第5話 初心者である二人が同じ轍を踏まないように
冬馬はDTOのクラスの特徴とステータスの振り方の説明を一通り終えた。
「へぇー、たくさん種類があるんだねぇ。わたしは何にしようかなー?」
「すごい勉強になりました。さすがDTO経験者ですねっ!」
百合は尊敬の眼差しで冬馬を見ている。
自分のクラス選びとステータスの振り分けの失敗がまさかこんな形で役に立つとは……
「うん、まぁ伊達に初期からDTOをやってないからな! ハハハ……」
まさか、自分はステ振りに失敗して不人気職でボッチやってますなんて言えるはずもなく、見栄を張る冬馬であった。
「色々教えて頂きましたけど、私は何を選んだらいいのでしょう?」
クラスの説明をした冬馬であったが百合は決めあぐねているようだ。
首をひねって「うーん」とうなっている。
「何でもいいんじゃないか?」
「えっ?」
「人に言われてやらされるクラスよりも、自分がやりたいクラスをやるのが一番だと思う
ぞ」
「自分がやりたいクラス……」
「RPG、ロールプレイングゲームはなりたい役を演じるゲーム。せめてゲームの世界では自由に理想の自分になりたいだろ」
本当なら人気のクラスを選んでやるのが経験者として正しかったのかもしれない。
しかし、やりたくもない役をやるのが正しいとも思えなかった。
矛盾を抱えながら冬馬は百合に自分がやりたいクラスを自由に選択するべきだと促した。
今の言葉は失敗だったか?
そう思う冬馬であったが――
「冬馬先輩、私、何がしたいか分かった気がします! 冬馬先輩に相談してよかったです!」
百合は悟りを開いたようにすっきりした顔をして冬馬に感謝の言葉を述べた。
「そ、そうか? 俺のアドバイスが役に立ったようで良かったよ」
「はい、これからも色々と教えてください!」
「お兄ちゃん、わたしにもー!」
「ああ、俺に教えられることなら遠慮なく聞いてくれ」
喫茶店で飲み物を飲みながら、冬馬は秋葉と百合から質問攻めにされるのであった。
二人との会話は楽しく、気づけば長い時間が経過していた。
そして喫茶店の閉店時間となり、流れで解散ということになった。
「今日は楽しかったねー。お兄ちゃんが次に百合ちゃんと会うのはDTOの世界かな?」
「私、男の人とこんなに話すの初めてで最初は緊張したんですけど……冬馬先輩って男の人と話してる気が全然しなくてとても楽しかったです」
女子校に通っている百合は家族以外で男性と長い時間話した経験がないそうだ。
最初、緊張していたのも男性と話したことがなかったせいらしい。
「はは……それは喜んでいいのかな」
「お兄ちゃん、見た目が女の子にしか見えないから大丈夫だと思ったんだよー」
「おいっ!」
男らしくないと言われているようで複雑な心境の冬馬であったが、最初にあった頃と比べると大分打ち解けることが出来たようでよかった。
「それじゃ、次はDTOで会おう」
「はい! またよろしくお願いします。家に帰ったら早速キャラクリしないと!」
こうして百合は自分の家へと帰っていった。
その場に残された冬馬と秋葉。
「わたしも家に帰ってキャラクリしないと!」
「その前にまずダイバージェンスギアのセットアップとDTOのインストールが先だ」
「ええー!?」
今日、二人はキャラクタークリエイトに専念して本格的にプレイするのは明日からだそうだ。
なんだか不思議な感じだ。
ソロでインスタンスダンジョンをクリアした時、孤独な勝利の虚しさから、そろそろ引退も視野に入れなければならないと考えていたというのに初心者の面倒を見ることになるとは……
もしかしたら、これが俺のDTOでの最後のクエストになるかもしれないな……
自分はキャラクリのミスからボッチプレイになってしまったが、せめて初心者である二人が同じ轍を踏まないように導いてやろう。
そう思うのであった。