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第18話 オウカにお金を借りよう

 店内の商談用のテーブル席に座ってオウカと向かい合い、森でプレイヤーキラーに襲われていた初心者を助けた話をするとオウカは呆れながらため息をついた。


「伐採した木で押しつぶすとか相変わらず滅茶苦茶な奴だな。防具を装備してたらもっと楽に勝てただろうに」

「いや、だって、耐久度が限界で今にも壊れそうだったし。勝てたんだからいいだろ」


 もし負けていたらランダムで装備を奪われていたかもしれないリスクがあったのだが、アックスは能天気に答えた。


「しかし、なんだな。もしかしたら報復があるかもしれないな」

「報復?」

「ああ、フィールドで戦闘するときはPKに注意したほうがいい。あとそのペロとかいう奴のことをネットで調べておけ」

「いや、俺はインターネットでそういう情報を見ないようにしている。襲われたらまた返り討ちにしてやるまでだ」


 オウカはアックスに報復があるかもしれないので用心するように言った。

 しかし、アックスは以前クランを脱退する切っ掛けになった動画での晒し以降、ネットでプレイ動画などは見ないようにしていた。

 攻略サイトなどの情報サイトや匿名掲示板も見ない。

 見るのはDTO公式サイトからのアップデート情報くらいだ。

 ゲーム外で色々言われているのを見ると不快感しか沸いてこないので、意図的に情報をシャットアウトするようにしていた。

 どうせ、今回もゲーム外で中傷や暴言を吐かれているかと思うと、わざわざ調べようという気は起きない。


「見ない……か。アックスお前、もしかしてまだグローリーデイズが解散したのは自分のせいだと思っているのか? 誰もお前のせいだなんて思っていないぞ」


 グローリーデイズとはアックスが以前所属していたクラン名である。

 10名ほどの小規模のクランであったが、今は解散して仲が良い者同士で新しくクランを作り直したり、別のクランに入り直したりと皆バラバラになってしまった。

 オウカやクランメンバーは解散はアックスのせいではないと言ってくれたが、切っ掛けがアックスだったのは間違いない。

 アックスはクランが解散したのは自分のせいだと責任を感じていた。


「ネットで情報を検索しないこととグローリーデイズの話は関係ないだろう……」

「……まぁいい、お前が倒したPKについては俺が調べておいてやろう。あのPKのせいで客が寄りつかなくてな。倒してくれた礼だ」


 客ならいつもいないだろとツッコミをいれようか迷ったがやめた。

 オウカはぶっきらぼうで偏屈なプレイヤーに見えるが実は細かな気配りが出来るプレイヤーである。

 今回は大人しくオウカの気持ちをありがたく受け取ることとしよう。


「すまん。よろしく頼む」

「気にするな」


 会話が途切れ、気まずい空気が流れる。

 話題を変える意味合いも兼ねてアックスは本題のお願いをすることにした。


「……あっ、そうだ。お願いついでに装備の修理を頼む。あと金を貸してくれ」

「まぁ、修理くらいなら別にいいが……金を貸してくれとはどうした?」

「今、財布の中身がスッカラカンなんだ。明日、俺の妹とその友人がDTOを始めることになったんだが、このままだと何もしてやれない。10,000シュテルくらいでいいんだが……」


 10,000シュテルは金額としてはたいした額ではない。

 しかし、オウカは何故か少し考えてから口を開いた。


「なるほど……だが断る」

「えっ?」


 予想外の言葉にアックスは驚いた。

 オウカはアックスの数少ないフレンドであり親しい仲だ。

 今までも金を貸してもらったことはある。

 ゲーム内で生産職をしているオウカならはした金のはずなのだが……


「金を貸すつもりはない」

「もしかして俺がリアルの話をして気を悪くしたのか?」


 オウカはリアルの話をするのが嫌いなロールプレイヤーだ。

 自分の妹の話をしたので、それがオウカの気に障ったのかとアックスは思った。


「違う。俺はリアルのことをあれこれと詮索したりする奴や、出会い厨が嫌いなだけで別にリアルの話がNGな訳じゃない」

「ならどうして、金なら近いうちに必ず返す。あ、そうだPKが落とした武器もあるぞ。それを買い取ってくれないか?」


 アックスはペロが落とした弓をインベントリから取り出して見せたが、オウカは首を振った。


「うちは武器の買い取りをしていない。アックス、お前は俺が貸した金を使ってお前の妹たちに何をするつもりだった?」

「それは、武器や防具、あとは回復アイテムを買ってやったりだな……」

「お前はそんなことをされて嬉しいか?」

「それは……」


 アックスは自分が初心者であったならばと考え、アイテムを買ってもらっても嬉しくないと思った。

 確かにオウカの言う通りだ。

 なんの苦労もせずに施しを受けて手に入れたアイテムを嬉しいとは思わない。

 最強の武器を手に入れたとしてもその武器に対して思い入れはなく、ただの鉄の塊と変わりない。

 人によっては装備を自慢できれば過程などはどうでもいいのだというプレイヤーもいるのだろうがアックスはそうではなかった。


「俺は装備に見合わない初心者に高級装備を与える行為を良いことだとは思わない」


 オウカの言葉に目が覚め、アックスは自分がやろうとしていたことを恥ずかしく思った。


「すまん、オウカ……俺が間違っていた。つい、妹たちに俺と同じ失敗をして欲しくなくて間違った方法を選ぼうとしていた……俺は自分なりの方法で妹たちにDBOの楽しみかたを伝えようと思う」

「ああ、頑張れよ。あと、俺は金は貸さないと言ったが協力しないとは言ってない。制作に必要な素材を用意出来たらレベル相応の装備を作ってやる。一度ここに連れて来い」


 アックスはオウカの心遣いに感極まり、感謝の気持ちから抱きついた。


「オウカありがとな! 何から何まで本当にありがとう!」

「や、やめろ抱きつくな! べ、別にお前のためじゃない。お前の妹とその友人とやらのためだっ!」


 赤毛の刀を腰に差した大男に無精髭の斧を背負った裸の大男が抱きつく図の完成である。

 そして良くないことがタイミング悪く起こるのはもはや必然というものだ。

 店の扉が開く音がして一人のプレイヤーが店に入ってきた。


「いらっしゃいませっ! オウカの武器防具店にようこそっ!」

「すいませーんっ……えぇ!?」


 いつも通り、亜麻色の髪のメイドNPCのホルンが元気な入店挨拶で客を迎えたのだが――

 店に入ってきたプレイヤーはホルンに声を掛けようとして、その途中、店主に抱きつく裸の大男を見て固まった。


「オウカ本当に感謝している! 愛してる!」

「やめろ! 客が見てる!」


 プレイヤーはハッと我に返って後ずさりした。


「し、失礼しました……ま、また今度来ます……」

「ありがとうございますっ! またのご利用お待ちしておりますっ!」


 大きな誤解をしたままプレイヤーは店から逃げるように出て行き、ホルンは何事もなかったかのように見送った。


「おい、せっかくの客がお前のせいで帰ってしまったじゃないか!」

「すまん……」


 この後、アックスは装備を修理してもらい、再び宿屋にてログアウトした。


 この日、魔狼の森の武器防具屋の店主であり、「鉄血の侍」の二つ名を持つオウカがゲイであるという噂が流れた。

 そして誤解が解けるまでに一か月かかるのであった。

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