第3話 回想 挫折とDTOとの出会い
冬馬が自分の努力ではどうにもならない越えられない壁があるのに気づいたのは中学三年のバスケットボール最後の試合でのことであった。
冬馬の身長は160センチと小柄であったが持ち前の運動神経でレギュラーを勝ち取り、選手として出場を果たした。
試合の相手は全国大会常連の強豪校。
冬馬たちは強豪校を相手に奮戦していたが1点差で負けていた。
しかし、あと2点。シュートがあと一本入れば逆転可能である。
そしてチャンスはやって来た。
試合終了間際に仲間が必死の思いでつないだパスが冬馬に回ってきたのだ。
冬馬の目の前には相手チームの選手が立ちふさがり、冬馬よりも身長が高く、体格が良い。
周囲を見るが味方はピッタリとマークされていてパスを出せない。
試合終了までもう時間がない。
自分がシュートを決めるしかない。
覚悟を決めて集中する冬馬であったが……
目の前の相手が邪魔だ――
冬馬の目には相手のディフェンスがまるで壁のように見えた。
しかし逆転の望みをかけて冬馬はブロックに阻まれながらもシュートを放った。
試合終了のブザーが鳴る中、ボールはゴールに飛んでいき――
そして――
ガァン
ボールはゴールリングに弾かれてバスケットコートを転がった。
「残念だったな、オチビちゃん」
試合が終わり、冬馬をブロックした選手がニヤリと笑いながら言った。
その言葉は冬馬の胸にグサリと突き刺さるのであった。
こうして冬馬の中学三年の最後の試合は終わった。
あと5センチ身長が高ければ……あと少し筋力があり、もっと高い位置からシュートを打てていたならばあの最後のシュートは入っていたかもしれない……
それは言い訳にしか聞こえないため、誰にも言うことは出来なかったがあの最後のシュートを思い出すたびに自分の身長に対して苛立ちを覚えるのであった。
中学を卒業した冬馬は高校に進学した。
冬馬の中学からの同級生は高校でもバスケをやろうと誘ったのだが――
残念だったな、オチビちゃん――
中学最後の試合で相手の選手が言った言葉が頭から離れず、バスケを続ける気が起きなかった。
身長だけは努力でどうこうなることではない。
冬馬の好きなバスケット漫画のチビと言われているポイントガードの選手の身長は168センチで冬馬よりも身長が高い。
充分恵まれた体格である。
冬馬からしたら168センチはチビでもなんでもなく、本当のチビというのは自分のような身長の人間を言うのだ。
人間というのは血統だとか家柄だとかで生まれた瞬間に人生の主役になれるかどうか決まる。
冬馬は次第にそう思うようになるのであった。
高校で部活に入らなかった冬馬は暇を持て余すようになった。
ある日のこと、学校が終わり、コンビニに立ち寄った冬馬は週刊少年漫画雑誌で連載している漫画を立ち読みしていた。
孤児として育った主人公が、皆に呪われた子、落ちこぼれと蔑まれながらも英雄を目指して頑張る物語だ。
友情、努力、勝利――
それはこの週刊少年漫画雑誌が掲載作品全てにおいてテーマにしていることなのであったが、冬馬はこの努力が報われるというテーマを気に入っていた。
努力すれば例え血筋や才能が優れていなくても報われる。
冬馬は主人公の少年を心の中で応援しながら、毎週この漫画を読むのを楽しみにしていたのだが――
漫画の立ち読みを始めてしばらくして驚くべき事実が発覚した。
命を犠牲にして国を救った英雄が主人公の実の親だというのだ。
「クソ! なんだよ。やっぱり全部血統かよッ!」
主人公は英雄の息子、つまりエリートだ。
成長するにつれて頭角を現すのは必然だったのである。
落ちこぼれの主人公を応援する気持ちは消えた。
冬馬はもうこの漫画を読まないことに決め、集めていた単行本は全て捨てることにした。
そして漫画雑誌を雑誌売り場に戻そうとしたその時だ。
雑誌の裏表紙広告のサービス開始間近であるVRMMOのキャッチコピーが目に入った。
『あなたが主役になれる本物のファンタジー。竜と人の戦いが今始まる――』
それが冬馬とドラゴンテイルオンラインの出会いであった。