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ep.01

『ほら、これで晴れてお前も十七歳だ。永遠の十七歳ではないことを肝に銘じておけ』


強い光にきちんと機能しなくなった視神経、目元を押さえて蹲る幸恵に、姿の無い男が淡々と告げる。


『お前は今日から横山幸乃だ。幸乃の名を名乗っている以上、お前は十七歳からの人生を順当に歩める……間違っても幸恵を名乗るなよ、花の女子高生から三十過ぎのヒモ付き女に逆戻りするからな、服装も環境もそのままで。警察が出てくるぞきっと、魔界はそのフォローまでは行わないからな。横山幸乃、十七歳、高校二年生。誕生日はお前と同じ十一月四日。家族構成は銀行マンの父親・武史、専業主婦の母親・小百合、高三で医学部狙いなのに加えて、バスケ部の花形部員だった兄貴の龍樹』

「私の知ってる私の家族と違う。オーバー」

『当たり前だ、お前の知ってるお前ではなくなるんだからな。ところでその無線ごっこいつまで続けるのお前』

「あなたから始めたんでしょ?」

『可愛くねえ十七歳…もう思考が三十路だよね…。--で、お前も兄貴も市内の優秀な県立高に通うことになる、親の転勤でこっちに来た転校生だ。兄貴は明るくて社交的で面も男前だからすぐ馴染むだろうけど、お前は努力次第。都内のハイレベル極まる有名私立高からの転校生設定だ、忘れるなよ。模試の偏差値が六十切ったらまず不自然だから覚えておけ』

「何でそんなハードル上げるのよ、ただでさえ学力は期待出来ない三十路に…参考書から離れて何年経ったと思ってるのよ」

『リスクがあった方が見てて楽しいだろ。観客が付くってことはつまり番組が長続きするってことだ』

「ちょっと待って何の話?」

『魔界宝くじの当選金は常に魔界の娯楽の為に使われてんだよ、当たり前だろ。何でくそ面白くもない、アンチエイジングに必死な人間の女に慈善活動してやらなきゃならない?』

「…………」

『だろ?だろ??で。お前の“変身”が終わってしまうのは、幸恵を名乗ってしまった時と、真実の愛を知った時だ』


ある程度のテンポを保って交わされていた言葉が止まる。


「……メルヘン?ファンタジー?」

『今回の企画はプロデューストバイ魔界feat.妖精界だから。ごめんね。』

「悪魔だけじゃなくて妖精もいるのね!?」

『悪魔じゃなくて魔族ね』

「あらごめんなさい…じゃなくて、十七歳だって真実の愛知りたいんですけど」

『三十過ぎのお前は真実の愛が何たるかをよく知ってるもんな』




意地悪く笑う声に、幸恵は漸く押さえていた目元から手を離し…唖然とする。


可愛らしい、正に世間が認める女子高生の部屋だった。

整然と参考書の並んだ木製の学習机、ピンクのカーテン、白とピンクのベッドカバー、ベッドサイドのテーブルには卵形の目覚まし時計が鎮座し、部屋の真ん中に置かれたローテーブルにはポーチと鏡が並ぶ…ポーチの中身が化粧品であることは想像に難くない。


「ここ何処?」

『お前の部屋だよ、兄貴の部屋は隣な』

「わかった、ありがとう」

『はいよ。じゃあ、精々踊れよ、人間のババ…小娘。困ったことがあったら、この部屋の中で呼べば俺が休みの時以外は対応出来るから』


しゅるしゅるしゅる。

分かり易いフェードアウトの音を立てて、声は消えた。




見慣れない自室をゆっくりと見回して、ウォークインクローゼットだろうか、奥に一部屋ありそうなスペースの形作られる前に構えた茶色いドアに目を留める。

制服、どんなだろう。

興味本位で開けてみると、案の定服の山だった。

色とりどりの服の掛かる中、左端に紺色のブレザーと灰色のスカートがぶら下がっている。

手にとってみれば緑のリボンが胸元に付いてるのも窺える。


女子高生だ。


心のうちにとどめたつもりの声は口から出ていた。

改めて聞いてみると、声音自体も高くなっている。


「似合うかな」

独り言を言うのも楽しくてわざわざ声に出し、廊下へとつながるのであろうドアの横に据えられた姿見に制服を当てて写してみて……眩暈を覚えた。


鎖骨辺りでまとまりよく切られた黒髪に、斜め分けにされた前髪。

白く、シミも吹き出物もない柔らかそうな肌、整えられた眉に、丸く大きな双眸、ふっくらとした頬と唇。

制服の裏から細い手脚を出した少女が、鏡越しに幸恵を見つめ返している。


制服をウォークインクローゼットに戻し、幸恵は無言のまま指先で肌のハリを楽しみつつ、ベッドに腰掛けた。

--時刻は深夜零時に差し掛かろうとしている。


そのままベッドに潜り込み、リモコンで照明を消して、幸恵は小さく呟くのだ。




「勇人、困ってないかな…」

筆者が女子高生の頃に戻れるならやりたいことは三つあります。


一つ、制服のスカートをちゃんと短くする。

二つ、運動部のマネージャーになる。

三つ、部内恋愛をする。


長過ぎる喪女歴が叶えてくれなかった私の青春。

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