SIN:2015 - この世に存在してはいけない物語
“ブックハンター”として生活を送っているシンは、業界内で都市伝説的扱いをされている本「コロンシリーズ」を追っていた。
同業者に声をかけ、共同戦線をもちかけるが……。
「全員集まったか?」
「おそらく」
郊外にあるボロ小屋に、俺を含め五人が集まっていた。
丸テーブルを囲むように全員が席に着く。
円卓の騎士にしては数がかなり足りないし、集まった面々の姿は騎士というよりコスプレ集団だった。
一同が沈黙する中、白熱灯がわずかに揺れている。
「……点呼でもするか」
「一」
俺の提案に真っ先に手を挙げたのは、ゴスロリ服を着た女だった。一切表情を変えないまま手を下ろす。
「にー」
次に間抜けな声とともに手を挙げたのは、どこかで見たことがあるカエルの着ぐるみだった。正体を隠したいのはわかるが、それでは逆に目立つ気がする。
「三」
三番目は老紳士。黒のスーツに山高帽という、絵に描いたようなジェントルマンだった。
「四番! バッター私!」
アホみたいに声を張り上げたのは、まだ未成年であろう背の低い女。制服を着ているが、まさか学生なのか……。
「五。……全部で五人か。見ればわかるが」
そして、この中では一番まともであろう、パーカーの男が俺だ。
正直言ってこのメンツに不安しか感じない。けどまあ、全員が“ブックハンター”として飯を食っているプロだ。足を引っ張り合うようなことはあるまい。
「事前に話した通り、今回の獲物はかなりヤバい。というわけで、普段ならありえないが共同戦線だ」
ゴスロリの女が挙手した。
「報酬の分配はどうする?」
「報酬は等分だ。今回はそれぞれが作戦を展開して、様々な角度から仕掛ける必要がある。全員にリスクがあるからこそ実行可能な作戦というわけ。誰かが探し出せた時点で作戦はクリア、捕まった場合は自己責任で頼む」
「失礼ですが、作戦に参加せずに報酬だけもらおうとする輩が出てくるのでは?」
言いながら、ジェントルマンが左右の着ぐるみと学生に視線を送る。
「それは心配無用。一応監視役も用意してあるから、サボってたらわかる」
「えー! あんたが用意した監視役なら、あんたがサボっても見て見ぬふりするかもしれないじゃん!」
学生の指摘はもっともだった。
「わかってる。だから、俺の報酬はいらない。というより、今回は俺が報酬を出す側になる」
「というと?」
ゴスロリの女が口を挟んできた。
「俺がその本を買い取る。処理のルートを考えなくて済むし、好都合だろ?」
一同は顔を見合わせた。
「金ではなく、その本が目当てというわけですか」
「そういうことだ、ジェントルマン。もちろん俺も作戦を展開する。目的はこの東京のどこかにあるはずのターゲットを探し出し、回収すること。やり方はそれぞれに任せる。何か異存のある者は?」
もう一度、ゴスロリの女が挙手した。
「一つだけ質問させてくれ」
「なんだ?」
「その本は一体なんなんだ?」
「噂では“コロンシリーズ”と呼ばれている。最近東京に持ち込まれたという情報が入った」
「どんな内容?」
「“この世に存在してはいけない物語”だそうだ」
・・
ある平日の昼間。俺は清掃員の姿で、堂々と国立公文書館に足を踏み入れた。
この建物に清掃員が出入りしているかどうかすら調べていなかったが、職員に笑顔で会釈をすると、疑問を抱く様子もなく会釈を返してくる。
この国の人間はやはり危機感が足りていない。
人目を盗んでエレベーターに乗ると、あっさりと地下の書庫までたどり着くことができた。正攻法は案外有効だったりするものだ。
あの集会から一週間が経つが、本を回収したという報告は未だ来ていない。あいつらはどういうアプローチでコロンシリーズを探すつもりなんだろう……。
書庫にも人はいなかった。一瞬自分の幸運に感謝しかけたが、すぐに冷静になる。
……都合が良すぎないだろうか。
罠か……それとも情報が間違ってる? コロンシリーズはここにはないのか……?
そんな疑念をなんとか振り払って、書架を眺めていく。
俺が得た情報によれば“見ればわかる”らしいが……それらしき本はない。目につくのは、分類され保管されている公文書だけだ。
「くそっ、空振りか……」
「そうでもないかもしれません」
「っ……!」
俺は瞬時に背中のホルスターからナイフを抜いた。
誰かが近づく気配はまったくなかった。しかしいつの間にか、すぐそばに黒縁の眼鏡をかけた女が立っていた。
女は穏やかに微笑んでいたが、俺にはわかる。こいつはヤバい。
「お、お前は……」
「驚かせてしまってすいません。ここの司書をしているものです」
ロングスカートにシャツにベスト、なるほど見るからに司書だ。
だが、この威圧感はなんだ。
「俺はただの清掃員です、と言っても信じてもらえないか?」
「そうですね。一応あなたの目的も察していますので。たまに同じような目的の方が来るんですよ」
「そしてその度に、お前が対応してるってわけか」
眼鏡の女は穏やかに頷いた。そして、脇に抱えていた本を開く。
「“うつし世はゆめ、よるの夢こそまこと”」
その一文に始まり、司書の女はなんだかよくわからない物語を朗読し始めた。
俺はすぐにこの女を突き飛ばすなりして逃げるべきだったのだが、どういうわけか、眠くなってきた。
ありえないことだった。最大限に気を張っている、本の回収作業中に眠くなるなんてことは。
しかし間もなくして、俺は完全に意識を失った。
いや、奪われたと表現した方が自然な気がする。
最後に見たのは、司書の女が俺を見下ろしている姿だった。
コロンシリーズ内のオムニバス作品です。
[派生した子作品]
MYMIMI:2015 - この世に存在してはいけない物語 作者:神橋つむぎ
http://ncode.syosetu.com/n4934dj/
Gentleman:2015 作者:果糖
http://ncode.syosetu.com/n4933dj/
LIU:2015-ボクっ娘ロリ少女のお仕事 作者:ウサギ様
http://ncode.syosetu.com/n4925dj/
ARATA:2015 作者:志室幸太郎
http://ncode.syosetu.com/n5479dj/
シェアワールド小説企画、コロンシリーズの参加作品です。
http://colonseries.jp/