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第31話 戦いのあと

『勝者アックス。デュエルを終了します』


 キーンとのデュエルを終えるとシステムメッセージが勝者を告げた。

 アックスは先輩プレイヤーとして妹と妹の友人の前で面目は保つことが出来てホッと胸を撫でおろす。

 展開されていたバトルゾーンが消え去り、カエデたちがいる方に顔を向けると――


「やったぁああああ!! お兄ちゃあああああんっ!!」


 カエデが満面の笑みを浮かべて駆け寄ってきた。

 アックスは主人の元に尻尾を振りながら向かってくる愛犬を連想して口元を緩める。

 と言ってもペットを飼った経験はないのだが。

 妹様に対して失礼なことを考えながらアックスは勢い良くみぞおちに飛び込んできたカエデを受け止めた。


「応援してくれてありがとな。おかげで初心を思い出せた」

「初心?」


 きょとんとした表情でカエデはアックスの顔を見つめた。

 カエデはアックスが引退を考えていたことを知らない。

 これからゲームを始めるプレイヤーに言うべきことではないと思ったからだ。

 アックスは目を細めながらカエデの頭を撫でる。

 デュエルを始める前に妹の自分を応援する声が聞こえた。

 その声を聞いてアックスは妹のヒーローでありたいと願い、DTOを始めた最初の気持ちを思い出したのであった。


 引退するのをやめて、妹たちとDTOをもう一度やり直す――

 この斧で、アックスでもう一度主人公を目指す――


「お兄ちゃん、あのね……」

「どうした?」


 カエデは口籠って何か言いたそうにしている。

 何だろうか?

 アックスはカエデの頭を撫でながら続きの言葉を待った。

 しかし、口を開いた妹の言葉は衝撃の内容であった。


「わたしも斧使いになる!」


 斧使いって……!?

 秋葉もウォーリアに!?

 どうしてこうなった!?

 カエデの突然のクラスチェンジ発言にアックスは驚きを隠せない。


「ちょっ、待て。駄目だ」

「やだ。わたしもお兄ちゃんみたいになりたい」


 お兄ちゃんみたい……ってことはVIT振りではなくSTR振りのウォーリアをやるってことか……

 アックスは自分の今までのボッチプレイを思い出してカエデを止めた。

 大変なのを知っているだけに同じ苦労を味合わせたくない。

 しかしカエデは「やだやだ」と言ってアックスの言うことを聞こうとしない。


「お兄ちゃんはわたしたちに自分のやりたいクラスをやれって言ったじゃない」

「たしかに言ったが……ほらグラップラーだとロケットパンチ出来るぞ?」

「見たことないけど斧が武器のロボットアニメだってあるし」


 そう来たか……

 ロボットアニメ好きの妹ならロケットパンチの話を出せば考えを変えると思ったのだが無駄であった。

 かなり古いアニメだが、たしかに斧が武器のロボットアニメもある。

 長年の経験から妹は絶対に自分の意思を曲げないだろう。

 それに……

 さっき自分はこの斧でやり直すと心に誓ったばかりだ……

 斧使いをやると言った妹を否定するなら、それは自分が選んだ道を否定しているのと同じではないだろうか?


「俺と同じ……ウォーリアでいいんだな?」

「うん」

「俺のウォーリアは普通と違うから大変だぞ?」

「頑張る」


 何度も本当にいいのかと再確認するアックスであったが、カエデの意思は固く考え直すつもりはないようだ。

 やれやれと思いながらアックスは観念することにした。


「はぁ……分かった。好きにしろ」

「やったぁー!」


 アックスがため息をついてクラスチェンジを許可をするとカエデは嬉しそうに破顔して笑った。

 周囲の野次馬やシルバ、生き返ったばかりのキーンは二人の痴話喧嘩のような会話に呆気に取られている。

 遅れてアックスたちのところまでやって来たリリーも二人の会話を聞いて驚いている。


「カエデちゃん、ウォーリアに変更するんですか」

「うん。あ、そうだお金」


 そう言ってカエデはインベントリから所持金を出してリリーに渡した。


「キャラ作り直したらお金消えちゃうだろうからね」

「あ、そうですね。私が預かっておきますね」

「よろしく」


 現実世界の秋葉はお金に結構うるさい。

 それはゲームの世界でも同じようだ。

 ちなみに小野家の財布の紐を握っているのは兄の冬馬ではなく妹の秋葉だったりする。


「それじゃ、ちょっと行ってくる」

「ああ、俺たちも一旦街まで戻る」

「いってらっしゃい。広場で待ってますね」


 カエデはメニューからログアウトを選ぶと、あっという間にログアウトしてしまった。

 フィールドに残されるアックスとリリー。


「行ったな……」

「はい」

「俺たちも行こうか」

「はい」


 アックスとリリーも街に戻ることにした。

 でも、その前に――

 一応こいつらにも声をかけてから行くことにするか――

 アックスは呆然と立ちつくしているキーンとシルバを見る。


「それじゃ、俺たちは街に戻るから。またな」


 アックスは簡単に別れの言葉を済ませると、踵を返してリリーと並んで街に向かって歩き出す。


「ま、待て!」

「何だ?」


 キーンに呼び止められてアックスは振り返る。

 まだ何か用があるのだろうか?


アックス(・・・・)、お前強いな! またデュエルしようぜ!」

「俺ともまた戦えよなアックス(・・・・)! 今度は絶対に負けねー!」


 今までアックスはこの二人と会話をしても役職名で「斧さん」「ウォーリア」と呼ばれるだけで名前で呼ばれていなかった。

 しかし「アックス」と名前で呼ばれてやっと一人のプレイヤーとして認められたような気がした。

 まあ、アックスの名前からして「斧」という意味なのだが、やはり名前で呼ばれるのと役職名で呼ばれるのでは感じ方が違う。

 アックスも心の中でキーンとシルバを金髪、銀髪と呼んでいたのだが、彼らの名前を脳に刻むことにした。


「ああ、またやろうぜ。キーン(・・・)! シルバ(・・・)!」


 アックスは二人の名前を呼び、再戦の約束をして別れた。

 いつになるかは分からないが、あいつらとならまた戦ってもいい。

 まあ、また返り討ちにしてやるだけだがな。


「ふふふ」


 アックスが歩きながら笑うとリリーはそれを見て不思議そうな顔をした。


「アックス先輩楽しそうですね?」

「まあな。ふふふ」


 アックスは次に戦うのを楽しみに思いながら、愉快な気分で歩いて街まで戻った。

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