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第28話 わたしの初めてのフルダイブVRMMO その1(妹視点)

 時は少し遡り――


 わたしこと小野秋葉がDTOとダイバージェンスギアを購入した翌日。

 学校の授業が終わって家に帰ったわたしは自分の部屋に入るなりパソコンの電源ボタンを押した。

 パソコンを立ち上げている間に制服から部屋着のTシャツ短パンに素早く着替え、ダイバージェンスギアを頭に被る。

 続いてパソコンが完全に立ち上がっていることを確認した後、DTOのクライアントを起動させてベッドに横になった。

 目を閉じると一瞬の浮遊感の後、ダイバージェンスギアによって意識が現実から切り離されてゆく。

 そしてチャンネルが切り替わるように意識はログインロビーへと接続された。


 わたしはログインロビーで自分の分身であるアバターと向かい合う。

 アバターの姿は現実のわたしとほとんど変わらず、違うのは橙色の髪の毛と緑色の瞳くらいだ。

 プレイヤーネームは現実と別にしたほうが良いという話を聞いていたので、秋葉という自分の名前から連想してあまり深く考えずにカエデという名前にしてみた。

 クラスはグラップラー。アームドアームという大きな篭手が武器である。


『ゲームを開始しますか? YES/NO』


 YESを選択するとわたしとカエデは融合して一つになり、光に包まれてDTOの世界へと転送された。


「これがお兄ちゃんのプレイしてるゲームか……」


 ゆっくりと目を開いたわたしは仮想世界の石畳の感触を確かめながら呟いた。

 ログインした新規プレイヤーのスタート地点は皆同じで冒険者広場から始まる。

 街の中央に大きな城があり、その少し北に位置するこの冒険者広場の真ん中には噴水と掲示板が設置されており、ローブを着た魔法使いや甲冑を纏った騎士といったファンタジーの世界の冒険者たちで賑わっていた。

 わたしの目に映る街の風景はまるで中世ヨーロッパである。

 赤煉瓦屋根の建物が密集する市街地の周囲は高い石の城壁で守られており、まるで要塞だ。

 わたしは深呼吸して空を見上げた。


 いい天気だ――


 晴れ渡った空を雲がゆっくりと流れてゆく。

 太陽の光は温かく、柔らかな風が吹いて肌を撫ぜる。

 一瞬、感覚のリアルさに自分は異世界に転移したのではないだろうかと錯覚した。


「アキちゃん、ですよね?」


 初めてのVRゲーム体験に圧倒されていると不意に背後から声をかけられた。

 声がした方を振り向くとそこには友達の百合にそっくりのプレイヤーが立っていた。

 頭の上にはリリーというプレイヤーネームが浮かんでいる。

 ログインする前に百合に聞かされていた名前だ。


「百合ちゃん?」

「はい。そうです」


 リリーという名前のプレイヤーはニコリと笑みを浮かべて頷く。

 やはり目の前のプレイヤーは百合で間違いないようだ。

 ゲーム内で待ち合わせをしていたのだが探す手間が省けて助かった。


「驚きました。アキちゃんの姿、リアルとそっくりです」

「こっちも驚いたよ。百合ちゃんもそっくり」


 現実の世界の姿とそっくりなのは、昨日二人でゲーム内の姿は現実の姿と似せて遊ぼうという話になったからだ。

 わたしと百合は互いの手のひらを合わせて、ピョンピョンと飛び跳ねながらアバターを褒めあった。

 百合のDTO内の姿は水色の髪に金色の瞳ということ以外、現実の姿とほとんど同じである。

 クラスはナイトで腰に木剣を差して、背中に盾を背負っている。

 学校で百合と話してどのクラスを選んだのか聞いた時は驚いた。

 父親が有名な製菓会社の社長をしている百合は本物のお嬢様である。

 かと言ってそれを鼻にかける訳ではなく物腰は柔らかく、言葉遣いも丁寧で控えめな性格。

 おおざっぱで勝気な自分とは性格が正反対だというのに何故か気が合った。

 てっきり百合なら性格から考えてクレリックを選ぶと思っていたのだがナイトを選ぶとは意外であった。


「それじゃあ、まずは街を見て回りましょうか」

「そうだね。お兄ちゃんがログインするまでにメインストーリークエストってやつも進めておこう」


 兄とは後で合流することになっており、先にログインして百合と二人でゲーム内の街を見て回るとメールで伝えてある。

 街を散策することにしたわたしたちはメニューから街のMAPを開いてどこに何があるか確認する。


「向こうに商店街があるみたい」

「行ってみましょう」


 そういえば自分たちはお金を持っているのだろうかと思い、インベントリの一覧から所持金を確認すると500シュテルと表示されていた。

 シュテルというのがこの世界の通貨の単位のようなのだが、1シュテルにどれくらいの価値があるのだろうか?


「500シュテル持ってるみたいだけど500円ってことなのかな」

「500円だとすると遠足のおやつ代くらいですね」

「せんせー、バナナはおやつに含まれますか?」


 わたしは手を挙げて旧時代からある定番のジョークを言った。

 質問するまでもなくバナナはお弁当のデザートということにすればいい。

 おやつにわざわざバナナを買う子どもはいない。

 だったらなぜこんな質問をするのかというと、昔はバナナが高級品で「バナナを持参するのは贅沢だ」ということから禁止されていたとか、バナナを買える子どもが自慢したくて質問したなど諸説ある。


「あはは、バナナがおやつかどうかは分かりませんが、お店で売ってるものの値段を見てみましょう」

「そうだね。500シュテルで何か買えるかなぁ」


 商店街に着くと道具屋、武器屋、防具屋、素材屋などのお店が立ち並んでいた。

 二人はまず最初に道具屋に入り、並べられているアイテムを見る。

 たしかこのポーションというのが回復アイテムのはずだ。

 ポーションの値段を確認してみると――


「高っ!? このポーション1,000シュテルだって」

「あ、こっちに50シュテルのポーションがあります」


 わたしがポーションの値段に驚いていると百合がもっと安いポーションを見つけた。

 ポーションと言っても安いのから高いのまで色々あるらしい。

 それでも初期所持金額だと安いポーションは10個しか買えない。


「他のお店も見てみることにしよう」


 道具屋を後にして歩いていると道端に屋台が出ているのを発見した。


「あ、屋台だ。何を売ってるんだろう」

「見てみましょう」


 屋台を覗くとたくさんのチョコバナナが立てて並べられていた。

 チョコバナナとは生のバナナに串を縦に刺し、バナナの表面をチョコレートでコーティングしたものである。

 コーティングされたチョコレートの表面にはカラフルなチョコレートやナッツがトッピングされており見た目も綺麗だ。


「バナナだ」

「バナナです」


 わたしたちは先程の「バナナはおやつに含まれるか?」というジョークを思い出して、顔を見合わせて笑った。


「おいしそう。これ一本いくらですか?」

「一本50シュテルだ。買ってくかい?」


 50シュテル=50円と考えるならこのチョコバナナ一本は安いのではないだろうか?

 この世界では別にバナナは高級品という訳ではないようだ。

 わたしが屋台の販売NPCに買うか聞かれて迷っていると……


「チョコバナナください」

「俺にも」

「毎度あり」


 わたしたちと同じような初期装備のプレイヤー二人が販売NPCに声をかけてチョコバナナを購入した。

 販売NPCが初期装備プレイヤー二人にチョコバナナを手渡す様子をわたしと百合はジッと見つめて観察した。


「どうやらこのチョコバナナには食べると経験値取得量3%アップの効果があるみたいです」

「へぇ、わたしたちも買ってみようか?」

「そうですね。試しに買ってみますか」


 わたしと百合は屋台の販売NPCに話しかけてチョコバナナを購入した。

 購入したチョコバナナを手に持ち、早速食べることにする。


「「いただきます」」


 チョコバナナを口にするとチョコの少し固い食感の後に柔らかなバナナの食感がやってくる。

 そしてチョコとバナナの甘い味が口の中に広がった。


「おいしいっ!」

「美味しいです」


 仮想世界で食べ物を初めて口にしたわたしたちであったが、その味は現実世界のチョコバナナと較べても遜色ないものであった。

 テレビでダイエットをするために現実世界での食事を抜いて、仮想世界で食事を済ましていた女性が空腹で倒れるというニュースが流れていたのを思い出した。

 確かに他の料理も同じように現実の味を忠実に再現しているならば空腹で倒れる女性が多発することだろう。


 チョコバナナを食べた後もわたしたちは街を見て回り、クエストアイコンの出ているNPCに話しかけてメインストーリークエストを進めた。

 冒険者ギルドで冒険者の登録を済ませて時間を確認すると、兄と待ち合わせをする時間になっていた。

 街の主要な建物は見終わり、特にやることもない。

 わたしと百合は待ち合わせ場所である冒険者広場に戻ることにした。

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