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第19話 妹は成長期

 DTOの世界からログアウトした冬馬が時計を見ると深夜の1時であった。


 少しだけインするつもりが面倒ごとに巻き込まれたせいで結構時間がかかってしまった――


 仮想世界にログインしている間、現実世界の生身の身体はまるで眠っているかのように見えるのだが、脳は活動しているためきちんと睡眠を取らないと睡眠不足に陥ることになる。

 冬馬は20時間以上ログインしてソロでダンジョンをクリアした後に妹の買い物に付き合い、その後またDTOにログインしたので流石にこれ以上起きているのは限界である。

 寝る前に歯を磨くために妹の秋葉の部屋の前を通った冬馬であったが――


 もしや、まだログインしてたりしないだろうな?


 そう思い、妹の部屋を覗くと、秋葉は冬馬が部屋を出た時と同じ態勢でベッドに横たわっていた。

 秋葉の頭のダイバージェンスギアはLEDランプを点灯させてデータのやり取りを行っており、ログアウトしないで3時間もキャラクタークリエイトし続けていることになる。

 自分のアバターにこだわって時間がかかる気持ちは良く分かるが、明日は学校があるので流石にログアウトさせて睡眠を取らせた方がいいだろう。

 自分のことを棚に上げて冬馬は秋葉を起こすことにした。

 秋葉のダイバージェンスギアはサイドのスイッチを押すと現実世界からVR世界にいる状態の人間に話しかけることが可能である。


 冬馬は電気をつけずにLEDランプの明かりを目印に薄暗い部屋の中をそのまま進んで秋葉に近づいた。

 ところが――


「うおっと!?」


 床にあった何かにつまづいて冬馬はバランスを崩した。

 冬馬がつまづいたそれはダイバージェンスギアの機器をセットする際にコンセントが足りなかったために取り付けたタコ足配線だ。

 転びそうになる冬馬であったが足を前に出して踏ん張り、反射的に秋葉がいる方向に両手を突き出して転ぶのを阻止する。

 ホッと安堵する冬馬であったが……

 両手を見ると何故か秋葉の両胸を鷲掴みしているではないか。

 この柔らかい感触は……

 DTOでうっかり触ってしまったホルンの胸と全く同じ感触である。

 キャラモデリングの細部にまでこだわった作りこみに思わず感心してしまった。


 しかし、あれだな秋葉の奴いつのまに……

 成長期の中学二年生の妹の胸は意外と大きくしっかり二つの山を作っていた。

 妹よ。成長したな……


 いやいやいやいや。ゆっくりと妹の胸の成長を確認している場合ではない。

 この状態で秋葉がログアウトしてしまうと誤解を招く可能性が非常に高い。

 非常にまずい。

 冬馬は秋葉が接触による衝撃で強制ログアウトしないことを祈りながらゆっくり手を離そうとした。

 しかし――


「お兄ちゃん?」


 秋葉はパチリと目を開き、冬馬と真正面で目が合ってしまった。


「ああ、すまん起こしてしまったか。声をかけてから起こそうと思ったんだけどな。キャラクリもいいけど明日は学校だろ? もう寝ろ」


 平静を装って兄の威厳を見せながら妹に話しかける冬馬であったが――


「きゃあああ!? お兄ちゃんのえっち! なんで胸触ってるのよ!」


 平静を装って普通に話しかけてみたがやっぱり駄目だった。

 秋葉は冬馬を突き飛ばし、部屋の電気をつけ、顔を真っ赤にして怒りながらこの状況説明を求めた。


「そ、それは……」

「それは?」


 これは事故である。

 タコ足配線につまづいてうっかり触ってしまった。

 これが真実であるが嘘っぽく聞こえないだろうか?

 信じてもらえないかもしれない。

 下手をすると妹に欲情して妹の胸を揉む変態兄のレッテルを貼られて一生口を聞いてもらえなくなるかもしれない。


 冬馬は混乱する頭で妹に対して欲情していた訳ではないことを説明しようとした。


 両胸、二つの山……

 そ、そうか……!?


「それはだな……そこに掴みやすい二つの山があったからだッ!」


 冬馬は満面の笑みを浮かべて登山者の哲学のように答えた。


「訳わかんないし! 部屋から出てけ! 変態!」


 妹はプンスカ怒って冬馬を部屋から叩き出した。


 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 へそを曲げた妹の機嫌は翌朝になっても直っておらず、学校に向かう時間になっても口を聞いてもらえなかった。

 冬馬は授業の合間の休憩時間中に何度も秋葉にメールを送り、なんとか誤解を解いて許してもらった。

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