第7話 装備を修理してもらいに行こう
アックスの全財産511シュテル――
この金額では装備の修理どころか、もう一度宿屋に泊まることくらいしか出来ない。
インスタンスダンジョン「深紅の絶望」に向かう際に高級回復アイテム、レアアイテムである妖精の粉を買い込んだせいでアックスの財布はスッカラカンになっていた。
アックスのプレイヤーチェストの中は大量の斧コレクションで埋まっていたがDTOで斧武器は不良在庫の代名詞であり、バザーに出して売ったところではした金にしかならない。
秋葉たちと一緒にプレイする約束をしたのは明日だが、初心者プレイヤー装備や回復アイテムなど支援のために色々と入り用になるかもしれない。
「困った……」
修理代、初心者支援費用……何とかして稼がなければ……
アックスは頭を抱えて考え込み、少ししてとある一人のプレイヤーに思い当たった。
無料は無理だろうがツケで装備を修理してくれて、金を貸してくれるかもしれない人物。
「いた……いたぞ……一人だけっ!」
アックスはメニューのフレンドリストを開いた。
数人しか登録されていない寂しいフレンドリストからは探すまでもなく、すぐにその名前が見つかった。
名前の文字が白く光っていればログインしており、光が消えていればログアウトしているということである。
目当ての人物の名前は光っておりログインはしているようなのだが、表示は取り込み中になっていた。
取り込み中の表示になっていると、遠くからフレンドに話しかける機能「ウィスパー」が使えない。
現在いる場所を確認すると、ロケーション:魔狼の森となっていた。
魔狼の森はホームタウンから少し離れた所にある狩場で、目当ての人物のプレイヤーハウスがある場所でもある。
アックスは作業の邪魔をされたくなくて取り込み中表示をしているのだろうと見当をつけた。
「しょうがない。連絡が取れないなら直接出向くしかないな」
アックスはプレイヤーチェストから耐久度が100%の両手斧「フリントストーンアクス」を取り出した。
武器としてのグレードは中級程度であるがアックスはこの石斧の斧頭部分の白と黒のまだら模様と綺麗な羽飾りを気に入っていた。
アックスは防具の耐久度がこれ以上下がらないように脱ぎ、ヘラクレスのような肉体を晒してパンツだけになった。
「あれ? ないな」
アックスは宿屋に設置されているプレイヤーチェストのアイテムリストのウィンドウから装備を探したのだが、全て処分していたようで見当たらなかった。
代わりに着れそうなものといえば――シーズナルイベントでゲットした水着くらいしかない。
「まぁ……何も着ないよりかはマシか……」
アックスは白、黒、青、青と白のストライプ、4種類のサーフパンツの中から黒色のサーフパンツを選んだ。
部屋に設置されている立ち見鏡の前に立って自分の姿を確認する。
2メートルを超える屈強な見た目の体躯にざんばら髪の無精髭、両手に握っているのは石斧――
「ああ、やっぱり……」
アックスは鏡に映った自分の姿を見て見惚れた。
その姿はまるで石器時代の原始人であったからだ。
アックスは少し……いや、かなり独特なセンスの持ち主であった。
「もしかして、アレを巻いたらかっこいいんじゃないか?」
アックスはチェストからモンスタードロップ品である加工前のモンスターの毛皮を取り出して腰に巻いた。
「おお、いいね!」
豹のような見た目のモンスターの毛皮を巻いたことで原始人度がさらにアップした。
マンモスでも追いかけたらきっと絵になることであろう。
装備として加工前であくまで巻いただけに過ぎず、防御力はゼロなのだがアックスは自分の姿を見て満足した。
原始人ロールプレイも面白い。今度試しにマンモス型のモブを狩りに行ってみるか。
そんなことを思いながらアックスは宿屋を出発した。
フリントストーンアクスはグレード中級程度の両手斧であるが装備するための筋力要求値は高めだ。
VITにステータスを振っているウォーリアでは装備できない程の筋力要求値のため、装備しているプレイヤーはほとんどいない。
街の出口に向かって歩くアックスであったが、周りのプレイヤーはその姿を見て驚き、また別のプレイヤーは苦笑いした。
西洋風ファンタジーの世界に原始人がいるのだから無理もない。
アックスはフリントストーンアクスが笑われていると思い、この武器の良さが分からない奴はどうかしてるとプレイヤーを無視して街中を進んだ。
原始人姿が笑われているとは夢にも思わないアックスであった。




