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第21話 待ち合わせの場所に行こう

 ここは学校の教室。

 今は昼休みで周りの同級生は友達同士で会話を楽しんだり、携帯端末のアプリで遊んでいたりと好きなことをしている。

 冬馬は携帯端末をポケットから取り出す。


 今朝は秋葉が口を聞いてくれなかったので今日のDTOの予定について全く聞けなかった。

 秋葉と百合の二人が何時にログインするつもりなのか聞いておいた方がいいだろう。


 そう思って冬馬が自分の席で静かに妹にメールを打っていると――


「とうまー」


 名前を呼ばれて顔を上げるとそこには同じクラスの友人である山田がニヤニヤしながら立っていた。


「なんだ、山田か」

「山田で悪かったな。冬馬、さっきから何してんの?」


 山田は中学の頃からの同級生で中学時代は同じバスケ部に所属していた。

 今は冬馬と同じ帰宅部でアルバイトをして小遣い稼ぎをしている。


「メールだ」

「彼女とメールでもやってんの? いつのまに出来たんだ?」


 冬馬に彼女はいない。

 今日は暇を見つけては妹に謝罪のメールをこまめに送っていたので、その様子を見て勘違いしたらしい。


「彼女じゃない。妹だ」

「冬馬に妹なんていたっけ? 中学にいなかっただろ」

「妹は私立のエトワール女学園中等部の二年生だからな」

「へぇ、エトワールってお嬢様学校じゃん。妹って可愛い?」

「まあな」


 妹として可愛いとは思うが世間一般で可愛いかどうかというと良く分からない。


「妹の写メとかある?」

「たしか、前に送られてきたのがあったような……」


 前に秋葉が友人たちと遊園地に行った際に携帯端末のカメラで撮影した画像を送ってきていたはずだ。

 携帯端末に保存されていた画像データの中から探し出し、山田に見せてやった。


「おおっ、めっちゃ可愛いじゃん。俺に紹介してくれよ」

「お前にだけは絶対に紹介するつもりはない。それに妹はまだ子どもだ」

「えー、いいじゃんか。俺らと2~3歳しか違わないだろ。お願いしますよー、お兄さん」

「誰がお兄さんだ。死ね、ロリコン」


 どうやら妹が好みのタイプだったようなのだが、山田には大切な妹を任せられない。

 冬馬が妹の紹介を断ると山田はがっくりと肩を落として残念そうな表情をした。

 しかし、すぐに表情は元のにやけ面に戻り「ところで」と話題を変えてきた。


「最近、ストバスやってるんだけど、冬馬もやらないか?」

「ストバス?」

「ああ、ストリートバスケ、ストバスだ」


 山田から話を聞くと大会のようなものがあるらしく、チームを作ってそれに向けて練習しているらしい。

 それで冬馬にチームに入ってほしいとのことであった。


「人が足りないのか?」

「いや、人は足りてんだけど。冬馬も帰宅部だし暇してるならどうかなと思ってな」


 ストバスか……

 趣味として久しぶりにバスケをやるのも悪くない。

 DTOの休止、もしくは引退を考えていたのでストバスをやることは可能だ。

 しかし、妹たちがDTOに慣れるしばらくの間は面倒を見てやるつもりである。

 面倒を見終わった後にDTOを引退すれば自由な時間が増えるが、それがいつになるかはまだ分からない……


「うーん……返事はすぐにしないといけないか?」

「いや、返事は別に急いでない。また声をかけるから考えておいてくれ」

「ああ、悪いな」


 冬馬がそう言ったところで授業開始の予鈴が鳴り、山田は自分の席に戻っていった。


 退屈な授業が終わり、携帯を見ると妹からのメールを受信していた。

 中身を確認すると秋葉はもう学校の授業が終わったそうで、一足先にログインして百合と二人でゲーム内の街を見て回るとのことであった。

 それでゲーム内での待ち合わせ場所と時間を決めようと書かれていた。

 ゲーム内のプレイヤーネームは秋葉はカエデで百合はリリーだそうだ。

 カエデは秋の紅葉の一つである楓から、リリーは自分の名前である百合を英語にしただけだ。

 人のことを言えないが二人とも安直なネーミングである。

 冬馬は自分のプレイヤーネームと待ち合わせ場所と時間を打ち込んで返信した。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「ただいまー」


 放課後になり、家に帰った冬馬は玄関で帰ったことを知らせる言葉を習慣で口にした。

 しかし、返事をする者は誰もいない。

 いつもであれば秋葉が家に先に帰っていれば「おかえり」と返事をしてくれるのだが、その秋葉は自分の部屋でDTOにログインしているはずだ。

 まるで家の中は冬馬しかいないかのようにとても静かだ。

 時間を確認するとそろそろ秋葉達との待ち合わせの時間である。

 冬馬は自分の部屋に行き、荷物を置いてパソコンの電源を立ち上げた。


「…………」


 パソコンが完全に立ち上がるまでに少しだけ時間がかかる。

 その間にトイレなどを済ますことにした。

 トイレで用を足して自分の部屋に戻る途中、冬馬は秋葉の部屋の前で立ち止まった。


「本当に家にいるんだよな?」


 今、秋葉はDTOにログインしているはずだが、家の中があまりに静かすぎて本当に部屋にいるかどうか気になり確認することにした。

 ドアノブを回すと鍵はかかっておらず、扉はあっさりと開いた。

 部屋を覗くと秋葉はダイバージェンスギアを頭に被り、Tシャツに短パンという無防備な姿でベッドに横になって仮想世界にダイブ中であった。


「不用心な奴だな。もし俺が強盗だったりしたらどうするんだ?」


 近頃、仮想世界にログイン中に強盗の被害に遭うという事件が増えている。

 そういった被害の対策として不法侵入者の反応があった場合、ダイバージェンスギアと連動して自動で仮想世界からログアウトするセンサーが販売されていたりする。

 設定次第でログアウト後に警報を鳴らしたり、警備会社などに連絡が行くように出来るそうだ。

 ちなみに警報のような大音量が鳴り響けば強制ログアウトすることになるが、脳に負担がかかるという理由からセンサーが不法侵入者を感知してログアウトした後に警報が鳴るようになっている。


「今度買ってくるか」


 冬馬は秋葉に近づき、ダイバージェンスギアのサイドにあるボタンを押した。

 TALKと書かれている部分のLEDランプが赤から緑に切り替わると冬馬はカメラに向かって話しかけた。


「秋葉、俺だ。今、家に帰った」


 すると秋葉は寝たままで口元も動いていないというのに、ダイバージェンスギアに付属しているスピーカーの方から返事が返ってきた。


「あ、お兄ちゃんだ。もしもーし、お兄ちゃん。聞こえる?」

「秋葉、聞こえてるよ。ただいま」


 DTO内の秋葉にはダイバージェンスギアに取り付けられたカメラが映しだした部屋の中の様子が見えているはずだ。


「お兄ちゃん、おかえりー。わたしたちもう待ち合わせ場所にいるよ。冒険者広場の噴水前でいいんだよね」

「ああ、俺も今からそっちにログインする。ちょっと待っててくれ」

「オッケー。待ってる。あと……わたしの身体にエッチなことしたらお金払ってもらうからねっ!」

「しねえよっ!」


 昨夜のことがあり、全く信用されていない冬馬であった。


 いや、しかし、お金を払えばエッチなことをしていいのか。

 兄として妹のことが心配になってくる。

 今度じっくりと話し合う必要があるようだ。


 秋葉との会話を終えた冬馬はため息を吐きながら自分の部屋に行き、クライアントを起動させてDTOの世界に意識をダイブさせた。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


「さてと、待ち合わせ場所に向かうか」


 宿屋で目を覚ましたアックスは早速待ち合わせ場所に向かった。

 王都の中央にある城から少し北にある冒険者広場には大きな噴水があり、待ち合わせ場所の定番になっている。

 アックスが噴水前に到着すると秋葉ことカエデと百合ことリリーは探すまでもなくすぐに見つかった。

 何故なら二人とも現実世界の外見とそっくりだったからだ。

 現実と違う部分といえば髪と瞳の色くらいだ。

 カエデは橙色の髪と緑色の瞳、リリーは薄い水色の髪に金色の瞳である。

 二人はまだアックスに気づいていない。

 アックスが手を振ると二人と目が合った。

 しかし二人はサッとすぐに目をそらす。


「ん?」


 気づいていないのか。

 まあ、現実の姿とは似ても似つかないからな。

 もう少し近づけば頭の上のプレイヤーネームで分かるだろう。


 そう思ったアックスは二人に近づいたが、二人は近づいた分だけ逃げるようにススっと移動した。


「おい、何で逃げるんだよ」

「あの、私たち人と待ち合わせしてるんで……」

「お兄ちゃん早くこないかなー……」


 二人は目の前の斧を背負った黒髪無精髭の大男が冬馬だと気づいていない。


「二人とも、俺だ。冬馬だ。プレイヤーネームはメールで伝えただろ」

「えっ、お兄ちゃん?」

「冬馬先輩?」


 アックスは少しだけ屈み、自分の頭の上のプレイヤーネームを指差す。

 すると二人はやっとアックスが冬馬だと判り、口を半開きにして驚いていた。


「冬馬先輩がおじさんに……」

「お兄ちゃん何その姿。リアルの姿と全然似てないじゃない……」

「お前たちこそ、その姿は何だ。どんだけ現実の自分の姿が好きなんだよっていう」

「別にいいじゃない。二人でリアルの姿にどれだけ似せられるか試して遊んでたのよ。お兄ちゃんもそんな変なおっさんやめてリアルの姿そっくりに作り直してっ」

「いや、作り直さないし」

「えー、やだー」

「えー、やだーじゃない。このアバターの格好良さが分からないとは二人はまだまだ子どもだな」


 なぜ、コンプレックスを抱いている現実の自分とそっくりのアバターにしなければならないのか。

 アックスのアバターは自分の理想の姿を再現したものであり不満などあるはずもない。

 それにDTOは1アカウントにつき1キャラしか作ることが出来ない。

 もし作り直すのならばアックスをデリートする必要がある。

 そのことを説明し、流石にキャラデリートは無理な相談だと言うと二人は不満そうな顔をした。


「あと、DTOの中で俺のことをリアルの名前で呼ぶのは禁止だ。俺もお前たちのことはカエデとリリーと呼ぶからな」

「はーい。ううう……お兄ちゃんがおっさんに……」

「はい、分かりました。アックス先輩ですね。今日もよろしくお願いします」

「ああ、よろしくな」


 二人はまだDTOでの姿に抵抗があるようだがそのうち見慣れるだろう。

 改めて挨拶を終えてから、アックスは二人の装備を見た。

 二人とも初期装備の布のチュニックを装備しているが武器はそれぞれ違うものを装備している。


「カエデはグラップラーで、リリーはナイトか」


 カエデの腰の両側にはアームドアームという木製の大きな籠手、リリーは腰に木剣を差して背中に木の盾を背負っている。


「冬馬せんぱ……じゃなくてアックス先輩はウォーリアなんですね。ログインしてから初めて斧を装備している人を見ました」

「……まあ、斧は不人気だからな」


 嘘をついてもしょうがないので正直に答える。

 それにしても初めて見たって……不人気にも程があるだろう。

 DBOの運営はそろそろウォーリアの不人気をどうにかするべきではないだろうか。


「お兄ちゃん、見て見て。このアームドアームっていう武器面白いんだよ」


 カエデはそう言ってアームドアームに腕を突っ込んで装備してみせる。

 アームドアームは籠手の形をしているがその手の部分は人間の手の大きさの2倍程である。

 カエデはアームドアームの大きな手のひらを握ったり開いたりしてアックスに見せた。

 自分の思った通りに動くのが面白いらしい。


「アームドアームは指の動きに連動して動くようになっている。レベルが上がればそのうちロケットパンチみたいなスキルも覚えるぞ」

「おおっ、ロケットパンチ! 楽しそう!」


 カエデは女の子なのにレトロなロボットアニメを見るのが好きという変わった趣味を持っており、ロケットパンチという言葉を聞くと鼻息を荒くして興奮した。


「二人はもう街を見終わったのか? あと、メインストーリーは進めたか?」

「はい、見終わって、先程冒険者ギルドという場所で冒険者登録をしてモンスター討伐の依頼を受けて来たところです」

「後はモンスターと戦いに行くだけなんだけどお兄ちゃんが来るのを待ってたんだよ」


 DTOはメインストーリーを進めていくと冒険者ギルドで冒険者登録を行い、戦闘のチュートリアルを兼ねた初依頼を受けるようになっている。


「それじゃあ、後は実戦を残すのみだな。それじゃあ早速依頼をこなしに行こうか」

「おおー」

「はい」


 こうしてアックスは二人を連れて街の外の北の平原の狩り場に向かった。

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