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第20話 回想 わたしがDTOを始めた理由(妹視点)

 わたしこと小野秋葉にとって兄の冬馬は主人公(ヒーロー)であった。

 二人で外を歩くとよく姉妹に間違われるような見た目の兄であったが、見た目と違って中身は男らしくてかっこいい。

 わたしはそんな兄が自慢であり、大好きであった。

 兄は中学生になるとバスケットボール部に入り、身長が低いながらも持ち前の運動神経であっという間にレギュラーになってしまった。

 やはり兄はすごいなと思った。


 ある日のこと、わたしは内緒で兄の出場するバスケットボールの試合を応援しに行くことにした。

 いきなり応援に現れたら兄はきっと驚くことだろう。

 驚く顔を想像すると胸がワクワクした。

 試合会場に到着するとわたしは兄の姿を探した。


 兄はどこだろうか……


 観客席からキョロキョロと視線を巡らせると兄の姿はすぐに見つかり、ちょうどこれから試合前のウォーミングアップをするために他のメンバーと共にバスケットコートに入るところであった。


「あ、お兄ちゃ……」


 わたしは声をかけようとしたのだが、兄は普段見たことのない真剣な表情をしていて声をかけるのをためらわれた。

 兄の邪魔をしてはいけない。

 そう思って声をかけるタイミングを逃し、結局そのまま試合は始まってしまった。


 兄は試合で何度も得点を決めて活躍したが、接戦で1点差で負けていた。

 しかし諦めたらそこで試合は終了である。

 味方が必死にパスをつないで、試合終了間際に兄にボールが回ってきた。

 時間はもう残り少ない。

 兄は相手の学校の選手にブロックされながらもシュートを放った。

 これが入れば逆転勝利である。


 お願いだから入って――


 試合終了のブザーの鳴る中、ゴールリングに向かって飛んでゆくボールを見つめながらわたしは祈った。


 しかし――


 ボールはゴールリングに弾かれてバスケットコートを転がった。

 こうして兄の中学最後の試合は終わってしまった。

 家に戻り、落ち込んでいるであろう兄を励まそうと思って兄の帰りを待っていたのだが――


「ただいまー」


 帰ってきた兄は落ち込んでいるかと思いきや意外なことにいつもと変わらない様子であった。


「おかえりなさい。お兄ちゃん、試合残念だったね」

「あれ? どうしてそれを?」

「試合を見に行ったんだよ」

「そうか、せっかく見に来てくれたのに期待に応えられなくて悪かったな」


 兄はバツが悪いといった感じで頭をかいてごまかすように笑った。


「試合には負けちゃったけど、お兄ちゃん活躍してかっこよかったよ」

「そっか。ありがとな」


 そう言って兄はわたしの頭の上に手をポンと乗せて撫でた。


「次は高校でレギュラー目指して頑張ろうよ」

「んーそうだな……高校かぁ……」


 わたしは高校でもバスケットボールを続けるものと思って言ったのだが……

 兄が曖昧な返事をしたので、わたしはおかしいなと思って首を傾げた。

 まあ、今日で中学最後の試合が終わりで気持ちの切り替えが出来ていないのだろう。

 そう思っていた。


 しかし――


 高校に入学した兄はバスケットボール部に入らなかった。

 暇を持て余していたかと思うと新しいパソコンとVRゲームをプレイするためのダイバージェンスギアを購入して部屋に引きこもってしまい、ゲームばかりするようになってしまった。

 わたしが家に帰っても兄は部屋の鍵をかけてゲームをしていて全然構ってもらえず面白くない。

 兄がやっているゲームのタイトルはたしか「ドラゴンテイルオンライン」とかいうVRMMORPGだ。

 そんなに面白いのだろうか?

 わたしには兄の行動は中学最後のバスケットボールの試合で負けたことに対する現実逃避のように思えてならなかった。

 中学最後の試合で負けてから兄は変わってしまった。

 兄のことは今でも大好きであるが、出来れば兄には以前のようなヒーローに戻ってほしい。

 わたしはそう願っていた。


 一年が過ぎたある日のこと、友人の百合がダイバージェンスギアとゲームソフトを購入したと言い出した。

 タイトルはドラゴンテイルオンライン。兄がやっているVRMMOと同じである。


「へえ、百合ちゃんもDTOを始めるんだ?」

「アキちゃんのお兄さんがDTOにハマってるっていう話を聞いて、検索してPVを見たらやりたくなったんです」

「これでお兄ちゃんに続いて百合ちゃんまで……DTOはわたしから全てを奪っていくわ。しくしく」


 わたしは兄が全然構ってくれないという不満をよく百合に相談していた。

 しかし、そのせいで百合はDTOに興味を持ってしまったらしい。

 百合がDTOを始めたら兄と同じように構ってくれなくなるだろう。

 わたしはげんこつを目の下に当てて泣く真似をした。

 百合はそれを見て笑う。


「良かったらアキちゃんもDTOを始めませんか?」

「わたしも?」

「はい。ブラコンのアキちゃんも大好きなお兄さんと一緒に遊べて一石二鳥ではないでしょうか?」

「なるほど……わたしも始めようかな」


 百合の提案はものすごく良いものに思えた。

 兄がDTOで何をしているのか興味もある。

 しかし、一つだけ否定しておこう。


「わたしは別にブラコンじゃないからっ!」

「否定しなくてもいいのに」


 こうしてわたしはドラゴンテイルオンライン――DTOを始めることになった。

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