第25話 VS銀髪のシルバ
高レベルの金髪ナイトと銀髪グラップラーの二人とデュエルすることになったアックスであったが――
「なんだなんだ? 喧嘩か?」
「いや、デュエルらしい」
「へぇ、面白そうだな。見てみるか」
物珍しさから野次馬がわらわらと集まって来た。
北の平原でレベル上げをしていた初心者が大半だが、話を聞きつけてわざわざデュエルを見るために街からやって来た物好きもいる。
「聖天騎士団のキーンとシルバが斧使いとデュエルするってよ」
「マジかよ。斧のくせに身の程知らずな奴だな」
「それにしても何でデュエルすることになったんだ?」
「あの斧使いが初心者に絡んでるところをキーンとシルバが助けて言い争いになったらしい」
何だか話がおかしなことになり始めたぞとアックスは困惑した。
今更だが金髪ナイトがキーンで銀髪グラップラーがシルバだ。
絡んできたのはキーンたちであってアックスたちはモブ狩りをしていただけなのだが……
「見た目も明らかにネタキャラっぽいし、捨てアカの初心者狙いのプレイヤーキラーかもな」
「なんだ、ただの糞野郎か。早くぶっ殺してほしいぜ」
おいおい、どうしてこうなった?
自分はプレイヤーキラーじゃないぞ!?
何故かプレイヤーキラーと勘違いされて完全にアウェイの雰囲気になってしまっている。
アックスは嫌な汗をダラダラと流した。
PKを嫌うプレイヤーは多い。
野次馬たちの目には正義のPKKと捨てアカのPKという構図が完成していた。
有名なクランに所属する二人に対してアックスはクランに所属していない不審な斧使い。
アックスの見た目はいかにも悪そうな髭面の大男で、それに対してキーンとシルバは女性にモテそうな整った容姿。
ロールプレイングゲームの主役はどちらかと聞かれたら後者と答える人がほとんどだろう。
では前者は何なんだと聞かれれば、勇者にやられる山賊かモブキャラである。
野次馬たちが勘違いをするのもしょうがないのだが、アックスは周りのプレイヤーが何故勘違いしているのか理解出来ないのであった。
キーンとシルバは集まったギャラリーを見て満足気である。
クラン勧誘の良いデモンストレーションになるとでも思っているのだろう。
「早くデュエルを始めようぜ。二対一でも構わないぞ」
見世物にされるのは本意ではない。
アックスはさっさと終わらせたいと考えて二対一を提案した。
しかしその提案に対してキーンとシルバは鼻で笑って答える。
「いや、流石に二対一はまずいだろう」
「ただでさえハンデがあるのに俺たちがリンチしてるみたいじゃないか」
「俺は別に構わないが」
「そっちは二対一で負けたら言い訳が出来るかもしれないが、こっちはそうもいかないからな。斧一人に対して二人がかりで勝ったなんて知れたら笑いものになってしまう」
二人はアックスの提案を断り、話し合いの結果、順番に一対一でデュエルをすることとなった。
ルールは時間無制限の外部からのバフなし、アイテム使用不可のHPがゼロになるまでの決闘。
このデュエルでの対人戦では死んでもデスペナルティーがつかず、相手プレイヤーを殺しても魂罪の数値が増えることはないので安心して戦うことが出来る。
「それじゃ、二人とも行ってくる」
「お兄ちゃん、頑張って」
「アックス先輩、頑張ってください」
「ああ」
カエデとリリーはアックスが勝つと信じて疑っていない。
周りの野次馬全員が俺の敗北を願っているとしても、二人が俺を応援してくれる限り負ける訳にはいかない。
アックスは唇の端を釣り上げて笑い、断罪者の斧を肩にガシャンと担いでキーンとシルバがいる方に向かって進んだ。
「俺の相手はどっちからだ?」
「最初は俺がやろう」
そう言ってアックスの前に進み出たのは銀髪グラップラーのシルバだ。
肩慣らしをするかのようにシルバは上位スキル「烈火百裂拳」と「石破激震衝」をその場で繰り出した。
烈火百裂拳はアームドアームに燃え盛る炎のような光のエフェクトを纏わせた連続突きで、石破激震衝は拳を地面に叩きつけてその衝撃波で敵を攻撃する範囲攻撃スキルだ。
シルバの石破激震衝によって地面には小さなクレーターが出来ており、演武を見ていた初心者たちは歓声をあげた。
「最近、この辺りで初心者を狙ったPKが多くてな。大方お前も初心者の手伝いに見せかけたプレイヤーキラーなんだろう?」
「いや、俺たちは――」
「答える必要はない。俺には分かる。お前のようなプレイヤーキラーは吐き気がする」
俺たちはリアルの知り合いなんだと説明しようとしたアックスであったが途中で言葉を遮られてしまった。
このシルバとかいうプレイヤーは自分のロールに酔っている。
説明するのも面倒なのでアックスはさっさとデュエルを始めるためにメニューを開いた。
『シルバにデュエルの申請をしますか? YES/NO』
ポップアップメッセージが浮かびアックスはYESを選択した。
するとすぐに『シルバがデュエルを受諾しました』というシステムメッセージが返ってきた。
『バトルゾーンを展開します。準備はよろしいですか? YES/NO』
アックスとシルバがYESを選択すると二人を囲うように巨大なドーム状の不可視のバリアが展開された。
これはバトルゾーンと言ってこの中にデュエルの対戦者以外は入ることが出来ず、観戦者が攻撃魔法や回復魔法も使おうとしてもバリアに弾かれるようになっている。
この機能によってデュエルの乱入や試合の妨害を防ぐことが出来るのだ。
『それではカウントを数え終わり次第デュエルを開始します。10、9、8――』
アックスはカウントダウンを聞きながら、腰を落とした状態で断罪者の斧を両手で担ぎ、いつでも振り下ろせるカウンターの構えをした。
それに対してシルバはカウント3を数えたところで永続効果スキル「白虎の構え」を発動した。その効果は防御力を低下させる代わりに体重を軽くして移動速度を上昇させるといったものだ。
近接アタッカーがスピードで翻弄するのはタンクを相手にする場合の基本戦術の一つである。
『3、2、1――』
カウントが0になり、デュエルスタートというポップアップメッセージが頭上に上がった瞬間にシルバは地を蹴り、疾風となってアックスに襲いかかった。
タンクというのは防御力は高いが動きは遅く、アタッカーからしたら鈍重な亀に等しい。
デュエルでタイマン勝負をした場合、アタッカーが負けるはずがないというのがプレイヤー側の認識であった。
しかし――
物凄い速さで襲いかかってきたシルバに慌てることなく、アックスは冷静にスキルを発動させた。
アックスが発動させたスキルは「ギロチンフォール」という断罪者の斧を装備した時にしか使用できないエクストラスキルである。
スキルの発動によって断罪者の斧は真っ黒な影のようなエフェクトを纏ったかと思うと――
ガシャンと音を立てて柄が4倍に伸びて片手斧から長大な両手斧に変形した。
「せいっ!!」
そして、スキルのシステムアシストに動きを制御されたままシルバめがけて斧を全力で振り下ろした。
ヒュゴオォオオオオォオオオ
断罪者の斧が半円を描きながら空を切り裂くその音はまるで断末魔の悲鳴のようである。
加速された断罪者の斧の一撃は断頭台のギロチンとなって一直線に向かって来たシルバに振り下ろされる。
完全に武器の間合いを測り間違えていたシルバは避けることが出来ず――
「え?」
シルバは断罪者の斧の一撃によって真っ二つに両断された。
ヒットポイントバーはゼロになり、左右に分かれた灰色の死体が地面に転がっている。
「…………」
デュエルを見ていたプレイヤーは驚愕に目を見開いたまま言葉を発することが出来ない。
「ん? どうした? 俺の勝ちでいいんだよな?」
アックスは固まっているプレイヤーを見てどうしたのかと首を傾げた。




