第40話 ネームドモンスターを倒そう その1
流星のプルトガは北の平原の更に北に位置する丘にポップするネームドモンスターである。
元々、プルトガは丘に落下した隕石による被害を調査しに来た地質学者の護衛用のゴーレムであった。
しかし丘に到着した地質学者が隕石の落下によって出来たクレーターを調べていると、突然暴走して制御不能に。
以来、プルトガはクレーターに近づく者を見境なく攻撃するようになってしまった。
そしていつの間にか噂が一人歩きして、空から星とともに落ちてきたゴーレムと間違って人々に伝わり「流星のプルトガ」と二つ名で呼ばれるようになったのである。
「――というのがプルトガの設定だ」
「へえ、じゃあ別に空から落ちてきたわけじゃないんだね」
アックスが目的地に向かって歩きながらプルトガについて知っている情報を披露するとカエデが感心した様子で相槌を打った。
街にいるNPCから聞くことが出来る話なのだがそのことを知っているプレイヤーは意外と少ない。
多くのプレイヤーはモンスターの設定にあまり興味がないのだ。
「NPCからは他にもネームドモンスターの裏設定が聞けたり、攻撃パターンや弱点など有益な情報を教えてくれたりするから積極的に話しかけてみるといいぞ」
「なるほど。モンスターそれぞれに設定があるなんて面白いですね。今度NPCからいろいろ話を聞いてみたいと思います」
静かに話を聞いていたリリーがアックスを尊敬の眼差しで見ながら答えた。
アックスはソロプレイばかりしていたせいでプレイヤーよりもNPCと話す機会の方が多く、そのおかげで他のプレイヤーよりもモンスターについての知識が豊富なのであった。
ネームドモンスターによっては伝説級の面白い逸話を持っているものも存在する。
別に逸話を聞かなくても倒すことは可能だが、知っていれば倒した時の達成感がより深いものになるだろう。
アックスはインターネットでの情報に頼らずに自分で情報を集め、モンスターの倒し方を模索するという自分なりの楽しみ方を二人に伝えた。
「着いたぞ。ここがプルトガのいるクレーターだ」
「あれ? もう誰か戦ってるね?」
目的地である丘のクレーターに到着したアックスたちであったが、既に他のパーティーが岩の巨人――流星のプルトガとクレーターの中心で戦闘中であった。
「ちょうどいい。二人とも戦いを見学してプルトガの攻撃パターンを覚えようか」
「分かったー」
「はいっ」
ネームドモンスターとの戦闘ではプレイヤーのレベルがネームドモンスターよりも上だった場合、自動でレベルが同期してモンスターと同じレベルになる仕組みだ。装備の性能もレベルと同程度にダウンすることになるのでレベル差による無双が出来ないようになっている。
またネームドモンスターには二種類のタイプがあり、最初に攻撃を加えたパーティーにだけ戦う権利が与えられるタイプと複数のパーティーで協力して戦うタイプが存在する。
プルトガは前者の最初に攻撃を加えたパーティーにだけ戦う権利が与えられるタイプだ。
プルトガとパーティーの周囲にはデュエルの際のバトルフィールドのようなバリアが展開されており、パーティーメンバー以外は中に入ることが出来ないようになっている。
クレーターはすり鉢状になっているため、上から見下ろす形になり、プルトガとパーティーがどういう動きをしているのか理解しやすい。
アックスたちは地面に座ってパーティーの戦いぶりを見学することにした。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
数十分後――
戦闘に勝利したのはプレイヤー側であった。
「すごい戦いだったねー」
「こ、これがフルパーティーの戦闘……」
カエデとリリーはフルパーティーでの激しい戦闘を初めて目の当たりにして衝撃を受けている。
「次にプルトガがリポップするのは30分後くらいだ。今のうちに作戦会議でもするとしよう」
「ラジャー」
「了解です」
アックスたちは次のリポップに備えてクレーターの中心の方に歩いていき、そこで作戦会議をしていたのだが……
「お前らなんなの? 邪魔なんだけど」
先程プルトガを倒したパーティーの内の一人が喧嘩腰でアックスに話しかけてきた。
「俺たちもプルトガを倒しに来たんだが、何か?」
「何か?じゃねーだろ。ここは俺たちが先に来て占有してんだからどっか行けよ」
どうやら、先程プルトガを倒したパーティーはまだここに居座るつもりのようだ。
ちなみにこの場所は誰のものでもないし、占有しているとはこのパーティーが勝手に言っているに過ぎない。
「そっちのパーティーはさっきプルトガを倒してたみたいだし、次は俺たちにやらせてくれないか?」
「は? お前、話聞いてなかったのか? ここは俺たちが使ってるからどっか行けよ」
アックスは相手の高圧的で失礼な態度にキレそうになったが妹と妹の友達の前でみっともない姿を見せる訳にはいかないと思い、作り笑顔で慣れない交渉を続けた。
「ちなみにあとどれくらいここに居るつもりなんだ?」
「さあ? あと5時間くらいじゃないか?」
「5時間もここにいるなら、一回くらい俺たちにやらせてくれてもいいだろう」
「消えろ。殺されてえのか? あ?」
駄目だ。言葉が通じない。
相手はこの場所を譲る気がまったくないようである。
アックスがどうしたものやらと頭を抱えていると――
「ケチ! 一回くらい譲ってくれてもいいじゃない!」
カエデは相手の失礼な態度に我慢出来ず言い返した。
せっかくアックスが我慢していたのに台無しである。
「んだと? そもそもお前ら三人しかいねーじゃねえか。タンクだけでしかもそのうち二人は斧使いときた。やる前から結果は分かりきってるだろ」
「そ、そんなのやってみないと分からないです」
馬鹿にされて今度はリリーが言い返した。
「二人とも落ち着け」
アックスはカエデとリリーの頭を掴んで制止する。
せっかく我慢していたのに妹たちが怒って言い返したせいで完全にこじれてしまった。
アックスはやれやれと溜息をつく。
「ちょっと向こうでどうするか相談しよう」
一旦向こうのパーティーに会話が聞かれない場所まで下がり、アックスは口を開く。
「まったく、プレイヤーと喧嘩したら駄目だろ」
「でも、お兄ちゃんあいつらこの場所を占領して譲る気がないんだよ。頭にこないの?」
「アックス先輩、こんなこと許されていいんですか? このまま引き下がるなんて悔しいです」
カエデとリリーはアックスが引き下がると思い、悔しそうな表情をした。
「誰が引き下がると言った? 相手はこの場所を譲る気がないようだからネームドモンスターの取り合いをすることになるが良いか? 向こうのパーティーは文句言ってくるかもしれないが……」
一旦引き下がって相談することにした理由はモンスターの取り合いになると揉めることになるため、二人の了承を得ようと思ったからだ。
アックスの問いに対して二人の答えは――
「わたしは取り合いでいいよ! 文句言われても気にしないし」
「わ、私も取り合いでいいです。ここで引き下がるなんて納得出来ませんっ」
二人は一歩も引き下がるつもりはないようだ。
アックスは二人の意思を確認してゆっくりと頷く。
「よし、分かった。それじゃあ取り合いをするとしよう!」
「おおー!」
取り合いをすることに決めたアックスたちであったがネームドモンスターと戦う権利は最初に攻撃したパーティーに与えられる。
アックスたちは相手のパーティーよりも先に攻撃しなければならない。
「取り合いに確実に勝つには助っ人が必要だな……」
「助っ人?」
アックスはフレンドリストを開いて応援を要請した。




