第24話 不人気斧使い、金髪と銀髪のイケメンプレイヤーに絡まれる
カエデとリリーに話しかけてきたプレイヤーはチャラい感じの金髪のナイトと銀髪のグラップラーの二人組だ。
レアリティーの高い装備で一目で高レベルプレイヤーだと分かる。
二人の容姿は整った顔立ちにホスト風の髪型で双子なのかと思うくらい似ており、どっちがどっちだか分からなくなりそうだ。
どうしてイケメンのアバターを作ろうとしたらどいつもこいつも似たような容姿になるんだろうな……
アックスは双子のような二人を見ながらどうでもいい疑問が頭に浮かんだ。
「モンスターと戦うところを見させてもらったけど、君たち二人は初心者でしょ? 効率よくレベル上げ出来る狩り場を知ってるんだけど一緒に行かない?」
「行こうぜー?」
二人は白い歯を見せて笑い、気さくな感じでレベル上げを誘ってきた。
高レベルのプレイヤーがただの親切心でレベル上げの手伝いをしてくれる訳がない。
目的はおそらくクランの勧誘かナンパだろう。
周りを見るとアックスたち以外にも初心者らしきプレイヤーが北の平原でレベル上げをしている姿がちらほらと見受けられたが、男性アバターのプレイヤーばかりであった。
男性アバターの初心者にではなく、わざわざこちらに声をかけてきたところを見るとナンパの確率が高そうである。
「えっと? どうしよう?」
「アックス先輩……」
カエデとリリーは突然話しかけてきた二人にどう返事をしたらいいか分からず、困り顔でアックスに助けを求めた。
「誘ってもらって申し訳ないが、俺たちは自分たちのペースでレベル上げをするつもりだ」
カエデとリリーに代わって高レベルプレイヤー二人に返事をするアックスであったが――
「俺が壁をやるから簡単にレベルが上がるぜ?」
「装備も初期装備じゃなくてもっと良いものを買ってあげるよ」
金髪と銀髪はアックスを無視してカエデとリリーに話しかける。
まるでアックスの姿が目に映っていないかのようだ。
そんな訳はないのだが。
「おい、無視すんな」
アックスが金髪の肩を軽く叩くと、わざとらしく今頃になってやっと気づいたかのような反応をして振り向いた。
「ん、あれ? もしかして斧さんがこの子たちのレベル上げを手伝ってた?」
「ああ、俺が教えているから手助けは必要ない」
この二人はレベル上げの手伝いをすると言っているが、やろうとしているのはパワーレベリングである。
パワーレベリングとは高レベルプレイヤーが初心者のレベル上げの手伝いをして通常よりも早いスピードで経験値稼ぎをする行為だ。
タンクである高レベルナイトがモンスターのヘイトを集め、初心者は防御のことを考える必要なく攻撃だけ行えるため、楽にレベル上げが出来る。
パワーレベリングをすれば楽にレベルが上がるがその反面、プレイヤースキルが未熟なまま高レベルに到達してしまうため、アックスはこの行為を好ましく思っていなかった。
「教えるって、斧さんはこの子たちが戦うのを見てただけでしょ。まあ、斧さんが壁をするのは難しいのかもしれないけどな」
「それに引きかえ俺たちはこの子たちと同じナイトとグラップラーで斧さんよりも上手く教えられるし、壁もしてやれる。後は俺たちに任せてくれないか?」
ナイトがタンクとして優れているという自信があるのだろう。
そう言って金髪と銀髪はアックスを小馬鹿にするように笑った。
別にVITではなくSTRにステータスを振っているアックスでも低レベルの盾くらいなら出来るのだが、やろうと思わないだけだ。
最近の新規プレイヤーはレベル上げを面倒くさがり、お手軽なパワーレベリングを好み、過程を軽視する傾向がある。
弱いモンスター相手に無双して爽快感だけ得たいというプレイヤーが多いためだ。
しかし、アックスは昨日オウカに諭されたようにアイテムをゲットしたり、レベル上げをしたりといった過程の楽しさを大事にしたいと考えていた。
「いや、俺には俺の考えがあるからパワーレベリングは結構だ」
「俺の考えって、ウォーリアにこの子たちを指導出来るとは思えないけど?」
「それに斧さんはクランにも所属してないじゃないか。俺たちは聖天騎士団っていうクランに所属してるんだけど知ってる? けっこう大きいクランなんだけど。もしこの子たちが俺たちのクランに入るならクランメンバーでレベル上げのサポートをしてやれる」
聖天騎士団……たしか最近勢力を増してきている新規プレイヤーの獲得に力を入れたクランだ。
パワーレベリングを推奨しているクランでもある。
「別にクランに所属していなくても教えることは出来る」
「さて、どうだかね。斧じゃあどこのクランにも入れてもらえないからクランの恩恵が分からないのかもしれないけど」
クランに所属していないアックスを見て二人は鼻で笑った。
クラン名を出して威圧すれば引くと思ったのだろうが、引かなかったアックスに対して言葉と表情の端々に苛立ちが現れ始めている。
正直なところ、もう俺たちのことはほっといてくれないかな……
面倒だと思いながらもアックスが言い返そうとしたその時だ――
「さっきから聞いていれば勝手に話を進めないでよ! 壁とかパワーレベリングとかクランとか何なの? よく分からないけどわたしたちにあなたたちの手助けは必要ない。余計なお世話よ!」
「ちょっと、カエデちゃん……」
アックスと二人の高レベルプレイヤーの言い合いに割って入ったのはカエデであった。
金髪と銀髪のアックスを馬鹿にしきった態度に我慢出来なかったようだ。
カエデの憤る姿を見て高レベル二人は肩をすくめた。
「君は初心者で良く分かっていないのかもしれないがウォーリアというのはDTOで絶滅寸前の不人気職なんだよ。俺たちは親切心から彼に代わって君たちのレベル上げを手伝ってあげようと思っただけだ」
「不人気?」
「ああ、ウォーリアは全クラス中ダントツで不人気のタンクとして欠陥のあるクラスなんだよ。まあ、はっきり言ってウォーリアはパーティーのお荷物。ウォーリアよりもナイトの俺の方が頼りになるぜ」
「君たちはもしかしてこのアックスというこの男に騙されているんじゃないか? なんか見た目も怪しいし。こんな不審者とレベル上げをしないで俺たちと一緒にレベル上げをしないか?」
なんというか言いたい放題である。
どうやら金髪と銀髪はアックスのことを初心者を騙している詐欺師か何かだと疑っているらしい。
まあ、女の子の初心者二人にクランに所属していない高レベル斧使いの組み合わせはアンバランスで無理もないことではある。
アックスは金髪と銀髪の二人に自分たちはリアルの知り合いで一緒にプレイをしているのだと説明しようと思ったのだが――
「お荷物って何よ。それに不審者? あんたたちなんかよりよっぽど強くて頼りになるんだからっ!」
高レベル二人に兄を馬鹿にされてカエデは激怒した。
しかし、それに対して金髪と銀髪は笑いを堪えながら互いに目を見合わせ――
「ぷっくくくっ」
「あははははっ」
我慢出来ずに笑い出した。
「な、何がおかしいのよ」
「いや、ウォーリアが俺たちに勝てる訳ないだろと思ってね」
「そんなの分からないじゃない」
「いや、分かるよ。ウォーリアの攻撃は遅いから避けやすいし空振りばかり、タンクとしては防御力が低くて役立たず。グラップラーの連続攻撃は一瞬で敵のHPを削り取るし、ナイトの防御は鉄壁で難攻不落。ウォーリアが俺たちに勝てる道理はない。なんならデュエルをしてみるかい?」
自分たちの腕に相当の自信があるのだろう
金髪と銀髪の二人はせせら笑いながらアックスにPvPを提案してきた。
「お兄ちゃん……」
カエデはアックスにだけ聞こえるような小さな声で呟き、期待するようにアックスの顔を見た。
金髪と銀髪はなぜカエデとリリーが不人気斧のアックスと一緒にいるのかは分からないが、この場でアックスを叩きのめして自分たちの強さを見せつければ目を覚まして自分たちについて来ると考えているのだろう。
アックスは別に金髪と銀髪と戦う必要はないし、無視してこのままカエデとリリーとレベル上げをすればいいと思った。
しかし――
「いいだろう。ちょうど二人にナイトとグラップラーの戦闘を見せたいと考えていたところだ」
アックスは金髪と銀髪のデュエルの提案を受け入れた。
妹はアックスの代わりに自分のことのように怒ってくれた。
ここで期待に応えなければ兄としての矜持が許さない。
「ごめんなさい……」
カエデは今頃になって自分のせいでとんでもないことになってしまったと思ったのか、泣きそうな表情でアックスに謝った。
「心配するな。大丈夫だから」
アックスは安心させるようにカエデの頭の上にポンと手を乗せて笑って見せた。
「お兄ちゃん、頑張って……」
「まかせろ」
やれやれ、妹の前でかっこ悪いところは見せられないな――
こうしてアックスは高レベルプレイヤーのナイトとグラップラーとデュエルをすることとなった。




