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第8話 モンスターに襲われている初心者を助けよう

 街を出発した原始人はマンモスを狩りに北へ……ではなく、アックスは目当ての人物のプレイヤーハウスを目指して街壁の門を抜けてホームタウンの北にある魔狼の森に向かった。


 ホームタウンと魔狼の森の間には平原が広がっており、NPCたちの農村、森から出てくるモンスターを監視するための兵士の駐屯地、冒険者居住区、ダンジョンの入り口などが存在している。

そういった区画以外は戦闘フィールドで、初心者用の狩り場となっている。


「ちょっと見ておくか」


 アックスはまっすぐ魔狼の森に向かわず、少しだけ寄り道をして明日の下見をしながら森に向かうことにした。

 明日は平原でレベル上げをさせるつもりなのだが、もし狩り場が混んでいるようなら別の狩り場を考えねばならないからだ。

 アックスが平原を見渡すと数人のプレイヤーがあちこちでモンスターを追いかけて攻撃している姿が見受けられた。

 動きが拙いところを見ると初心者なのだろう。


「あまり混んでないな。これなら明日も大丈夫か……」


 この様子ならモンスターの取り合いになることはないだろう。

 アックスがDTOに初めてログインした日はサービス開始初日であったため、この初心者向けの狩り場はプレイヤーでごった返していた。

 しかし今はサービス開始からだいぶ時間が経過しており、ここで狩りをするプレイヤーはそこまで多くない。


 ふと――

 アックスはサービス開始初日のことを思い出して苦笑した。

 ログインしたアックスがモンスターを狩りに街の外に出ると、北の平原はモンスターを追いかけるプレイヤーだらけ。

 アックスも他のプレイヤーに混じって狩りを始めたのだが――

 モンスターを見つけて攻撃しようとすると、攻撃する前にどこからともなく魔法や矢が飛んできて横から獲物を掻っ攫っていくのだ。

 アックスも負けじとモンスターを必死に追いかけて攻撃したのだが、今度はアックス目がけて魔法の火の玉が飛んできて爆発し、矢が身体を貫くのであった。

 DTOの世界はリアルを追求した結果、他のプレイヤーの魔法や矢が当たってダメージとなる。

 同じパーティーに入っていたとしてもフレンドリーファイアが発生する仕組みだ。

 アックスはボロボロになりながらソロでレベル上げをしていたのだが……

 他のプレイヤーはパーティーを組んで効率良くレベルを上げていたのであった。

 パーティーを組み、タンクがスキルでモンスターのヘイトを自分に向け、ヒーラーがバフスキルや回復魔法を使い、アタッカーがモンスターを攻撃する。

 こうすることでパーティー全員に経験値が等しく分配されるのだ。

 しかしアックスがそのことを知るのはしばらくしてからであった。


 初めての戦闘を思い出して感慨に耽りながら歩くアックスであったが、落葉の森の入り口に着いた辺りで平原の狩り場から突然悲鳴が上がり、意識が引き戻された。


「誰かー! 助けてーっ!」


 悲鳴のした方に視線を向けると少し離れたところでプレイヤーがでかいハムスターの姿をしたモンスターに追いかけられていた。

 プレイヤーの装備は木の両手杖、黒の三角帽子、黒のローブ。おさげ髪の少女の姿をしたソーサラーだ。

 少女の姿をしたソーサラーはモンスターから逃げながら、魔法を発動させるために必死に呪文を詠唱している。

 しかし、モンスターのほうが足が速く、背中に攻撃を受けては詠唱がキャンセルされるという繰り返しで、戦闘不能になるのは時間の問題かと思われた。

 少女の姿をしたソーサラーが石につまづいて転び、でかいハムスターはチャンスとばかりに飛びかかった。


「やれやれ」


 アックスの腰に差してあるサブアームの片手斧のハチェットは接近戦用の武器、もしくは投擲武器としても使える。

 モンスターに襲われている少女を無視しても良いのだが助けを求めているのに助けないのはポリシーに反する。

 アックスはハチェットを素早く抜き放ち、投擲スキル「トマホーク」を発動させて馬鹿でかいハムスターに向かって投げつけた。


 ズドッ


 ハチェットは高速で回転しながら飛んで行き、ハムスターの頭部に突き刺さる。

 そしてその勢いのままハムスターは吹っ飛び、ポリゴンの粒子となって消滅した。

 ハムスターが消滅した場所にはハチェットだけが残され、地面に突き刺さっている。

 投げつけた時にハムスターの頭部を貫通してそのまま地面に刺さったのだ。

 ハチェットはサブアームスロットに999個セットしてあり、そのうちの一本がなくなったところでなんでもないのだが、回収すれば再利用出来る。

 貧乏性のアックスはハチェットを回収するために少女の方へと近づいていった。

 地面からハチェットを抜き、アックスは転んだ状態のままの少女を見下ろして声をかける。


「おい、大丈夫か?」

「モ……モンスター……」


 少女の頭の上のカーソルを見てプレイヤーネームを確認するとミントと表示されていた。

 ソーサラーのプレイヤー、ミントは怯えた表情でガクガクと震えている。

 モンスターとは?

 まだ周りに敵がいるのかと思い、アックスは背中からフリントストーンアクスを抜いて構えた。

 右手にフリントストーンアクス、左手にハチェットの二刀流……いや、二斧流である。

 ミントの目にはアックスが二つの斧を構えた恐ろしい巨人のモンスターに見えていたのだったが、アックスはそのことに気づいていない。

 ちなみに両手斧を装備するための筋力要求値は右手と左手のSTRを合わせた数値なのだが、筋力要求値を満たしていれば片手でも装備可能だ。

 アックスは周囲を警戒するがモンスターは見あたらない。

 どういうことだと思い、ミントの顔をもう一度見たのだが――


「ひっ! 助けてーッ!!」


 ミントは立ち上がり悲鳴を上げて魔狼の森の方へ脱兎のごとく走って逃げていった。

 魔狼の森を徘徊しているモンスターは平原のモンスターよりも強く危険だ。


「おい! そっちの森は危ないぞ!」


 アックスの制止の声が聞こえていないのか、ミントは森の奥へと消えた。

 せっかく助けたのにこれではあの初心者プレイヤーはすぐに戦闘不能で街まで死に戻りすることになるだろう。


「ちっ……めんどくさいな」


 そう言いながらも、基本的にお人好しなアックスは森に消えた少女を追いかけることにした。

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