情ってものがないね」

「これって義理と人情なのか?」

「そんなことよりもまず部室に戻りませんか?ゆっくりしたいです」

 叡智は朝から一日中試合をしていたのだからそうとう疲れていたのだろう。本人に言わせないで気付いてあげるべきだったな。ダンディジェントルメンの道から一歩遠ざかってしまうところだった。目指していない。

 部室に戻る。

 叡智は部室に着いたら大きいクローゼットの、僕が開けたことのない引き出しを開けた。中からは布団が出てきた。

「そんな本格的に寝るの?」

「私布団じゃないと眠れないんですよ。汗も少ししかかいてないんで、ウエットペーパーで拭いたら問題ないですよ」

「そうですか」

 女子がウエットペーパーで済ませてしまっていいのだろうか。もっと汗臭さを気にするべきではないのだろうか。

「部室で寝ると能登に襲われちゃうよ」と彼。

「流石にそれはしないから安心しろ」

「それはってどこまでならするんですか能登先輩。セックスの一歩手前までですか。」

「女性がセックスとか言うのやめなさい。頭おかしい人だと思われる」

「そうだな。頭おかしい人だと思われると大変だぞ?」

「先輩が言うと説得力が段違いですね」

 僕の発言に対して不満そうな顔をする先輩を無視してテレビをつける。

 テレビではお昼の時間帯ということもあって地元のローカル番組がやっている。地元テレビ局の名物おしゃべりアナウンサーが札幌のデパ地下を歩いている。札幌には小学校と中学校のときに、修学旅行で行ったくらいなのでテレビに映っている場所がどこにある地下なのか検討もつかない。

「あ、そうだ」

 てっきり寝ていると思っていた叡智が布団から起きてこちらを向いた。

「高専祭の後夜祭でバンドやりますよ」

「修繕部で?」

「修繕部で」

「でも部の出店とかもあるし」

「決定事項なんで」

 叡智が決定事項と言ってしまえば、それはもうこの修繕部の中では絶対的に決定事項なのである。

 きっと一番権力持ってる。

「じゃあ部の出店は見送ればいいだろう」と先輩が言った。

 この2人はなんか大きなプロジェクトをする際には非常に息が合っている気がする。思考回路が同じなのだろうか。

「僕も出店はなくなってもいいよ」と彼。

「彼って楽器とかできるの?」

「あたりまえだろう。なんのために僕が誰にも名前を名乗っていないと思っているんだい」

「名前名乗っていないの関係あるの?」

「僕は高専祭のために名前を名乗っていないと言っても過言では無いね。名無しのドラマーとかカッコいいじゃないか」

「先生とかは名前で呼んでいるの?」

「土下座して頼み込んだよ。名前を呼ぶのは辞めてください。ってね」

「そこまでかよ。そこまでするなら何も言えないわ」

「いや、何か言ってくれないと寂しいよ。僕は寂しいと死んでしまう人間なんだよ」

「そんなこと言われても。というか彼って基本的にどこでも単独行動じゃない?自分から進んで孤独への道を走っていない?」

「細かいことはいいんだよ。僕は細かいことを気にされると死んでしまうんだよ」

「はいはい」

「冷たいなぁ」

「それよりも出店って無くてもいいんですか?」

「幽霊部員の軍団には私から言っておく」

「先輩を信じていいんですか?」

「私に任せろ!」

「テンションが高いな」

「私に任せろ↓」

「別に言い直さなくてもいいですよ。というより、その矢印はなんですか。テンションを下げてるんですか」

「じゃあ詳しくは打ち上げの時に話しましょう。おやすみなさい」

 叡智が布団に入る。布団に入ったら、ものの数秒で寝てしまったようでスヤスヤグウグウと寝息をたてている。

 僕はさっきつけたテレビに視線を戻して、アナウンサーが喋っているのをそれとなく見ることにした。

 しだいに僕も眠たくなってきたのでソファに横になった。時刻は午後2時半。絶好のお昼寝タイムである。授業中という、先生の声が響いてうるさく、椅子も固い木の素材というバットコンディションでもこの時間は寝てしまうので、それが今回はソファということならもちろん寝ない訳がなかった。

 おやすみ。


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